代官山にて薪で豪快に焼いた「十勝田くぼ牛」がいただける名イタリアンがオープン

2016年04月12日
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代官山にて薪で豪快に焼いた「十勝田くぼ牛」がいただける名イタリアンがオープン
Summary
1.人気のイタリアンが恵比寿から移転
2.テーマは薪火
3.理屈ではなく本能で旨いと感じる肉

今、東京の人が求めているもの

「炎」にほっとするのはどうしてだろう。
田窪大祐シェフの新店『TACUBO』の、パチパチ燃える薪の色を眺めながらぼんやり考えた。
3度目の移転リニューアル。その度に田窪シェフは、「今、東京の人が求めているのは何か」という、人の心の中で無意識に膨らんでいる欲求のようなものを真面目に考え抜いてきた。
それは流行を追いかけるのとも、ニーズに応えるのとも違う。誰にも見えないみんなの気持ちを引っ張り出して、形にするという作業だ。

2006年、広尾に開店した「リストランティーノ バルカ」の時には、「気軽」を考え抜いた。エノテカでもトラットリアでもなく、リストランテの料理だけど気軽。そう謳う店は当時増えていたけれど、それって本当に気軽? という疑問から始まった店だ。

面白い仕掛けはいくつもあったが、たとえばパスタ1,800円に100円プラスで前菜(生ハムのサラダ)がつく、通称・深夜のランチセット。お得な金額よりも、「パスタ一皿でもOK」「ひとりでふらっともOK」「〆の炭水化物利用OK」の信号が、「気軽」を本気で体現していた。

2010年、リーマンショックの後遺症で高級店に元気がなくなり、人々が家や家族に向かう時代になると、田窪シェフは恵比寿に拠点を移し「アーリア・ディ・タクボ」をつくった。今度は価格帯高めのリストランテだ。
一見、時代と逆行しているようだが、当時彼は「今こそ家族で行ける、きちんとした店を」と語っている。

そして2016年4月7日。代官山と恵比寿の間に移転リニューアルした「TACUBO」は、あの「バルカ」が帰ってきたようなカウンター+個室の小体だ。

大きく違うのは、オープンキッチンの主役に薪窯が据えられていること。そう、今回のテーマは「薪火」である。

肉をもむように火が入る

肉にどう火を入れるか。
それはあらゆる料理人にとっての命題かもしれない。田窪シェフの場合は1年半ほど前、こんな答に到達した。
「今、料理がなんだか難しくなってるなって。低温とか何とか、緻密に計算して火入れするような料理は別の国に任せて(笑)、イタリアはもっと本能に近いと言うか、よくわかんないけど旨いぞ! ていうのがいいんじゃないかなと」
ヒントは焼肉にあり。曰く、焼肉のおいしさは説明がつかないのだそうだ。
料理人は「いかに肉にストレスを与えずに焼くか」と考えて、肉汁が暴れないようゆっくりと火を入れようとするが、焼肉はその原則に反する「強火の近火」。いわば肉に強烈なストレスを与える火入れなのに、なんだか旨い!
「なぜだろうと考えて、炭の香りと熱量なんじゃないかなと思いました。近火で一気に火入れして、暴れる肉汁さえ本能に訴えるような熱量。ただ、レストランて使うような分厚い肉を焼こうとすると、炭火でも遠火になる」

実は「バルカ」時代からずっと炭火で肉を焼いていた。だが「強火の近火で、分厚い肉を焼きたい」と思ったとき、薪火という熱源に出会った。
「薪(ナラ)自体の温度は炭(カシ)より低いけど、近火で焼くため、素材に当たる温度は高くなる。それでいて火の入り方が優しいので、肉はふっくら、脂はスカッと抜けるような軽さです」
シェフによると、焼き締めて作る炭は、圧縮された熱が直線的に素材へ入っていくイメージ。しかし生木の薪はいい意味で熱に隙間=ムラがあり、焼き台の位置をこまめに変えながら焼くことで、肉がほぐれるように焼き上がる。
「肉をもむように火が入るんです」

「TACUBO」の薪窯は、ピッツァ窯やオーブンのように熱が対流せず、下火だけで焼いていく。つまり下の面を焼いている間、上の面は休ませている状態だから肉汁がうまい具合に回ってくれる。
「塊の肉には薪焼きが向いていると思いました」
ただ、薪は炭以上に気難しい。コントロールしようと思えば振り回されてしまうし、火の強さ、燃え方、位置など一瞬一瞬が変化の連続。でも、だからこそ薪の「炎」は料理人を夢中にさせる。

東京のリストランテでできること

シンプルすぎる調理法は、その分素材の力が問われる。ということで今、薪火で生きる肉質の牛を北海道の畜産家と研究している。自分の料理に使っていく食材を、生産者と一緒に育てているのだ。名づけて「十勝田くぼ牛」。

「料理人はいろんな生産者とつながれるけど、これからは狭く深く、長くつき合っていく関係になりたい」
これまで地方を訪れる度、生産者と料理人の二人三脚の関係を目の当たりにして、正直羨ましかった。東京は全国から食材が届き、選ぶことができる。けれど、じっくり関係を築いたうえで得られる食材、お互いに高め合えるつき合い方を、そろそろ東京でもやってみたくなった。

<十勝田くぼ牛の薪焼き>

赤身だが適度な脂も入ったサーロインを、中はレアに、外側はガリッと焼き固める。「炭火でここまで焼くと苦味が出てしまう」レベルだが、やわらかく火が入る薪火だとかえって香ばしい。
今後は羊、豚、鴨など価格を抑えられる素材をあえて使って、「薪火でこんなに上がるのか!」 という感動を伝えたいとか。

「バルカ」から数えて10年。3回目の店づくりは、これまでの仕事を絞って、突き詰めた答である。
さっきからずっと薪の話しをしてきたけれど、前菜やプリモピアットの田窪節は健在。たとえば鰹の酸味とフランボワーズの酸味の組み合わせや、ウイキョウとクミンが時間差で現れる香りの重ね方、貝と茸とショートパスタの食感の計算。日本人の私たちが、ああこの季節感だよね、この繊細さだよねと嬉しくなる、その流れの先に今回、セコンドとして薪焼きが加わったということだ。

そして最も肝心なのは、薪の炎をオープンキッチンで「見せている」こと。
今、カウンターに座った私はそれを眺めてほっとしている。それは人としての本能なのだろうか。電気よりガスより、炭よりも原始的な、薪で焼くということの意味。それを田窪シェフは、2016年の東京に問いかける。
ちなみに「食べたいものは、その日に決まるのが本能」。
ということで、カウンターは当日予約のみ。明快である。

<北寄貝と野生種エノキ、サルデーニャ産からすみのトロフィエ>

一本一本こよって作るショートパスタ、トロフィエと同じ長さに具材を揃え、もちもち、シャキシャキ、パリパリの食感を際立たせた楽しい皿。パスタと具が一体化して、北寄貝とあさりだし、野生種エノキの旨味が絡み合い、からすみの旨苦がアクセントに。

<穴子のフリット ウイキョウのサラダとピュレ ラルド添え>

ふっくらした穴子、バリッと揚げたセモリナ粉と炭酸水の衣、やわらかなピュレの食感。ウイキョウの爽やかな香りに、クミンの泡がふわっと重なる。

<素材感を引き上げるイメージの料理に合わせたワインのラインナップ>

左/土着品種のブドウを果皮ごと発酵させた「ヴィトフスカ 2003/パオロ・ヴォドピーヴェッツ」(13,500円)。
右/薪焼きの肉の旨味に添う、繊細かつエレガントな赤「ロッソ・ディ・モンタルチーノ 2012/ヴィッラ・レ・プラータ」(ボトル8,000円、グラス1,400円)。

※ディナーのカウンター席は当日予約のみ(12:00〜受付)、ランチ・個室は1ヶ月前から受付。
※5月14日まではおまかせコースのみ。ランチ5,500円・9,500円(別途コペルト500円※個室は1,000円・要予約)、ディナー:カウンター席9,500円(別途コペルト500円)・個室12,000円(別途コペルト1,000円)。すべて税込、サービス料なし。
※5月15日よりアラカルトあり。ディナーコースも増える予定。詳しくはホームページでご確認を。

TACUBO

住所
〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-13-16 1F
電話番号
03-6455-3822
営業時間
12:00〜13:00L.O.(水・土・祝日のみ)、18:00〜23:00L.O.(薪焼き料理は21:00L.O.)カード 可(V・M・A) カウンター8席、個室6席×2室(1室12席も可)
定休日
定休日 日曜(月曜が祝日の場合は営業、翌日振替)
公式サイト
http://tacubo.com/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。