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夏目漱石「月が綺麗ですね」
—満月の夜、その下で—

[2015年09月15日]

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夏目漱石「月が綺麗ですね」—満月の夜、その下で—
夏の暑さがすっかり去り、夜に深みが広がるこの季節。この時期に出てくる満月を、十五夜または中秋の名月と呼ぶそうだ。

仕事に追われ、通勤電車の中でも鳴り止まない携帯を見つめる日々。今日も帰り道にコツコツと革靴で音を立てながらふいに空を見上げると、空にぽっかりと月が浮かんでいた。丸く輝くそれは、静かに、でもひときわ存在感を放ちながら煌々と光って、僕の中にある何かにそっと触れる。

少しくすぐったい気持ちになる。

誰がどうみても大人のオトコだと称されるになって、しばらく忘れていたけれど僕の「感性」は、いまもなおここに残っているようだ。

月が思い出させてくれたこと

夏目漱石

ずいぶん昔のことだけれど。
授業で聞いた話をきっかけに、夏目漱石にのめり込んだものだった。留学後、講師として生徒たちに英文学を説いていた夏目漱石。 ぼくは彼の、生真面目でまっすぐな文体と、そこに滲む鋭いユーモアが好きだった。いつも、しっかりと自分を生きている人のような気がして、憧れていた。

読書

僕が好きだった夏目漱石の逸話は、二つある。
ひとつは、「 I love you 」の一文を生徒が「我君を愛す」と訳したのを聞いて「日本人ならば、月が綺麗ですね、としてはどうだろうか」と説いた話。

もうひとつは、文部省から学位を授与されるという話があがったとき。漱石は、誰もが喜び受け取るはずの学位を、こう言って断ったという。

「自分は今日までただの夏目なにがしとして世を渡ってきたし、これから先もやはりただの夏目なにがしで暮らしたい希望をもっております」

自分を自分で支えられる人なのだ、と強く胸を打たれたものだった。

振り向く

この二つの逸話に支えられた僕は、好きな人に声をかけられない情けない自分を「漱石のように、奥ゆかしい感性がある」などと表現して慰めたこともあった。

加えて、目立ったことが嫌いだった僕は、人前に出られずに損をしたこともあった。それをも「漱石と同じで、僕は他の何者でもないんだ。僕は僕でしかないんだから」なんて言って、友人を呆れさせたりもした。

読書

僕は多少、気難しかったと思う。斜めから世間をみていて、文豪に想いを馳せているような、ありきたりな少年だった。

考える

ある夜、皆が帰り静まった校舎を後にし、一人家路につこうとしたときのこと。
不意をついて、曲がり角から彼女が現れた。薄暗くなった景色の中で、小説をかかえた彼女の白い手がぼんやり浮かぶ。

ふわりと風に舞う髪。

彼女がこちらに気づき、少し微笑む。こんな機会にはもう二度と恵まれないかもしれない。なにか、なにか話しかけなければ。そうして、思わず僕は言った。

公園の男

「あの……月が綺麗です。一緒に、見ませんか」


しまった、と思ったときにはもう遅かった。この日は月なんて、出ていなかったのだ。サマにならない。僕は漱石じゃないんだから……。
一瞬にして考えが巡る。恥ずかしさで息がつまりそうになる。その瞬間、彼女のやわらかい陽だまりのような声が耳に届く。

「いいですね、また今度月の綺麗な日には是非」

最後に

夜空

あの日、くすくすと笑ったその彼女の待つ家に、いま僕は帰る。

一度止めた足を再度動かし、家路につく。仕事の疲れや、些細な不安は吹き飛んでいた。革靴の中に押し込められた足は、しっかりと大地を踏みしめている。
仕事も、日常も、ほんの少し空回りすることもあるけれど、それすらも「僕」である証拠なのだ。頭上にきらめく月が、それらを思い起こさせてくれた。

家に着いたら、「月が綺麗だよ」と声をかけよう。そして一緒に外へ出かけるのもいいかもしれない。たまには二人で静かな夜の散歩を楽しむのもいい。







皆さんも中秋の名月を眺めに、大切な人と一緒に外へと繰り出してみてはいかがだろうか。月はいつでも、大事なことをそっと囁いてくれるはずだ。

※2015年9月15日時点の情報です

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満月の下、文豪に思いを馳せながら食事を楽しもう

夏目漱石の『三四郎』に登場する歴史的なレストランで純フランス料理を楽しむ
アクセス:
JR上野駅 徒歩5分
営業時間:
月~日 11:00~21:00(L.O.20:00)
月~日 11:00~16:30(ランチメニュー)
平均予算:
10,000円
[串揚げ料理]
[串揚げ料理]
文豪が多く住んでいた、ノスタルジックな街”根津”。明治時代に建てられた店内で美酒を嗜む
アクセス:
地下鉄千代田線根津駅 徒歩1分
営業時間:
火~日 ランチ:11:30~15:00(L.O.14:00)
火~日 ディナー:17:00~23:00(L.O.22:00)
定休日 :
毎週月曜日
平均予算:
5,000円  (宴会平均:5,000円)
[うなぎ]
[うなぎ]
夏目漱石の小説にも登場する創業200年の店。趣のある店内で伝統の味「江戸前鰻」を堪能する
アクセス:
地下鉄銀座線田原町駅 徒歩3分
営業時間:
月・火・木~日 11:30~20:30(L.O.20:30)
月~土 ランチ:11:30~16:00
定休日 :
毎週水曜日 年末年始(2017年12月30日~2018年1月1日) ※※祭り、催し物の日は営業
平均予算:
4,500円  (ランチ平均:2,600円、宴会平均:8,000円)
[洋食屋]
夏目漱石・太宰も愛した創業111年目の老舗洋食レストランでゆったり流れる時間を楽しむ
アクセス:
東京メトロ丸ノ内線霞ヶ関(東京都)駅B2口 徒歩3分
[洋食屋]
[洋食屋]
115年前に考案された「洋風かき揚げ」。はじめに食したのが夏目漱石だという貴重な一品を食す
アクセス:
都営新宿線小川町(東京都)駅A3口 徒歩2分
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