【連載】東京・最先端のワインのはなし verre4

デンマーク・コペンハーゲン「noma」やパリ５区の「A.T」のワインリストに代表されるように、世界最先端レストランでは、ワインのラインナップがナチュラルなもので揃えられていることも少なくない。そんなナチュラルなワインに偏愛する最先端な人たちのため（だけ？）のワインコラム。4杯めのワインを注いでくれるのは、表参道という好立地にあり、驚くべきワインの品揃えを誇る一軒家イタリアン「Felicita（フェリチタ）」の支配人・永島農（あつし）さん。イタリアンはもちろん、フランスから日本まであらゆるワインについて豊富な知識を持つ、彼が最初に選んだ1本を紹介しよう。

＜永島さん＞
イタリアとはいえ北東のはずれ、フリウリのスロベニア国境、カルソ地区にワイナリーを構えるヴォドピーヴェッチ。「カルソ」という名前の通り、カルスト地形で石灰質の岩盤。農作物が育ちにくく、魚をよく食べる地域です。
ここに4.5haの畑を有し、カルー土着で風に強い品種であるヴィトフスカのみを栽培。1997年にファーストヴィンテージをリリースしました。
実はこのヴィトフスカという品種、80～90年代に国際的な品種がもてはやされた頃、多くのワイナリーで引き抜かれてしまい、いま栽培している生産者は非常に少なく、おそらく10人もいないほどと言われます。現在43歳のパウロ・ヴォドピーヴェッチのヴィトフスカも同じカルソでワイナリーを営む偉大な造り手エディ・カンテから譲り受けたものです。

今日、私がこのワインをdressing読者のみなさんにお勧めしたい理由は、このワインが「何回飲んでもよくわからない」魅力にあふれているからです。
本来、私たちソムリエの仕事はワインを理解し、お客様に対して的確なサジェストをすることが仕事なんですが、このワインはわからないからこその魅力があるのです。数値化できないのです。もちろん、ワインにはテクニカルシートが存在し、酸度やpH、アミノ酸などは数値化できるのですが、「官能」については計り知れないし、このワインについては数値を考えるのが馬鹿らしくなるんです。よくわからないけど、何回飲んでも飲みたい。というよくわからないワインなのです。

今回紹介する2009年ヴィンテージについては、彼がいままでワインを造った中でも理想的な仕上がりだと考えています。2008年はついぞや1本もリリースしていないし、その前年2007年も2回の雹にたたられて収穫量が激減し、出荷本数も3分の1程度でした。
マセラシオンは1週間程度と短く、色調も最近オレンジワインなどと言われるワインのようなアンバー系より黄金に近いものです。だから一般的なワインがお好きな方に出しても、びっくりはされません。

味の特徴は岩盤質に由来するミネラルです。味のフォーカスがビシッとあっていて、テンションが高いけど、飲むのが億劫になるものではない。その上、凝縮感はある。
この凝縮感というものが決してテクニカルに凝縮させたものではない、しっかり完熟したブドウを使っていることもわかると思います。
人間が人為的に、ワインのキャラクターをつくり上げるとどういうものか容易にわかりますが、このワインの理解しがたさは自然や微生物が作り上げたものだからでしょう。まさに、先日ノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智先生のお話と同じですね。

このパオロ・ヴォドピーヴェッチという人物は、今後のイタリアの白ワインを背負って行くだろうと思っています。

＜フェリチタでの価格＞
ボトル13,000円、グラス1,600円（ともに税別）