幻のワインは、世界でもっとも美しい畑の100年を超えるブドウから生まれる

【連載】東京・最先端のワインのはなし verre25  ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。

2016年05月25日
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幻のワインは、世界でもっとも美しい畑の100年を超えるブドウから生まれる
Summary
1.スペインとの国境近く、100年以上前から自然な栽培のブドウ
2.海抜0mから一気に約200mせり上がる急斜面ゆえの絶景の地
3.パリでも限られた場所でしか手に入らないレアな生産者

甘口ワインの産地で生まれる究極のナチュラルワイン

いわゆる「ワイン好き」にとっては、おそらくフランスの中でも安くて美味しいワインの産地という程度の認識であろうラングドック・ルーション。その中でもルーション地方の最南端、スペインと国境を接するピレネー=オリアンタル県にある人口5,000人にも満たない小さな町、バニュルス=シュル=メールが今回のワインの故郷。一般的には、バニュルスといえば甘口ワインで知られている程度で、良いスティルワインなど無いものと思われているようだが、この地には二人の偉大なナチュラルワインの生産者がいる。
ブルノ・デュシェンと今回紹介するアラン・カステックスだ。

Soula 2012 / Le Casot des Mailloles(スーラ /ル・カゾ・デ・マイヨール)

トゥールーズ出身のアラン・カステックス氏は、農機具関係の技術職に従事していたが、自分の理想のワイン造りをしたいと、パートナーのジスレーヌさんとともに1995年このバニュルスに移り住んだ。南仏らしく暑く乾燥した気候と海と陸の両側からの強風。そして、いくつかある区画のなかでも特に海側はとても硬い岩盤な上に、ほぼ崖といえるほどの急峻な斜面ゆえ機械の類いが一切入れられないような場でのワイン造りは過酷そのもの。
逆にそんな場所だけに、化学薬品などに汚染されることなく100年以上生きながらえたブドウ樹が植わった畑を手に入れることができた。もちろん、彼自身も畑には除草剤や殺虫剤、化学肥料などは使わないし、醸造過程においても天然酵母の働きに任せる。

土壌はもちろん、ガリッグと呼ばれる強い香りを放つ野生のハーブなどがこのワイン独特のアロマを生み出しているようだ。各区画合わせて4ha弱の広さを持つ畑だが、そのような過酷でかつ樹齢も古い畑だけに年間生産量は8,000~10,000本程度。その上、カステックス氏の考えで、一部のロゼや白のキュヴェに関しては遠方まで輸送させないと決めているらしく、フランスでも幻と呼んでいいレベルのレアなワインだ。

そんな農作業が過酷な土地ゆえ、67歳になったカステックス氏はこのカゾ・デ・マイヨールを33歳と若いジョルディ・ペレス氏に譲り、自らはLes Vins Du Cabanon(レ・ヴァン・デュ・カバノン)というワイナリーを新たに興した。今後の進化が楽しみなこのワイナリーの話を目黒・元競馬場前にある『le verre volé à tokyo(ル・ヴェール・ヴォレ・ア・東京)』店主・宮内亮太郎さんが教えてくれた。

<宮内さん>
約5年前、フランスから帰ってきて、この店の開店準備をしている頃、西麻布にある和食とワインが楽しめる古民家レストランバー『葡呑』で半年ほど働かせていただいていたことがあります。
その時、フランス帰りならでは、現地で出逢った「これだ!」といえるような一本を提案して欲しいと言われ、当時多くの人が知らなかった、想い出深いワインがこのカゾ・デ・マイヨールのスーラというキュヴェの2002年ヴィンテージでした。だいたい10以上の複数の品種を混ぜあわせることの多いカゾ・デ・マイヨールですが、このワインは珍しく単一セパージュ。グルナッシュ・ノワール100%の力強いワインです。

僕はアランの造るワインを「究極のヴァン・ナチュール」だと思っています。このワインに最初に出逢ったのは随分と前のことですが、印象的だったのはバニュルスとニースの間あたりにあるペルピニャンの街で飲んだロゼです。たしか8ユーロくらいでした。そのロゼはパリに上がってこないんです。アラン自身が、ペルピニャンまでしか動かさないと決めているからパリではもちろん見たことがないし買えなかったんです。まさに「どナチュール」と言えるデリケートなワインです。

このスーラについてはパリでも飲めるんですが、アランが造る中では一番表現がし易いかもしれません。非常に複雑味があって、いろんなことを考えさせられるワインです。パリでナチュールを扱うソムリエさんが最後に行き着くことが多いワインです。とにかく難しい。

スーラのさらに上のキュヴェであるVisimum(ヴィニシューム)というのもあるのですが、これは本当に手に入らないです。当時、パリでも50ユーロ以上していてティエリー・アルマンのコルナスより少し安くて、フランク・コーネリッセンのマグマより高かった、ここぞという時にあけるワインでした。普段けっこういい加減なフランス人たちが2時間くらい前に抜栓してキャラフェしていたくらいですから。

あともしバニュルスを訪れるなら行って欲しい店があります。アランのワイナリーと同じ通りにある店です。パリの『ル・ヴェール・ヴォレ』時代に1年半ほど一緒に働いていた元同僚というか戦友でカタルーニャ出身のEmanuel、通称Manuという男性が『El Xadic del Mar』という店を開いています。そこは、アランやブルノ・デュシェンほか、近隣の生産が集う場所になっているんです。興味がある方はぜひ。

Le verre volé à Tokyo

住所
〒153-0063 東京都目黒区目黒4-10-7
電話番号
03-3713-7505
営業時間
18:00~翌1:00(L.O.23:00)
定休日
定休日 月曜、祝日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/58eu6b540000/
公式サイト
https://www.facebook.com/leverrevole

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。