予約が取れなくなる前に急げ!スペインの有名店『ムガリッツ』で学んだ名シェフの最高峰フレンチ

2017年01月13日
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予約が取れなくなる前に急げ!スペインの有名店『ムガリッツ』で学んだ名シェフの最高峰フレンチ
Summary
1.オーナーシェフは分子ガストロノミーの草分け『ムガリッツ』にて学ぶ
2.東大寺旧境内ならではの森の安らぎと凛とした空気感
3.記憶を呼び覚ます、懐かしく美しい風景が皿の上に

ゆっくりと移ろう自然の風景と、1300年の歴史の重みを感じさせる神社仏閣の数々が、旅人の心を潤してくれる古都・奈良。その奈良を象徴するような東大寺旧境内、豊かな森の南西角地に2016年12月10日、モードスパニッシュの名店が新たなスタイルで復活した。

一見すると寺院のようで、古都の風景にさりげなく溶け込むその店の名は『アコルドゥ』。スペイン、フランスにまたがるバスク地方で使われるバスク語で「記憶」という意味だ。その名を、「単なる名ではなく、その概念、世界観の総称」と語るオーナーシェフ・川島宙(ひろし)さんの言葉に、訪れたゲストは帰路、深くうなずくことだろう。

欧州の老舗ビストロを想わせるポーチと、真っ青なドアを開くと、東大寺に隣接する北側一面をガラス張りにした、モダンですっきりとした空間が広がる。どこか凛とした佇まいの桐天井、木目と焼きのニュアンスが美しい床、フォルムの美と座り心地を追求した北欧のハンスウェグナーの椅子など、そこかしこに柔らかな木の存在感が漂っている。

自然と一体になって深呼吸したくなるような空間

一方、窓の向こうには芝生の庭園が広がり、それを囲う板塀(店では「結界」と呼ばれている)の向こうには東大寺の森。自然と一体になって深呼吸したくなるような、それでいて背筋を正さねばならぬような、不思議な気持ちにさせてくれる場所だ。

「料理と共に、この世界観に精神的にも浸って欲しい」と語るのは川島シェフ。彼のルーツは、『エル・ブジ』で知られる分子ガストロノミーの草分けのひとつ、スぺイン・バスク地方の二つ星レストラン『ムガリッツ』にある(ちなみに、『ムガリッツ』のオーナーシェフ、アンドニ・ルイス・アドゥリス氏は『エル・ブジ』出身)。

『ホテル西洋銀座』など、華やかなフレンチレストランで14年間修業した川島シェフは、その技術とレシピを習得するほどに、「フランス料理は完成されすぎている。自分はどこにある?」と疑問を感じるようになった。そんな時、飛び込んだのが、『ムガリッツ』の分子ガストロノミーの世界だった。時に「料理というより実験」と揶揄されるほど新しいその厨房にルールはなく、「自分たちの生きている環境をどう表現するか」という創意工夫に満ちていたという。同時に、メニューがわずか4品しかない近所のパティスリーさえ、「店主はここで作って、ここで売ってきた」という誇りに満ち溢れ、地元から愛され感謝される、飲食店の原点回帰のような環境にも刺激を受けた。

『ムガリッツ』に学んだ気鋭シェフが創造!

帰国した川島シェフは、2008年に奈良・富雄に最初の『アコルドゥ』を開店。フレンチのレシピは封印し、革新的なスタイルを貫いた。店は瞬く間に注目を集めるも、2014年にビルの老朽化に伴い閉店。同年、奈良・東生駒に、「有機」「ローカル」「自由」をコンセプトにしたレストラン『アバロッツ』をオープンした。『アバロッツ』では、奈良県内の食材を9割使用。そのうち7~8割は生産者から直接購入するなど、地産地消に徹底的にこだわり、結果的に、食材の仕入れに苦戦した……。

この苦い経験を踏まえて、川島シェフは、より自由に、より柔軟に素材や調理法を捉えるスタイルで、今回、新生『アコルドゥ』を開店。客席も婚礼用のバンケットを除けば26席に限定し、ゲストの姿が間近に感じられるスケールで、いわゆる「イノベーティブ」なレストランとして再出発することになったのだ。

そんな川島シェフの料理は、「記憶」を刺激するものだ。例えば写真上の「三輪の手延べパスタ クロロフィルとアマゴ、苔」は、奈良・野迫川で育った冬のアマゴの昆布〆の炙りに、老舗「三輪そうめん山本」がデュラム粉で作った、素麺のような手打ちパスタ、大和真菜のソースを合わせたもの。提供時には吉野の清流にかかる霧をイメージした、杉の香りのスモークがたかれる。球状の黒皿にふりかけられた緑は、清流の苔を表現したセリ科の多年草トウキと大和茶の粉。皿の下には川島シェフ自らが清流で拾った石を並べて……、とまさに全てが、アマゴが育った清流の風景を表現している。

その見た目に驚きつつ、ひと口味わうと、まずパスタに乗った緑茶とフェンネルのグラニテ、そしてトウキと大和茶の粉末が相まった“緑”の香りが鼻に抜ける。よく脂が乗ったアマゴと滋味深い大和真菜のソースは、塩さえ最小限に抑えられ、素材そのものの味わいが際立つ。パスタはツルリとのど越しがいいが、それさえアマゴや大和真菜の風味を引き立てる名脇役。ゲストは料理を味わうことで、自分の記憶の中にある「霧の森」の思い出、風景が呼び覚まされ、それも一緒に味わうこととなるのだ。

写真上の料理、「湿った蕎麦 半生のエビとトリュフ風味」もまた然り。奈良・桜井にある手打ち蕎麦店の粉を使って、そばがきのように仕上げ、半生に茹でたエビと黒トリュフを合わせたものだ。イメージしたのは庭の「結界」の外の土。半生のエビのねっとりとした食感や、蕎麦とエビを合わせたピューレのような色合いと弾力、そしてどこか土のような香り。さらに、そばがきのもっちり感、ぬるい温度も相まって、雨の後の土がぬかるんだ風景を喚起する。あのいい意味での土臭さと、足元の感触……ふと、小学校から帰る、雨あがりの日の記憶が呼び覚まされる。

料理は記憶をたどる食の旅

この日のメインは「鴨と柿 ローズマリーの森」(写真上)。さっとグリルしてうまみを凝縮させた奈良の葛城合鴨に、辛子のような香りのハーブ・ナスタチウムのソースと、奈良漬けの酒粕と干し柿を合わせた味噌が添えられている。さらに、提供時には燻され煙の上がるローズマリーも登場し、森の新緑のような香りが立ちこめる。干し柿の甘みが奈良漬けの発酵味に奥行きを与える味噌は、鴨から溢れ出す上品な肉汁と調和。ナスタチウムの辛味もアクセントとなり、鴨のうまみを強調する。

デザートは「水面の月 すみれの海」(写真上)。このメニューは、川島シェフが以前雨の竹林を訪れた際に、足下一面に広がっていたスミレの葉からインスパイアされたもの。「もしスミレの花が開花したら、海のように見えるのでは?」と自身が感じた想いを投影している。ハッサクのジェラートは月。スミレとハイビスカス、レモングラスを合わせたソースは海。そしてハッサクのエスプーマは雲。夜の海にかかる半月の風景が瞼に浮かぶ。味わうと、スミレのあでやかな香りと風味、そしてハッサクの酸味と苦味のマリアージュが楽しい。この「記憶をたどる食卓」の終焉にぴったりで、口内を爽やかに、そして幸福に演出してくれた。

「回帰と記憶、土着と洗練をテーマに、これからも色々な人に料理を楽しんでもらいたい」と語る川島シェフ(写真上)。今後も独自の仕掛けで、様々な「記憶」を呼び覚ましていくに違いない。その体験が口コミで広がり、「予約が取れないレストラン」となる前に、ぜひ「記憶をたどる食の旅」へ出かけてみてはいかがだろうか。

(文/笹間聖子、撮影/合田慎二)

【メニュー】
昼のコース 6,500円
夜のコース 13,000円(予約時に伝えれば昼に注文も可能)
※価格は税・サービス料別
※コースの内容は旬の食材に合わせて月に2~3品ずつ替わる

akordu(アコルドゥ)

住所
〒630‐8208 奈良県奈良市水門町70-1-3-1
電話番号
0742-77-2525
営業時間
12:00~15:30(L.O.13:00)、18:00~22:30(L.O.19:00)
定休日
月および不定休
公式サイト
http://www.akordu.com/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。