ダサい人間は、店選びも店での楽しみ方もなっていないという救いようのなさについて

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2016年03月22日
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コラム
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ダサい人間は、店選びも店での楽しみ方もなっていないという救いようのなさについて
Summary
1.店に対して高飛車な客の鬱陶しさ
2.記号化出来ないところにこそ、ご機嫌がある
3.自分が気にいらない店に入らない術をどう身につける?

いきなりだが、「おいしいものしか食べたくない」というスタンスでは、ご機嫌に生きていくことができないのではないかと思う。

ときに世のグルメたちに対して「鬱陶しいな」と思うのは、いつも店に対して怒っているみたいな感じのするところで、出てきた刺身のマグロや鯛はどこ産であるとかを問いただしたり、抜栓されたワインを顔をしかめ気味にテイスティングして、「よかろう」と頷く高飛車な態度だ。

服や靴のブランド談義は内輪でいくらやってもらってもいいが、結局のところ「ダサい人間はアルマーニを着てもエルメスを持っても何をしてもダサい」というところに最後は収斂する。
センスも着こなしも良い人は、あんまりブランドすなわち記号を重視しない傾向にある。
食べたり飲んだりすることについても同じで、食や街に通じている人というのは、店や食べ物にハズレがないから付き合っていて楽しい。

人の評価を気にして店や食べるものを決めてもそこに「ご機嫌」はない

「おいしいもの」というのは、だいたい2種類あって、カスピ海のベルーガや三陸産フカヒレや銘醸ワインや年代物のスコッチなど、記号やデータ化されたかたちで表現されるもの。レストランの星の数や評価もこれに相当する。

もうひとつは、じぶんがおいしいと思う店の料理や酒だ。こちらは記号化データ化はなかなかできないので、実は厄介なのであるが、ストライクゾーンが広ければ広いほど、毎日ご機嫌に食べたり飲んだりすることが出来る傾向にある。

ただし書きで言っておくが、それは腹が減っていたら何でもうまいという素朴な主張ではないし、まずいものをそう思わないで食べる姿勢を奨励しているということではない。

食事も料理ももっぱら消費する側の楽しみとして、それについての夥しい量の情報が流布している。
肝心なのは「その店での楽しみ方の一例」として情報を自分側に引きつけて読むことだ。

これはよくやってしまうことだが、やたら人の評価を気にして店やそこで食べるものを決めたりすることだ。けれども、基本的に商品としての料理や酒やサービスの情報は、「そこでどう楽しむか」というところにはリンクしていないことが多い。

世の中でうまいとされるものをあっちこっちと食べ歩いて、まだまだもっとうまいものがあるはずだ、と思うのは幻想だということにしておくと、結構おいしくやっていける。
わたしはここ数年、まずいものを食べるはめになってアタマにきたり落ち込んだりすることは少なくなった。

ブランド商品料理にあこがれたり、それをあがめたてまつったりすることは、この時代の消費者にとっては無理からぬことであり、それがグルメ情報誌やグルメ番組、Webサイトを成り立たしているものの一つだが、いったんフラットな状態に持ってくる「術(すべ)」を持っておく方がよいのだと思う。

有効なのは「すごくおいしくはない」店や料理について、余裕をもって接するということだ。
「おいしいものしか食べたくない」と上澄みばかりをすくい取ろうとする志向は、積んできたものがない場合、貧弱で脆弱であるし、第一やっていておもしろくない。

酒飲みを唸らせる立ち飲み

小倉や八幡などの北九州市には150軒「角打ち酒場」があるといわれ、それにはかなわないかもしれないが、大阪や京都、神戸は、立ち飲み飲食店が多い。
最底辺の酒屋の立ち吞みから、駅内や駅前の立ち喰いうどん、焼鳥、串カツといった串ものの酒場から、100年の歴史を誇る北新地のバー「堂島サンボア」まで、その顔ぶれはぶ厚い。

なかでもJR京橋駅北口を出た一角に固まってある「立ち飲み横丁」にある「岡室酒店直売所」はお薦めしたい店の1軒だ。

朝から開いていて、おでん、串もの、鉄板焼きとメニューが豊富だが、くじらさえずりやフグ唐揚げなど、酒飲みを唸らせるアテ。味醂干しや板わさなどがとくに良い。

流行軸ベースでヒネリを利かせたスペインバルでも、安いという以外ことさら楽しめるものがない「千ベロ酒場」でもなく、普通に「イケる」と思える立ち飲み居酒屋をさがそう。

「ここはイケる」と感じた店に、2日に1回ペースで行っていると、いつのまにか味覚に対しての「身体の使い方」みたいなものが身についてくる。

「グルメ」などというハイカラな言い方がなかった昔から「食通」や「食い道楽」といわれる人はいた。
わたしが20代だった頃から、そういう街の先輩たちに、それこそ立ち飲みやお好み焼き、割烹や仏レストラン、ホテルのバー…といろいろと連れて行っていただき、やっとどこでも「自分が気にいらない店に入らない術」が身についてきたのだと思うが、かれらは間違いなく「情報」ではなく「身体」だった。

※江弘毅さんのスペシャルな記事『いい店にめぐり逢うために知っておきたいこと』はこちら

岡室酒店直売所(オカムロサケテンチョクバイジョ)

住所
〒534-0024 大阪市都島区東野田3-2-13
電話番号
06-6358-6598
営業時間
9:00〜22:30
定休日
定休日 水曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/mupnc4f00000/

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