環境問題に取り組むお店の活動を取材レポートします。
食の安全が叫ばれる昨今、国産の旬の食材で勝負する飲食店が増えてきました。2009年はそこから一歩先、環境保全に対する従業員の高い意識が、お店選びの判断基準になることは確実です。省エネやゴミ削減など、お客様の目が届かない裏側へも目を向ける《アウラ・クッチーナ》で、今すぐ始められる身近なエコ活動を探りました。
東京都/西新宿
新宿中央公園に程近い路地に立つ、2005年オープンのイタリアンレストラン。オーナーシェフである白井さんが選び抜いた、季節の食材を使った料理が楽しめます。やわらかな照明が作り上げる、その落ち着いた大人の空間は、常連のお客様に「秘密にしておきたい隠れ家」として愛されています。

無農薬ハーブをレストランで栽培
香り高い良質のハーブを完全無農薬で栽培し、お客様へお出ししています(写真はイメージ)。将来的には屋上へ移すことで、屋上緑化による断熱効果が期待できます。

ゴミ削減・省エネへの高い意識
粉砕したカキの殻や野菜くずをハーブの堆肥に使用するなど、ゴミの削減に積極的。また、スタッフ全員が高いエコ意識を持ち、ガスや電気の無駄を省くことに取り組んでいます。
ローズマリーはハーブ園から譲り受けた良質な種を育てています。手を触れただけでも香る葉に、強い生命力が感じられます。
バジルの自家製シャーベット。口に近付けた瞬間にふわりと漂うバジルの香りに、お客様は皆ビックリするそう。
元気な植物のチカラを、人間のエネルギーに変える
高層ビルが林立する西新宿。その路地裏にひっそりと佇む《アウラ・クッチーナ》は、近辺で働くビジネスパーソンが多く集まる、隠れ家的なイタリア料理店です。
オーナーシェフを務める白井範之さんが取材班に真っ先に見せてくれたのは、料理に使われる完全無農薬のハーブ。必要な時にすぐ採取できるようにと、鉢植えはお客様にも見える窓のすぐ外に並んでいます。群馬のハーブ園から良質な種と苗を譲り受け、3~4年前から地道に無農薬栽培を続けてきました。現在は2種類のローズマリーや、ハーブティーに最適なレモンバーベナ、ローリエにミントなど、さまざまな品種がここで育てられています。
「無農薬で育てているから虫が付きやすいし、寒さに弱い品種もある。特に冬場は屋外で育てるのが非常に大変ですが、試行錯誤でやっています」
また「生命力の強い植物が健全に育つためには、土が大事」と、白井さんは土作りにも余念がありません。水はけの良い土に混ぜている堆肥は、野菜くずを発酵させたものに、粉砕したカキの殻を混ぜたオリジナルコンポスト。ゴミの削減に一役買っています。
「ハーブに限らず、元気な土で育った植物ほど、強い力が備わっています。自然のサイクルで作られた素材を食べることで、人間も元気になれるのです」
将来的には屋上緑化計画の一環として、力強いハーブや野菜を混植していくプランを計画中。高層ビルの間にハーブの森が誕生する日も、そう遠くなさそうです。
余計な手は加えず、旬の素材で表現するのが僕のイタリアン
人間に活力を与える食をモットーとする白井さんが、シェフとして常日頃頭に置いている事。それは、どれだけ素材のパワーを引き出せるか。「素材の旨味を最大限引き出すことが僕の仕事。料理には邪魔にならない程度に、ほんの少しアクセントを加えています」と言います。
素材のパワーを引き出すにあたって、まず白井さんは旬の食材にこだわります。季節に合った食材は栄養価が高く、味が優れているものばかり。「安心して食べてもらえる旬の食材探しは、何よりも大事な仕事」と話すように、信頼できる国内の農家に依頼をしたり、週に最低2度は早朝の築地市場へ赴いたりと、いい食材との出会いに積極的です。
寒冷地で育ち、冬に旬を迎える下仁田ネギは群馬県の特産品。肉質がやわらかく、加熱すると甘みが強く感じられます。
下仁田ネギとトマトを使ったパスタ。トマトの爽やかな酸味とともに、ネギの甘みが口の中で広がります。
昆布森海域で採取された釧路町仙凰趾(せんぽうし)のカキ。ここまで味の濃厚なカキが食べられるのも、いい漁場があってこそ。
数々の社会問題に、プロフェッショナルが真剣に向き合う時代
ホテルやレストランなど、飲食業界で長年にわたり活躍する白井さんを慕い、店には遠方からのリピーターが多く訪ねて来ます。ご贔屓にしてくれている人たちの期待に応えたいと、日々努力を重ねている間も、一シェフとして、そして店のオーナーとして、現代の食の在り方に対して疑問符を持ち続けているようです。
「一般的に現代の日本では、食べ物に対しての感謝の気持ちが薄れてきている気がします。僕は祖母の料理をよく思い出しますが、孫や子供のために心をこめて料理していました。本当にとても美味しかったのを憶えています。心がこもった料理を誰も安易に粗末にはできないのです。外食産業が大きく膨れ上がった現在。料理を作る側は、『マニュアル通りに作れば良い』という考え方が蔓延し、食べる側の意識も『単に商品を買う』というような考え方が大きな割合をしめているような気がします。心をこめて作る料理は単にレシピやマニュアルではないと思います。母から娘へ… そういった伝承が日本にもあったはずです。今それを大切にしていかなければいけない時代が来ているような気がします」
そんな食への意識が希薄な時代だからこそ、ゴミの排出量の削減と食料自給率の上昇など、プロが真剣にいろいろな取り組みをしないといけないと、白井さんは言います。
「食材を意識せずに無駄なく使えるようにすることが、結果的にエコにつながっていくと思います。自然から得た恵みを自然に溶け込みやすいように自然に帰すことこそが自然のサイクルだと思うのです。エコは自然のリサイクル。それは、地球の財産である海や大地、大気などの自然環境を守ることだと思います」
周囲に多くの理解者を得て、経験を積み上げてきた今だからこそ、得た知識を皆に教えたい気持ちが強まる白井さん。《アウラ・クッチーナ》のお店ブログには、白井さんを取り巻く環境や日々の出来事に対する、さまざまな思いが綴られています。
今すぐ家庭でも実践できる、省エネルギー対策
オーナーシェフになって、初めて取り組むようになったエコ活動は、地球温暖化防止への貢献。言い換えれば、今までの光熱費を見直してムダを省いていく作業です。
「食材を意識せずに無駄なく使えるようにすることが、結果的にエコにつながっていくと思います。自然から得た恵みを自然に溶け込みやすいように自然に帰すことこそが自然のサイクルだと思うのです。エコは自然のリサイクル。それは、地球の財産である海や大地、大気などの自然環境を守ることだと思います」
事実、電球を取り替えるだけで、大幅なCO2削減に貢献できることが明らかです。東京都地球温暖化防止センター(www.tokyo-co2down.jp/)によると、飲食店によっては、白熱電球を電球形蛍光灯に交換したことで、CO2排出量が年間8トン、電気代に換算しておよそ40万円の削減も可能だそうです。電球形蛍光灯の価格はやや高めですが、寿命は白熱電球のおよそ6倍といわれていますので、長い目で見ると経済的。そして何より地球にやさしいです。
さらにスタッフ全員にも常に意識してもらうために、光熱費の具体的な経費を伝えます。「ただ『省エネを心がけてください』と言っただけでは、ほとんどのスタッフは実行できません。例えば『今月は光熱費が4万円節約できました。これを続けていければ年間48万円の節約になります。そのお金は他の経費にまわせるし、スタッフ皆への待遇も向上します』と話せば、仕事のモチベーションが上がるし、エコに対しての意識も高まります」
無駄を省く努力が、結果的に経費削減、そしてCO2排出量の削減につながっていきます。さらにお客様へ質の高いサービスを還元するために、白井さんの挑戦はこれからも続きます。
準備中の時など、店内の照明をまめに切ることで省エネ効果が得られています。小さな積み重ねが、ゆくゆくは大きな結果に…
オーナーシェフ 白井範之さん
フレンチレストランで修行後、28歳の時にイタリアンレストランのシェフに。以来、数店の料理長を経験。フード産業の開発にも携わる。自然の味をテーマに2005年6月《アウラ・クッチーナ》をオープン。オーナーシェフ。
※本記事では、お店が主体的に取り組んでいるエコ活動を、お店への取材に基づいて紹介しています。