驚くべき超コスパ!都心では実現できないクオリティ&プライスのビストロを上石神井で発見、そしてハマった

【知られざるいい店のすゝめ】あの口コミサイトに載っていない店。地元民しか知らない店。裏通りや駅から少し遠くにある店……。街にはまだまだ知られざる店がある!街と店と絡み合ってきた人生の中で食の賢人・松浦達也が辿り着いた珠玉の一軒を紹介する。

2017年06月13日
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驚くべき超コスパ!都心では実現できないクオリティ&プライスのビストロを上石神井で発見、そしてハマった
Summary
1.賢人・松浦達也が初めて訪れたのに、そのクオリティの高さに「天才的」と太鼓判を押したビストロ
2.店主は、都内の誰もが知る肉料理に定評のある一流ホテルの厨房を渡り歩いてきた強者
3.「本物の味わいを地域に合わせた価格とサービス」という出来そうで出来ないことをやり抜くシェフ

僭越ながら、おいしいものや店にはそれなりに鼻が利くほうだと思う。それでもdressingの連載はハードルが高い(いや、自分で勝手にハードルを上げているフシもあるのだが……)。ただ、dressingのように取材先から写真まで任せてもらうときには、最低2回通ってから取材をお願いするかどうか決める。もっとも、この店についてはこの一皿を食べて思わず、Instagramにこんな投稿をしてしまった。

実は事前情報もなく、初めて訪れる店でこういうテンションになるのは珍しい。食べ慣れた味や、「この人の料理なら」という信頼感が事前にある場合はともかく、僕は初めてドアを開ける店では、食事をニュートラルな姿勢で楽しむことが多い。だがこの店ではひと串で目の色が変わってしまった。この時点で1990年前後に放送されていたカップリング番組「ねるとん紅鯨団」(※昔そういう番組があったのです)の「最初から決めてました!」ぐらいの勢いになってしまったのだ。

アイデア&名称はつくね。見た目はアメリカンドッグにも似て、色合いはたこ焼きのようでもある。記憶のどこかにある懐かしそうな容貌だが、その味わいは唯一無二。強い弾力がありながら、その身はひと噛みでほろりと崩れ、さらに噛みしめると肉の味がぎゅうっと染み出してくる。しかもスジという素材だけに噛むほどに、ラムの風味がグイグイと押し寄せてくる。基本的にはフレンチのように思えるが、味わいにどこか中東の香りが漂う。

↑噛み切った内側は見事なミディアム・レア。お楽しみあれ。

土台となる味つけは、塩、胡椒、ニンニク。そこに「デュカ」というエジプト発祥の調味料が加わる。ゴマ、コリアンダー、クミン、塩、胡椒などをベースとした中東のミックス調味料が力強いラムの風味を膨らませ、そこにパセリとレモンオイルで清涼感をプラス。仕上げのソースは赤ワインとポルト酒を煮詰め、カシス、オレンジ、エシャロットを香らせた。甘く、深く、爽やかなソースと絡み合うラム肉の繊維は、噛みしめるたびにその表情を変える。

この品は数日に一度しか出ない。確実に口にするには3日前までに要予約。ふらりと立ち寄って当たりを引けたら、相当に運がいい。焼きはミディアム・レアなれど、遭遇確率としてはかなりのレア物なのだ。

この他にもこの店には定番も含め、力強い肉メニューが並ぶ。実はこの店の店主は10年以上に渡り、パークハイアット東京の『ニューヨーク・グリル』『ジランドール』、ザ・ペニンシュラ東京の『Peter』など肉料理に定評のある一流ホテルのレストランを渡り歩き、2013年に独立した豪の者である。

実際、シャルキュトリーの盛り合わせなどの仕立ては、いわゆる街場のビストロでたまに出くわす、自己流のそれではない。強固な技術に裏打ちされたブレのない上質な味わいだ。

田舎風テリーヌ(テリーヌ・ド・カンパーニュ)は他の料理に使う豚肉をトリミングした肉をベースに鶏レバーでコクを加える。作りたては透明感のある味。時間が経つにつれて、レバーの味わいに深みが乗ってくる。店主の好みは「3日目あたり」だというが、仕込みがいいので味が浅くても深くても、それぞれの味わいを楽しむことができる。

↑他の豚料理の仕込みで生まれた余剰肉を活用……にしてはうますぎる。

平日限定のおつまみ盛り合わせは、他の注文に合わせて調整してくれる親切設計。この日盛られたレバームースはブランデーとポルトがさりげなく香り、仕上げにバターで上品なコクを加えたなめらかな口当たりのもの。これにキャロットラペやきのこのマリネなどのつまみとグラスワインで1,000円。

「平日限定」のサービスメニューとはいえ、いずれも手のかかった味の品。街場のビストロとはいえ、リーズナブルに過ぎる気さえする。

店主は言う。「いましかできない手のかかることをやりたい」と。

最寄り駅は西武新宿線の上石神井駅。この立地では、都心のような単価はつけられない。だがその一方で、売上偏重主義では絶対にない。手さえかければ味の底上げはできる。ブランドではなくとも良質な素材を探し、丹念に手をかけ、工夫を凝らした品を地元の家族客に喜んでもらう。そのための工夫が至るところに凝らされている。

大衆的であってもフレンチの矜持は忘れない。フランス人にとって「おふくろの味」とも言われるアッシ・パルマンティエ(ひき肉とじゃがいものオーブン焼き)はラム肉のクセを活かし、香り高く味わい深い仕上がりに。

またアンガス牛のバベットステーキは焼き目をつけた後、オーブンに入れたり出したりしながら、徐々に火を入れていく。内部が均一なロゼ色の仕上がりは、火入れのお手本のよう。ソースにはパセリやハーブを使い、エスカルゴバターを思わせる、パンチのある上品さ。付け合せは、お約束のポムフリットではなく、敢えてのマッシュポテトと随所に細かな工夫が施されている。

ちなみに「バベットステーキ」とは牛の体の中央あたりにあるハラミやカイノミあたりの部位を使ったステーキのこと。もともとリーズナブルな部位だったことから、レストランではなく、大衆的なビストロなどで提供されるステーキだ。

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dressing編集部

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