学芸大、下町の薫りがする酒場には金宮焼酎がすすむ理想のアテ・最高のつまみが待っている

【連載】幸食のすゝめ #016  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2016年04月18日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • 居酒屋
  • 東京
  • 祐天寺・学芸大・都立大
  • 連載
学芸大、下町の薫りがする酒場には金宮焼酎がすすむ理想のアテ・最高のつまみが待っている
Summary
1.城南地区ではじめての金宮酒場
2.東急東横線・学芸大学駅ホームからも見える店
3.旨くて安い料理は約50種

幸食のすゝめ#016、空色のラベルには幸いが住む、学芸大学。

「ようちゃん、セロリ春雨に納豆キャベツ!」、よく通る齋藤さんの声がカウンター奥にある厨房に響き渡る。オーダーを受けた奥さんのようちゃんが、手際よくキャベツをせん切りにする音が軽快なリズムを刻み始める。コンパクトにまとめられたキッチンは、ようちゃんの調理導線に合わせて工夫され、小さなテレビも付いている。
窓から見える東横線がなかったら、どこかの下町にいるような温かい空間。
でも、ここは城南地区、洒落たイタリアンやバーが建ち並ぶ学芸大学の駅前だ。

北千住の『大はし』、木場の『河本』、日本堤の『大林酒場』。
行く場所、行く酒場で、いつも空色のクレヨンで描いたような金宮のラベルに出逢った。
『大はし』では、ズラリと折り重なって並ぶ客たちのボトルに、いつも目を奪われた。『大はし』の喧噪、『大林酒場』の静寂、『河本』の緊張感。店に一歩足を踏み込んだ途端に、周りとはガラリと空気が変わる。そんな大衆酒場の雰囲気に惹かれて、休みの日にはいつも2人で下町の酒場巡りをした。
大手宅配便の幹部だったサラリーマン時代、毎日の疲労や緊張感から救ってくれたのは、いつも空色のラベル、金宮のボトルだった。

宅配便と言っても配達のドライバーではない、本社での管理業務以外の大切な役割はクレイマーたちへの対応だった。ネクタイを締め、おとなしい色のスーツを着て、険しい顔の客たちの前で頭を下げ続ける。客商売が嫌いだった訳じゃない、でも、怒った顔より、お客さんの喜んだ顔を見ながら毎日を過ごしたい。そうだ!今度はカウンターの外から中に入ってみよう、幸いウチには料理上手なようちゃんもいる。お店の売りもコンセプトも、まだ手探りのままスタート。たったひとつだけ、2人で決めていたことがあった。金宮を置こう、そして、カウンターには、金宮=宮崎本店の酒類をコンプリートしよう。

こうして『さいとう屋』は、城南地区(品川区・目黒区・大田区・渋谷区・世田谷区・港区)最初の金宮酒場になった。少しずつ増えていく空色のボトルが、歩き始めた店のエールになった。学芸大学駅から徒歩1分、ビルの2階にある『さいとう屋』は、ちょうど東横線の線路と同じ高さだった。満員電車に揺られながら見かけた空色の見慣れたヴィジュアル、駅のホームから見える金宮の文字とロゴに惹かれて、少しずつ一見のお客さんたちも訪ねて来るようになった。それまで下町でしか飲めなかった金宮が、近くの駅前商店街で楽しめる。いつのまにか『さいとう屋』は、連日満員の人気店になっていた。

心地よく金宮の酔いが進む居酒屋界最強のアテ

『さいとう屋』の魅力は、店主・齋藤さんのダンディな気風と、細部まで気を配っているのに決してそれを感じさせないサービス。そして、ようちゃんが作る、当たり前に見えてどこにもない料理だ。野菜たっぷりで、適度にパンチが効いている自慢のメニューは常時50種近く、どれを食べても安くて旨い。高級レストランのメニューじゃないけど、決して素人の家庭料理ではない。いくらでも酒が進む、飲ん兵衛たちにはたまらない理想のアテ、最高のつまみだ。気が付くと、600㎖の金宮がどんどん無くなっていく。

客の笑顔に出会うためにメニューの値下げ決行

チャーシュー盛りとしか思えない、自家製のチャーシューサラダ、牛蒡の食感と滋味がクセになる具だくさんの玉子焼、ヘルシーな納豆キャベツ、〆のナポリタンや自家製ミートソースを使ったグラタン類も人気が高い。レバカツやハムカツ、赤ウインナーにちくわ磯辺揚げなど、飲ん兵衛感涙のメニューも目白押しだ。

しかも、壁のドリンクメニューを見ると、ボトルもホッピー、サワー類も値段が安く書き直されている。「お陰様で少し利益が出たんで、お客さんに還元しました」、つまりは値下げ!である。三重で生まれ、東京下町で愛された金宮焼酎は、今日も学芸大学でたくさんの笑顔を生み出している。空色のラベルには、幸いが住んでいる。

<メニュー>
金宮600㎖ボトル1,400円、ホッピー/生レモンサワー380円、たっぷりチャーシューサラダ480円、具だくさん玉子焼き380円、納豆キャベツ350円、なすチーズ焼き480円、ナポリタン750円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。

※森一起さんのスペシャルな記事『幸食秘宝館・武蔵小山、グルメランキング上位には載らないホントウの名店3軒を巡る』はこちら

さいとう屋

住所
〒152-0004 東京都目黒区鷹番3-1-4
電話番号
03-6760-2824
営業時間
16:00~24:00
定休日
定休日 月曜、不定休

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

関連記事

世田谷下馬で優しいだしのうどんをいただく幸せ
世田谷下馬で優しいだしのうどんをいただく幸せ

【連載】幸食のすゝめ #011  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン
予約困難!リ・カーリカ2号店でいただく幻の黒豚のビステッカ
予約困難!リ・カーリカ2号店でいただく幻の黒豚のビステッカ

【連載】DJ TAROのNice to Meat You vol.4 人と仲良くなるには食事が一番。でも、いきなり鍋って感じじゃない。会話が弾まないテーブルでも綺麗なサシの肉が出てくると「わー!」っと歓喜の声が上がる。そう、肉は人をつなぐ。出逢いのMeetであり肉のMeat。そんな思いを込めて肉ラヴァーに贈るDJ TAROさんのナイスな肉話。

DJ TARO
ラジオDJ/クラブDJ
店で何をどう食べるかまで情報に操られている、あまりにもショボすぎる日本の「子ども」なオトナのこと

【店づきあいの倫理学】店は生きものであり「おいしさ」や「楽しさ」は数値化できない。だから顔の見えない他者からの情報「評価」を比較して店や食べるメニューを決めたりすることは無効だ。その店だけの「固有の身体感覚」のようなものがあり、その場その時の「代替不可能な店側/客側のコミュニケーション」が、その店の真価を決定づけている。「店と客の関係性」をもとに「よりおいしく食べるための店づきあい」の方法とは?