環境問題に取り組むお店の活動を取材レポートします。
商人の街として発展を遂げた日本橋。街には長い月日を経てもなお愛される、老舗の味があふれています。そんな日本橋で、伝統の技を受け継ぎつつ、時代に沿った感性を磨く和の鉄人が話題を呼んでいます。その信念と新しい発想から、人と自然が共存する地域社会の未来像が見えてきました。

東京生まれの江戸野菜に着目
東京周辺で栽培された野菜を積極的に取り入れ、生産者の顔が見える地元食材とその生産地のPRに役立てています。輸送経費が少ない「地産地消の野菜」は、輸送の際に排出されるCO2も削減できます。

油や割り箸などリサイクルに積極的
使用済みの天ぷら油は専門業者が回収し、ディーゼルの代替燃料へと変換しています。また、国内きっての杉の生産地、吉野の赤杉を使った割り箸についても、近いうちにリサイクル(炭の加工など)に取り組みたいと前向きです。
東京の味と季節が楽しめる江戸野菜(写真は千住葱、小松菜、金町小蕪)。お浸しなどで食すことができます。
郷土料理を支える「江戸野菜」で町おこし
「江戸野菜」とは、主に現在の東京周辺で、伝統的に生産されてきた在来品種を指します。小松菜、独活(うど)などが全国的に有名ですが、他にもさまざまな品種が育てられていることはあまり知られていません。それらが持つ豊かな食味を途絶えさせてはいけないと、《日本橋ゆかり》の三代目、野永喜三夫さんは自ら発信者となって、江戸野菜の普及に努めています。
きっかけは、京都の老舗料亭《露庵 菊乃井》での修行時代に遡ります。京都の料亭では京野菜が使われ、盛り付けには京焼きを使うのが当たり前。「京都では当然として行われていることが、なぜ東京ではできないのだろうか」と、地域の伝統文化が東京では見られないことを疑問に感じました。
「京都には京都の文化があり、東京には東京の文化がある。その土地に根付いた郷土料理を見直す機会が必要だと思います」
都市開発によって多くの農地が住宅地に変わり、生産者の後継者不足によって幻となりつつある品種も多いようですが、野永さんは積極的に料理に使ってアピールしてきました。ゆくゆくは京都と京野菜のように、互いを活性化させるのが夢。輸送コストが削減され、環境にもやさしい江戸野菜で町おこしができればと、意欲を燃やしています。
日本人の長寿の秘訣は、日本料理にあり!
和食の伝統を守る野永さんは、斬新なアイディアを同時に発信する革新派でもあります。2003年に、「日本のグラン・シェフ55人-皿彩るアーティスト」に最年少(当時31歳)で選出されたほか、米・ニューヨークタイムズ紙では「日本の若手料理人5人」に選ばれるなど、国内外問わずメディアからの取材が絶えません。中でも今は海外からの取材が多く占めているのだとか。
「海外の取材が集まっているのは、日本が長寿国である理由は日本料理にあると、考えられるようになったからです」
日本人は古来より、お米をベースに季節の旬の食材を食し、体の循環を整えることを実践してきました。また、出汁のとり方にしても、昆布と鰹節を入れるタイミングが違うように、温度や火加減によって旨味成分の引き出し方が違います。日本料理はすべてにおいて理論に基づいた調理法を用いていることが、世界メディアから改めて注目されています。
「日本料理には、無駄がない。栄養価が高い素材だけでなく、いかに栄養を逃さず、最大限に旨味を引き出すかまで緻密に計算された、料理の極みなのです」
さらに、日本の土から造られた陶磁器や涼しげなガラスの器など、季節に合った器に盛り付けることで、視覚的にも季節を楽しめます。「料理は美味であること以前に、まず“癒し”を感じることが大事」。体にやさしく、五感で癒しを感じさせる日本料理が、世界的に見直されています。
冬に旬を迎える日本の伝統的な食材、大間産マグロの大トロと千住葱は相性抜群。菊を模った特注の輪島漆器に盛り付けています。
カウンターに座ったお客様と目線の高さが同じになるよう、厨房は一段低く造られています。
発芽玄米の粉を使用したシフォンケーキ。米粉とは思えないほど生地がふんわりしており、しかも低カロリー。
大豆の栄養を丸ごと豆腐にした「すっごい豆腐」。濃厚でまろやかな口当たりは、まるでデザートのよう。
和の素材に無限の可能性を持たせる、日本の知恵と技術
野永さんの革新的なアイディアの中には、日本料理という枠を超えて、栄養的に優れた和の食材の未来を切り開いたものもあります。
例えば玄米を発芽させ、白米に比べて栄養価の高い「発芽玄米」。それを粉状にした発芽玄米粉は、今までは粒子が粗かったため、小麦粉の代用品には難しいとされていました。しかし、野永さんは通常よりもはるかに細かい、10ミクロンにまで微粉砕することに世界で初めて成功したのです。
微粉末に加工された発芽玄米は、和の垣根を超え、幅広い分野で応用されています。例えば、シフォンケーキ。ふわふわの食感と、滑らかな舌触りは小麦粉で作ったものと全く差がありません。しかも小麦粉よりミネラルが豊富で低カロリー、さらに小麦アレルギーの心配が解消されるといわれています。このほかにも、シュークリームやパン、ホワイトソースといった小麦粉の代用品として活用するのはもちろん、アイスクリームからビールに至るまで、広い範囲での応用に挑戦しています。
さらに、和の食材の定番ともいえる豆腐にも、新たな可能性を見出しました。その名も「すっごい豆腐」。大豆から豆腐を生産する際に排出されるはずの“おから”が出ない、画期的な豆腐を《日本橋ゆかり》のメニューに取り入れています。
商品開発・販売を担当する(株)メイセイによると、おからの年間排出量は80~100万トンともいわれ、そのほとんどが産業廃棄物として焼却処分されています。しかし「すっごい豆腐」の場合、焼却するおからが一切出ないので、CO2排出量を大幅に削減。さらに大豆の栄養をすべて閉じ込めているため、通常の豆腐と比べて、イソフラボンは約1.6倍、食物繊維は約9倍。健康にも、地球にもやさしい豆腐です。
和の伝統を継承しながら、新しい食材への探究心も忘れない野永さんは、「日本の技術が安心・安全な食材へ導く」と言います。これから先も、体にいい食材へのこだわりは続きます。
天ぷら油で車を走らせる! 「TOKYO油田2017」
野永さんが料理やサービスと同様に気を使っているのが、天ぷらなどで使用した食用油(廃食油)の行方。中でも廃食油は「TOKYO油田2017」によって回収されており、日本橋を巡回する無料バス「メトロリンク日本橋」の燃料の一部に役立てられています。
「TOKYO油田2017」とは、一般家庭や飲食店から廃食油を回収し、環境にやさしい燃料VDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)へと再資源化させるリサイクルプロジェクト。精製されたVDFは、トラックやバスなどの燃料のほか、野外イベントの舞台照明の発電などにも使用されています。
「廃食油は貴重な資源。人口が多く、飲食店が多い東京は油田なのです」と話すのは、「TOKYO油田2017」の仕掛け人であり、廃食油回収会社《(株)ユーズ》の染谷ゆみ社長。同社では、飲食店や食品関係企業から毎日約30トンの廃食油を回収しています。集めた油は100%再資源化されており、その一部は軽油代替燃料(VDF)となります。植物生まれのエネルギーなので、化石燃料に頼らないカーボンニュートラル効果があり、地球にやさしいエネルギーとして注目されています。
2008年8月から運行が開始した「メトロリンク日本橋」は、「TOKYO油田2017」と日本橋のエコ活動「ECOEDO日本橋」との共同プロジェクトによるものです。現在、《日本橋ゆかり》をはじめとする日本橋界隈の飲食店と日本橋三越本店が参加していますが、「TOKYO油田2017」では今後、日本橋へ訪れる方々にも使い終わった油を提供してもらえる「回収ステーション」の設置を検討中とのこと。人と自然とのつながりを大切にし、リサイクルが盛んに行われていた江戸時代のライフスタイルを手本とする、新しい取り組みが始まっています。
廃食油は熱いうちに濾して、一斗缶に流し入れます。《日本橋ゆかり》では2カ月で3缶分(およそ54リットル)が回収されています。
一般家庭の廃食油は各地域の回収ステーションで集めています。回収車の燃料はもちろんVDFです。(写真提供/(株)ユーズ)
料理長 野永喜三夫さん
1972年、宮内庁に出入りを許される老舗《日本橋ゆかり》の3代目として生を享ける。服部栄養専門学校卒業後、京都《菊乃井》に入社。村田吉弘氏に師事し、《露庵 菊乃井》で修業を積む。1997年に東京へ戻り、2002年には「料理の鉄人JAPAN CUP’02」で総合優勝。2003年にはニューヨークタイムズ紙で「日本の若手料理人5人」に選ばれるなど、海外メディアからの注目度も高い。
※本記事では、お店が主体的に取り組んでいるエコ活動を、お店への取材に基づいて紹介しています。

「TOKYO油田2017」とは?
廃食油から軽油代替燃料であるVDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)や家畜の飼料、畑の肥料などを作り出すことで、資源の循環と生活環境への貢献を目的とした活動。プロジェクトを展開する《(株)ユーズ》では、東京を中心に、一般家庭や飲食店から使用済みの廃食油を回収しており、2017年までに東京中の廃食油を1滴残らず回収することを目標としています。飲食店の参加、回収方法などについては公式ホームページにて。
公式ホームページ http://tokyoyuden.jp/