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花火と恋を眺めた僕のひと夏

[2015年08月04日]

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花火と恋を眺めた僕のひと夏
鎌倉駅の東口。

小町通りを駆け抜けていく修学旅行生らに、地図を広げて歩く外国人観光客たち。いつ来ても、ここは人で溢れている。僕はカメラを取り出し、静かにメモリーカードを差し込む。


・・・・・・

「お待たせ」

そう、鎌倉の思い出はここから始まった。

鶴岡八幡宮

鶴岡八幡宮(夏目志乃)

「きみは、鎌倉来たことあるの?」

鎌倉はほとんど来たことがなかった。鶴岡八幡宮なんて、いつぶりだろう。恐らく小学校の修学旅行以来、来ていないかもしれない。

「じゃあ、きみにとっては初めての鎌倉みたいなもんだね」

僕たちは付き合って1年ほど経っていたが、彼女はいつも僕のことを「きみ」と呼んでいた。少し距離を感じるその呼び方を、僕は気に入っていた。

鶴岡八幡宮(夏目志乃)


「おみくじ、やりたい! うーんと、39番!」

おみくじ(夏目志乃)


おみくじというものは、正月に今年一年の運勢を占うものだと思っていたが、彼女にそんなのは関係ないようだ。

「わー、最悪。大凶だよ? 大凶なんてフツー出るかなぁ。」

おみくじ(夏目志乃)


「 “大凶はおみくじ箱にお入れ下さい” だって。今年一年、いいことがありますように。」

誰が1月1日という日付を決めて、誰が元旦というものを決めたのだろう。彼女にとっては、今日が元旦であり、一年の始まりなのかもしれない。

報国寺

報国寺


「ねえ、ねえ! 金魚だよ!」

金魚(夏目志乃)


金魚たちも彼女の存在に気づき、鉢のふちに寄って来る。

「こっち、こっち!」

彼女に導かれるままに僕はついていく。

竹林(夏目志乃)


お寺の中を少し歩くと、目の前には風情のある竹林が広がっていた。
鎌倉にもこんな立派な竹林があることを僕は初めて知った。彼女はいつも僕の知らないことを教えてくれる。

竹林(夏目志乃)


「大きいなあ。きみがいち、に、さん。四人重なっても、全然届かないぞ。」

彼女の物差しは自由だ。そして僕は、そんな彼女の自由なモノの見方が好きであった。差別や偏見、世界中の紛争も、みな彼女のようなモノの見方をすればいいのに、と本気で思っていた。

報国寺(夏目志乃)


「お地蔵さんのマネ。」

かわいいね、とだけ僕は答えた。実際に可愛かったし、可愛いと伝えたかった。

報国寺(夏目志乃)


満面の笑みを浮かべる彼女を僕は思った。
「一生眺めていたい」と。

報国寺(夏目志乃)



報国寺(夏目志乃)


「はやくいこう。次は大仏さんのところ」

真夏の炎天下の中でも、涼しげな彼女がそこにはいた。

鎌倉大仏

鎌倉大仏(夏目志乃)

「大仏さんの、べっこう飴だ!!!」

大仏飴(夏目志乃)


「ちょっと待って。この飴、友だちにも買ってく!」

子どものように目を輝かせて、飴を手に取る彼女。いつも以上にはしゃぐ彼女が、ふいに僕の手から離れていくような錯覚におそわれた。

「どうしたの?」

なんでもない、と首をふる。

手水場(夏目志乃)


髪の毛をかきあげるとき、箸を持つとき……女性の指の仕草というものは美しさを秘めている。
手水をしているときもそうだ。漏れ落ちる水に対し、ゆっくりとこすり合わせる指の動き。僕は、彼女の手水に見とれていた。

鎌倉大仏(夏目志乃)


「ねえ、ねえ! 大仏さん、手の上に乗ってる? えー! 乗ってないの? 大仏さんって、本当に大きいのねえ。」

駄菓子(夏目志乃)



おもちゃ


駄菓子屋で手に入れたおもちゃで遊ぶ彼女。彼女の顔から笑みが消えることはなかった。僕もこのとき、彼女と一緒に笑っていた。

言い尽くされた表現かもしれないが、彼女はまさに太陽のような存在だった。
彼女はいつでも明るく、僕を笑わせてくれた。

御霊神社

江ノ電バス(夏目志乃)


「バスじゃ行きづらいのかな?」

僕らはドラマのロケ地になったという御霊神社へ、歩いて向かった。10分ほど歩くと、江ノ電の線路沿いに御霊神社はあった。

踏切(夏目志乃)


「早く! 電車に轢かれちゃうぞ!」

線路(夏目志乃)


そう言いながら、彼女はふと足を止めた。

江ノ電


「ねえ、電車ってすごいよね。だって、いろいろなモノを運ぶでしょ? どこかに誰かを置いて、またどこかに誰かを連れて行く。ツラいことがあっても、ツラい気持ちだけをここで置いていけば、帰り道は笑顔になれるじゃない」


彼女の目が、ふっと遠くなった。彼女がいつも笑顔なのは、人生のツラさを常にどこかに捨ててきているからなのだろうか。

御霊神社(夏目志乃)



御霊神社(夏目志乃)


彼女は何を祈願しているのだろう。この一瞬の光景を見て、僕は彼女が何かを畏れているようにも思えた。
そして、その畏れから逃げるために、笑顔で必死に生きているのではないか、そんな気がした。

階段


「さあ、きみ! 階段ダッシュで登るんだ! そんなんじゃ、てっぺん取れないぞ!」

10段ほどだろうか、彼女を満足させようと僕はダッシュで登ってみた。振り返ると、彼女は静かに笑みを浮かべていた。このままダッシュで登って何があるんだろうか。……僕は黙って階段を降りた。

彼女は言った。

「きみはいつも、きみのままだね」

極楽寺駅

極楽寺駅(夏目志乃)

「ここも、ドラマのロケ地なんだって」

僕はそのドラマを見たことがなかったが、彼女が立てば、すべての風景がドラマのワンシーンのように思えた。

極楽寺駅(夏目志乃)


「あっ、電車きたよ!」


江ノ電(夏目志乃)


「今日、いろいろな場所をまわれて楽しいね。」

そう言いながら、彼女は少し伏し目がちになった。何か言いたげにも見えた。でも、僕は彼女から目を逸らした。ふいに時計をみると、針は6時を指していた。あともう少しで今日という日が終わってしまう。

江ノ島

江ノ島(夏目志乃)

「もうすぐ日が暮れちゃうね。早く上に登らなきゃ!」

江ノ島(夏目志乃)


江ノ島内の街灯にはすでに明かりが灯されていた。


望遠鏡(夏目志乃)


「わー! すごいよ! 遠くまで見れるんだね。もしかしたら私たちも見られてたかもよ。」

僕らは江ノ島の頂上近くにある「龍恋の鐘」を目指して階段を登り続けた。この時間になると、すでに江ノ島内のお店はほとんどシャッターが降りており、閑散とした道のりだった。

江ノ島(夏目志乃)


「江ノ島の人たちって、お店閉めちゃうの早いのね。それって自分たちの生活を大切にしているということなのかしら。」

一日中歩いていた疲労からか、僕らはふたりとも口数が減っていった。ただ黙々と歩き続けた。

龍恋の鐘(夏目志乃)


「きみもこっち持って」


カーーーーーン。


鐘の音が、甲高く辺り一帯に鳴り響く。

「この鐘を鳴らした二人は、永遠に愛し合うんだって」

江ノ島(夏目志乃)


「これできみとも、ずっと笑顔で、ずっと一緒にいられるのかな」

僕はそうだねと微笑んで、ずっと一緒にいたい、と静かに願った。

花火のように

花火

あの日の夜、僕らは海辺で線香花火を楽しんだ。まるで絵に描いたような夏のデートを満喫したのだ。僕らの関係は永遠に続くものだと、どこか心の奥底で僕は思っていた。
はしゃぎながら楽しんだあの線香花火は消え落ち、やがて夏も終わりを迎えた。


・・・・・・

「お待たせ!」

駅前では、たくさんの浴衣姿のカップルが待ち合わせをしている。
花火大会の取材のため、僕はひさびさに鎌倉を訪れた。

鎌倉。
気づけば、あの鎌倉デートから1年が経った。夏の終わりとともに、僕と彼女はいなくなってしまった。この1年間、いろいろなことが頭をよぎった。

彼女にとって「僕」は、彼女の人生をツラくするモノだったのだろうか。彼女が笑顔でい続けるためには、「僕」をあの夏に置いてきてしまわなければならなかったのだろうか。どれだけ悩んでも、いまとなっては彼女の気持ちを理解することはできない。

しかし、ひとつだけ分かったことがある。
それは、恋は花火のような存在ではない、ということ。

彼女は常に僕の前を歩いていた。彼女の笑顔はいつも僕の心を明るくしてくれていた。だけど僕は、まるで線香花火を眺めるかのように、彼女との恋をただ「眺めていただけ」だったのだ。

はたと気づいて、軽く身震いをする。

さあ、取材だ。

※2015年8月4日時点の情報です

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定休日 :
不定休日あり ※※12月31日・1月1日 ※従業員研修等で不定休となる場合がございますので、来店の際は事前にお電話にてご確認下さい
平均予算:
4,000円  (ランチ平均:1,600円)
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