環境問題に取り組むお店の活動を取材レポートします。
「都心にいながら野菜作りを体験できる」というコンセプトのもとにオープンした、300坪の農園。現在約40名のサークルメンバーが80種類以上の無農薬野菜やハーブを栽培しています。気軽な農業体験や食事を通して、“農育”や“食育”のきっかけ作りに貢献するレストランを取材しました。
東京都/板橋
自家農園や栃木の農場で採れた新鮮な野菜をはじめ、上質な食材にこだわるフレンチベースのレストラン。店内からは緑豊かな農園が見られ、旬の食材を使った料理はもちろん眺めまでも含めたスローフードを満喫できます。ロハスやスローフードをテーマにしたイベントも開催しています。

誰でも参加できる「農を楽しむ会」
300坪の自家農園を使い、農薬を使わずに野菜やハーブを作る農業体験サークルを開催。気軽に農業を体験しながら休日を楽しむグリーンツーリズムの新しい形です。

緑のカーテン活動に賛同
窓際に蔓性の植物を茂らせる、緑のカーテン活動に参加。陽射しを遮断すると共に葉の蒸散作用で周囲の温度を下げ、エアコンの使用量を抑えています。
昼の人気は10種類以上の野菜を使った温野菜サラダランチ。ボリュームもたっぷり。
デザートの定番スイートトマトと、口の中でとろける里芋きなこ団子、自家製のハーブティ。
自家農園で無農薬野菜やハーブを栽培
東京都板橋区の住宅地に広がる約300坪の農園。この小さな自家農園に面して立つのが、《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》です。季節の野菜が植えられた農園や色とりどりの花が咲く庭は、とても住宅地とは思えない風景。しかし周囲を見渡すと首都高速道路の高架や高層マンションがそびえ、都会のオアシスともいうべき不思議な雰囲気を漂わせています。
「都内でも野菜作りができる場所を提供したいという思いから、2005年4月にまず会員制の野菜塾用に農園をオープンさせました」と語るのは、《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》でイベントなどを手がけるチーフ・プロデューサーの高橋英明さん。「初めは栃木県の直営農場で行なっていた農業体験を、さらに気軽にできるようにしたのが現在の農園です。その後、サークルメンバーだけでなく地域の人にもおいしいものを食べてもらいたいと、レストランを開業しました」
レストランからは緑に彩られた農園や季節の花が咲く庭園を眺められ、料理はもちろん雰囲気も含めて穏やかな時間を過ごせると評判です。フレンチをベースにした料理には、自家農園や栃木にある直営農場で採れた野菜を積極的に使用。温野菜サラダランチや農園フレッシュサラダなど、新鮮な野菜をたっぷり堪能できるメニューが充実しているのも嬉しい限り。野菜以外の食材にも旬の魚介や厳選した上質な肉を使い、自慢の野菜とのバランスを考え調理しています。またトマトや里芋といった意外な食材を、ひと手間をかけて上品にアレンジした野菜のデザートも人気です。
広がる農業好きのコミュニティ
レストランで採れたての野菜を食べ、そのおいしさに感動してハーブや野菜づくり、土いじりに興味を持つお客様も多いのだとか。現在40名のメンバーで構成されるサークル「農を楽しむ会」が、80種類以上の無農薬野菜やハーブを育てています。「農を楽しむ会は子供でも参加できる間口の広いサークルです。気軽に農業に触れ、自分たちが食べる野菜やその安全性について関心をもってもらえれば嬉しいですね」と高橋さん。
「野菜の種や苗を植えたからといって、それだけで食べられるようになる訳ではありません。そのことを再認識するだけでも意味があると思います」
農薬を使わずにブロッコリーなどの葉野菜を作ると、あっという間に虫が付くのだそうです。自分たちがその野菜を食べるには、手作業で虫を取り除く必要があります。そういった手間のかかる作業を実体験することで、食材に対する意識が変わってくるのです。
近年、農村で農業を体験するグリーンツーリズムが注目を浴びていますが、頻繁に農村まで足を運ぶとなると、どうしてもハードルが高くなってしまいます。その点、農を楽しむ会はグリーンツーリズムの第一歩として、都心にいながら農業を学べる意義のある場になっています。
農を楽しむ会の前身である野菜塾の頃から数えると、農業体験に関わったメンバーは100名弱にものぼります。その中には自家農園を開いた人や、農業に携わっている人もおり、農を楽しむ会の世話人も元塾生です。現在のメンバーからも「リフレッシュできる」とか「月に2回の活動が楽しみ」といった声があがっているそう。こうやって農業が好きな人を増やしていくことも、グリーンツーリズムを広げるひとつの方法と言えるでしょう。
緑豊かな農園やハーブ園は誰でも自由に入れるオープンガーデンのような雰囲気。
自家農園や栃木の直営農場で採れた旬の野菜。農薬をまったく使わずに栽培している。
新潟県十日町での田植え体験。大変な作業だけに秋の収穫期には喜びもひとしお。
冬から春にかけてはイチゴ摘み体験も。農薬の代わりにお酢とニンニクを使っている。
本格的なグリーンツーリズムにも挑戦
《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》では、農業や農作物を身近に感じられるイベントを開催しています。2008年は新潟県の十日町にある農業施設へのツアーを開催。春に田植えを行ない秋に収穫するという、本格的な食農教育の体験プログラムを行ないました。
参加者からの反響は上々だったようで、2009年も、同様のイベントを開催するのだとか。「皆さんと話していると、農業に興味を持っている方はたくさんいると感じます。私たちの役目はその興味を実際に形にして、参加するきっかけを作ってあげることだと思っています」
また、このような取り組みの中で、地方で良質な農産物を作っている生産者と出会うことも増えたと高橋さんは言います。「せっかく手間をかけていいものを作っているのに、それが消費者にうまく届いていないケースをよく見かけます。今後は信頼できる生産者と一緒に、よい農作物と消費者をつなぐ方法を探っていきたいと思っています」
ほかにも、音楽を聴きながらゆっくり食事を楽しむ「四季のコンサートディナー」や、旬の牡蠣とシャンパンを味わう「オイスターブッフェとシャンパン&シャブリ」といった、ロハスやスローフードをテーマにしたイベントを開催。おいしいものを楽しみながら食べることで、食の安全や安心についての意識を高めてもらう…。レストランのそんな想いが込められています。
緑のカーテンなどの省エネ活動を実施
陽射しが強い夏になると、《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》の窓は、生き生きとした緑の葉で覆われます。窓際にゴーヤやヘチマなど蔓性の植物を茂らせることで陽射しを遮断し、エアコンの使用量を減らしているのです。「緑のカーテン」と名づけられたこの活動は、企業だけでなく学校や個人の賛同者も増えている注目の省エネ法です。植物の葉は陽射しを浴びると水蒸気を放出し、水分が気化するときに周囲の熱を奪います。葉の蒸散作用というこの働きに加え、街に緑が増える視覚的な効果も魅力と言えそうです。
《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》では、ほかにも積極的に省エネ活動に取り組んでいます。例えば自家農園にはなるべく水道水を使わないように配慮。雨水をタンクに貯め、ホースで畑に撒いています。タンクが満水になると、3~4日分の水をまかなえるそうです。
こういった省エネ活動やイベントについて説明する高橋さんはとても楽しそう。「私たちは農業の専門家ではありません。その分、一所懸命に勉強して、いろいろと試しながらゆっくりと進んでいます。でもそれが大変な訳ではなくて、私たちも楽しんでいるのです。イベントひとつとっても、自分たちが楽しくないものをお客様にはお勧めできませんから」
《ハーブ&おいしい野菜塾レストラン》の原動力とお客さんからの熱い支持の源は、お客様目線でチャレンジし続ける高橋さんたちの姿勢にあるのかもしれません。
窓際にゴーヤやヘチマを茂らせた緑のカーテン。鮮やかな緑は見た目にも涼しげ。
限りある資源を無駄にしないため、畑に使う水はなるべく雨水を使用している。
チーフ・プロデューサー 高橋英明さん
スポーツクラブインストラクターから転身。イベントや広報活動などを担当するかたわら、農業やエコ活動についても自ら体験しながら勉強中。「スポーツクラブは体を動かすことで健康を目指し、今の仕事は食べる物から健康を考える…同じようなものです」
※本記事では、お店が主体的に取り組んでいるエコ活動を、お店への取材に基づいて紹介しています。

グリーンツーリズムとは?
農村や山村、漁村などに長く滞在し、農林漁業体験などを通して、自然、文化、人々との交流を楽しむ休日の過ごし方。休みが多いヨーロッパが発祥といわれ、日本でも新しい旅のスタイルとして注目されています。農林漁業を体験したり雄大な自然と触れ合ったりすることで、観光地を通り過ぎるだけの旅行では味わえない充実感や、食の安全などに対する深い知識を得られるのが魅力です。休日が短い日本では、気軽に農林漁業体験ができる、短期滞在や日帰りのツアーも開催されています。
公式ホームページ http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kyose_tairyu/k_gt/index.html/