中目黒で辛抱たまらなく入ってしまう、オムライスとハムカツが絶品の洋食

【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第29週  日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。

2016年04月03日
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中目黒で辛抱たまらなく入ってしまう、オムライスとハムカツが絶品の洋食
Summary
1.東京郊外の隠れ家中の隠れ家うどん
2.ワインバーの危険な焼きそばと巨匠のパスタ
3.毎日の洋食と非日常のフレンチ、予約の取れないイタリアン

2月23日「イタリア・フリウリ風ジビーフのメンチカツ?」

ひき肉となっても、なおハチロウは、命の息吹を我々に吹き付ける。
高山シェフは、柔らかい部分と硬い部分が共存するトンビを、包丁で荒く切り、玉ねぎを入れて丸くまとめた。
パン粉をつけ、表面だけをさっと焼く。
「フリウリの伝統料理です。料理名ですか? 名前はないんです。山の料理は、山のものを」といって、焼いた肉には山ワサビをすりおろしてどっさりとかけた。

切れば赤々とした肉が顔を出し、早く食べろと誘いかける。
世の軟弱なハンバーグとは違って肉汁など出ない。食のレポーターが、肉汁と勘違いして叫ぶ、半透明の脂も出ない。
肉。肉。ただひたすら肉なのである。
噛めば肉の香りが爆発して、鼻息が荒くなる。
猛々しい味わいが溢れ出し、噛むほどに、体が上気する。
これがジビーフだ。ジビーフの命だ。
もう立ち上がって叫びたいほどの、命の圧倒があって、肉を喰らう喜びに精神が屹立する。
メゼババ」にて。

2月24日一軒目「小平の住宅街のうどん店の実力」

「なあ母さん、うどん屋を始めようと思うんだけど」。
「うどん屋って、あなたがうどん好きでうどんを打つのが上手いのは知ってるけど、それ趣味でしょ。場所はどうするの? お金ないでしょ」。
「この家でやる」。
「え?」。
「だからこの家の一階を改造してやる」。
「私たちどこで普段食べればいいの? テレビはどこで見りゃあいいの?」。
「昼だけやる。だから夕飯は一階で食べられるし、夕方からテレビも見ることできる」。
「従業員はどうすんの? 給料払えないでしょ」。
「なあ母さん、てんぷらあげるの上手いだろ。うどんも茹でられるだろ」。
「えぇ~!? 仮に私が手伝っても、運ぶのはどうすんのよ」。
「娘がいる。姪っ子もいる」。
「そんな無茶な、だいたいこんな不便なところに誰がわざわざ来るのよ」。
「いや俺のうどんは、そんじょそこらよりダントツに上手い。我に勝算あり」。
「おとうさん、もう一度考え直して」。
開業時には、こんな会話がなされていたかもしれない。
何しろ最寄りの駅、しかも西武多摩湖線青梅街道駅というローカルな駅から歩いて10分はかかる住宅街である。

普通の建売民家である。
幟がなければ、ここが飲食店だと気づく人は誰もいない。
家族経営である。
お父さんが汁の味を作り、お母さんがうどんを茹で、天ぷらを揚げ、娘さんが運ぶ。
最初は反対していたかもしれないお母さんも今は、嬉々として働いている。
気持ちがいい。

地粉100%で打たれた田舎うどんは、薄褐色で、ゴツゴツとした野性味のあるコシを持ち、すすれば小麦の甘い香りが鼻に抜けていく。
一方、讃岐製粉工場で作られた小麦を使う白うどんは、滑らかで艶が良く、つるるんとした唇の当たりが、心地よい。
前者は、ざるの肉汁うどん。後者は、ざるの手絞りゆず入り冷汁が合う。
温かいうどんなら、前者は肉きざみうどん、後者は釜玉がいいだろう。

カレーうどんは両方だな。
どちらかを選べと言われれば田舎うどんで、その素朴でたくましい味わいが、黙々とうどんを作る実直なお父さんんとかぶり、なんとも味わい深くなるのだな。
ああ、こう書いていたらまた食べたくなってきた。
でも、遠いいなあ。

手打ちうどん福助

住所
〒187-0032 東京都小平市小川町2-1307-20
電話番号
042-403-1500
営業時間
火~日 11:15~15:00
定休日
定休日 月曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/fnryzuwx0000/
公式サイト
https://www.facebook.com/fukusukeudonn

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

2月24日二軒目「伝説の焼きそば」

最初にミヤン(宮永久嗣シェフ)の焼きそばを食べたのは、大阪だった。
ワインバーに連れて行かれ、「ここは焼きそばがうまいんだ」と言われ、その人は無理やり裏メニューを頼んで、食べたのであった。
それは今まで食べたどの焼きそばとも違う、旨みの深さと丸さそれに複雑さを加えた味わいで、夕飯を食べてきたのにもかかわらず、瞬く間に食べてしまったことを覚えている。

あれから10数年、ミヤンの焼きそばは徐々に改良を続け、深さと丸さと複雑さを増している。
自家製麺の配合を変えた。返しは以前同様だが、牡蠣油を入れるのをやめた。
品格が少し増し、心を丸く包む。
先日は、明石浦漁港の立派な海鰻を使い、仕上げに木の芽を散らす。
だめだよミヤン。
これは危険すぎて、さっき特製の鉄火巻き食べたというのに、するすると入っちゃうじゃないか。

amrit(アムリット)

住所
〒107-0052 東京都港区赤坂2-17-59 エスポワール赤坂2F
電話番号
03-5545-5212
営業時間
平日 コース料理:16:00~22:00、ワインサロン:20:00~24:00、土曜 コース料理:12:00~21:00
定休日
定休日 不定休
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/kn958fmh0000/
公式サイト
http://amrit-a.com/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

2月26日一軒目「巨匠のウニパスタ」

自家製塩ウニをパスタにする。
こんないやらしいことを考えたのが誰かは、知っている。

生うにとは違う、一筋縄ではいかない熟れた甘みが、ねろんとパスタに絡みついて、舌を揺さぶる。
酒が欲しい。
ワインより酒が欲しい。
このパスタを肴に、七本槍のぬる燗をやりたい。
そう思った僕は、まともなのか変態なのか。
ヒロソフィー」にて。

2月26日二軒目「中目黒の普段着洋食」

またやってしまった。
「キッチンパンチ」の看板を見かけた途端、なぜか店に入っていた。
座って、「オムライスのハムカツとポテサラのせ、ビール中瓶、乗せポテサラ先に」と、なんの迷いもなく頼んでいる自分がいた。
やってしまった。
そんな悔恨を、パンチのオムライスは優しく抱きしめてくれる。
卵三個は使ったであろう薄焼き卵は、薄焼きと呼べない厚さで、ふっくらとチキンライスに覆い被さっている。

「お前のことがなにより大事だよ」と、愛の言葉を囁きながら包んでいる。
だから口に運べば、玉子に歯がくるまれて、幸せな気分になる。
方やハムカツは、油切れよくカリッと揚げられて、分厚いハムが御飯を呼ぶ。
よおし、ソースをたっぷりかけてやるぞ。
オムライスのたおやかさとハムカツの下手が、皿の上で出逢うと、僕はどうしようもなく舞い上がって、笑顔になる。

キッチンパンチ

住所
〒153-0051 東京都目黒区上目黒2-7-10
電話番号
03-3712-1084
営業時間
月~金:ランチ 11:30~14:30、ディナー 18:00~21:30 (L.O.20:50)、土:ランチ 11:30~15:00 (L.O.14:30)
定休日
定休日 日曜、第3土曜、祝日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/e416800/

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3月1日「ソース、パイ、フォワグラ、トリュフ、、、」

トリュフという生物の意味を問う料理だった。
トリュフの皮を厚く剥き、中心部分だけを厚切りにして、雑味を取り払ったフォワグラのテリーヌでくるみ、パイ生地で包む。
他の手を止め、オーブンの前で斎須シェフ自らが焼き上がりの瞬間を伺う。

焦げる寸前まで焼かれたパイは、ナイフを入れるとはらりと砕け、トリュフの香りがゆるゆると揺らめいて、空気を艶めかす。
溶けたフォワグラが流れだして、脂に濡れたトリュフが食べられることを待っている。
噛んでもいいかい? トリュフに尋ね、ゆっくりと噛んだ。
パイの香ばしさが広がり、フォワグラの甘い脂の香りが漂う。そして半歩遅れてトリュフがやってくる。
トリュフがまだ鼓動しているような、揺らめきがある。
後から後から香りがさざ波のように寄せ、トリュフの精が、ビリビリと精神を震えさせる。
今まで食べてきたトリュフを使った料理は、トリュフという借景をしてきただけに過ぎない。とまで思わせるほどの澄んだ純度があった。
旨みを抑え、酸味を忍ばせたソース、パイ、フォワグラ、トリュフ。
どれもが完璧なピースとなってかちりとはまった、宇宙の美がここにはある。

実は一人で食べた。
サービスの方と相談し、誰にも邪魔されずに一人で官能に浸るのがいいだろうという話になり、一人で食べた。
正しかった。
でももし。
目の前に異性がいたら、例え誰であろうとも恋に落ちていた。
コートドール」にて。