もうすぐ解禁日!だけど…ボジョレー・ヌーヴォー自体をその年の指針にするのは無理があった!?

みんな大好き「お酒」だけれど、もっと大人の飲み方をしたいあなた。文化や知識や選び方を知れば、お酒は一層おいしくなります。シャンパーニュ騎士団認定シュヴァリエによる「お酒の向こう側の物語」
♯ボジョレー・ヌーヴォー

2017年11月12日
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もうすぐ解禁日!だけど…ボジョレー・ヌーヴォー自体をその年の指針にするのは無理があった!?
Summary
1.「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」が出てきた背景とは?
2.ボジョレー自体をその年の指針にするのは無理がある!?
3.肩の力を抜いて、気軽で幸せな祝祭日。それがボジョレー・ヌーヴォー

そこまではしゃがなくても、逆に、そこまで目くじらを立てなくても……

ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日は、1年に1度のワインの気軽で幸せな祝祭日。ただただ、それでいいんじゃないか。静かにしみじみでも、仲間と楽しくパーティーイベントに出かけるのもいい。しかし、いわゆるワイン愛好家の中でも、そうでない人でもヌーヴォーの日は穏やかではなくなってしまう。

熱狂派と嘲笑派とでもいうのか。どちらもなにか、過剰。僕は、そのどちらも肌に合わない。百年に一度とか、近年稀にみるとか、そういうキャッチーな言葉を巡っての論争や嘲笑など、どうでもいいし、むやみに熱を上げるのもなんだかな、と。嗜好品でもあるワインに対して、そこまではしゃがなくても、逆にそこまで目くじらを立てなくても……、と思う。

なんでこんなことになっちゃってるんだろうか。「そもそもボジョレー・ヌーヴォーって?」というあたりをおさらいしていきましょう。

そもそも「ボジョレー・ヌーヴォー」って何?

基本中の基本として、「ボジョレー」はエリア名で、「ヌーヴォー」は「新しい」というフランス語。このあたりはOKとして話を進めます。ちなみに、ボジョレー、とか、ボージョレとか、ボージョレ―とかいろいろな表記や呼び方がされますが、どの発音をとるかというレベルで、商品名自体も結構混在しているので、そのあたりは日本においては、まあ、気にしなくてもいいでしょう。

ここからは、熱狂も嘲笑も違うんじゃないか? という根本的なことにもつながるので、あらためてというあれこれを。

ボジョレーといえばガメイ、ガメイといえばボジョレー?!

まず地域と特徴。ボジョレーは、名産地ブルゴーニュの南側にあります。北へ行けばシャンパーニュ。ブルゴーニュを基準にすればシャンパーニュとボジョレーは反対側に位置します。

南側に位置するボジョレーは、もちろん地中海に面した南仏エリアに比べればそうでもないけれど、北側のシャンパーニュよりは温暖。ブドウは早めに熟し、生まれるワインはおおむね軽いタッチでフレッシュ。明るく赤い小さな果実のキャンディ的なテイストとテクスチャーでさらっと飲みやすく、日本人の感覚でいえば、うまみ的なニュアンスも心地よい。1~3年の熟成は十分できるワインもあり、造り手次第ではブルゴーニュの上級品を思わせるものも出てきます。

そのボジョレーエリアの中でも格付けがあり、一般的なエリアは「ボジョレー」「ボジョレー・シュペリュール」で、その中から選りすぐられたエリアとして指定されているのが「ボジョレー・ヴィラージュ」、さらにその中から特に優良とされているエリアは村名を名乗れる。「モルゴン」、「サン・タムール」、「フルーリー」、「ムーラン・ナ・ヴァン」など10の村が指定され、それぞれ、よりスパイシーさがあったり、長期熟成に向くなど特徴がよく出たワインが楽しめます。

ブドウ品種は赤が「ガメイ」で、白は「シャルドネ」が主だけれど、「ボジョレーといえばガメイ」と捉えていただくとわかりやすいでしょう。前述したボジョレーのワインの特徴はこのガメイの特徴と置き換えてもいい。

このガメイ、フランスを見ても世界を見ても、ワインとして流通しているものは、ほぼボジョレー。ガメイといえばボジョレーで、ボジョレーといえばガメイ。ただ、とても個性的なブドウではあるけれど、味わい的にもそれほど高く売れるワインでもない。ということで、さて、どのように売っていくのか?

いち早く新酒として市場に出しちゃおう、というアイデアが大当たり! だけど……

ボルドーやブルゴーニュ、ロワールやアルザスにシャンパーニュというような、高付加価値ではなかなか売れない。というところで、目を付けたのが、ガメイの仕上がりの早さ。醸造のやり方によって、その年、いち早く新酒として市場に出せるというアイデアが浮かぶ。その新酒を出す日を祝祭日として盛り上げる。協同組合による結びつきもあって、ボジョレーをあげてその取り組みがはじまる。これが1950年代の出来事なのです。その作戦は大当たり!

そして70年代に入ると、日本でもヌーヴォーの代名詞といえる『ジョルジュ・デュブッフ社』の積極的な海外戦略もあり、「ボジョレーの新酒」が、いつのまにか「フランスの新酒」として認識されるようになっていきます。

けれども、フランスの各産地がすべて同じ年に素晴らしいヴィンテージを迎えるわけではありません。植えられるブドウ品種も様々だし、それぞれに恵まれた環境も、求める天候も違う。その中にあって、さらに異質なボジョレー自体をその年の指針にするのは無理があるんですね。

日本における最初の狂騒のピークは1988年~1990年にかけてのバブル時期。この時すでに「フランスの新酒」、「今年のフランスの出来ばえを占う酒」というイメージが出来上がっているけれど、そもそも、その時点で掛け違えがあったんでしょう。

ボジョレーが「100年に1度の出来より秀逸」みたいな謎のキャッチでいわれていても、それがフランス全体で「100年に1度の出来より秀逸」ってわけではないんです。ちなみにバブル時よりも盛り上がったのが2003年。バブル時の50万ケースに対して100万ケースを上回ったのだとか。この時に生まれたのが「100年に1度の出来ばえ」というキャッチコピー。

なぜ「解禁日」が生まれたのか?

嘲笑派(?)さんには「ほら、日本人は踊らされてるんだ」という格好の材料っぽい話ですが、本家フランスも賑やかでなかったわけじゃない。解禁日が11月第3週木曜日になった理由の裏側にはフランスでの狂騒もあったんです。

1950年代の出来事から60年代に入って、フランスでも、競うように早く味わおうとする動きが出てきました。結果として、ただでさえ完熟前にお祝い的にリリースされているヌーヴォーなのに、さらに熟成していない、言ってみればとにかく早く出せ!的な粗悪品が出回り始めてしまった。

そこでフランス政府が1967年に11月15日を解禁日として決定。その後、土曜日・日曜日が休日に当たると運送などの面で不便ということで、1985年より現在の解禁日に。どこだってお祭り好きと、そこにのっかる人はたくさんいますからね。

3,000円~4,000円台のヌーヴォーはむしろコスパはすごい!

それから、わりと事情通の嘲笑派さんからの渋いコメントであるのが「フランスではあんなものは安く売ってるのに日本ではバカ高い。そんなものにお金を出してどうするんだ」。確かに価格面では事実。解禁日に合わせるための空輸にかかる費用などがのせられるのでどうしても割高に。

ただ、3,000円~4,000円代のヌーヴォーの多くは、天才、鬼才、匠など名ワインメーカーたちの、彼ら、彼女たちだからこその秀逸な作品。彼らのヌーヴォーをこの価格で楽しめるなら幸せ! という感じで、むしろコストパフォーマンスは抜群。中にはヌーヴォーながら1年後に飲みたいと思うものさえあります。

シャンパーニュ騎士団おすすめの「ヌーヴォー」を教えます!

「シリル・アロンソ P・U・R ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー」
「ポール・サパン ボジョレー・ヌーヴォー キュヴェ・トラディション」
「フィリップ・パカレ ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール」
「ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー ルイ・テット キュヴェ サントネール」

あたりは、毎年定点観測的に味わっていますが、それぞれの個性がその時の出来でどう変わっていくのか。不作で収穫量が減った時にどんな技を見せてくれるのか? 逆に豊作でブドウの出来がリッチになりすぎた時に、彼らの哲学をどう反映していくのかという楽しみがあります。

そう、今年の出来は、彼らにとってどういう年なのか、であって、ジャンル全体の出来を語るものではない。「熱狂派」の方々の中でも、確かにただ踊っているだけになってしまっているということもあるかもしれませんが、好きなワインメーカーを見つけて追いかけていくことで、もう少し冷静に、お祭りだけではない、ワインを楽しむ喜びを感じていただけたら嬉しい。

気に入ったら、今度はヌーヴォーではなく彼らが通常造っているボジョレーのワインも楽しんでください。ヌーヴォーをきっかけに、新酒で現れるエッセンスがさらにしっかり昇華されたワインから、ボジョレーというエリアの素晴らしさ、ガメイというブドウ品種の楽しさも感じていただきたいのです。

眉間にシワなんか寄せて飲んじゃダメ! もっと自然に、もっと楽しく

ボジョレー、そしてガメイは、日本のテーブルにもよく合います。肉でいえば豚肉。テイストでいえば醤油やみりんによく合います。合わせ技では濃すぎない豚バラ煮込みや、ポークの蒸し物に和風だしとちょっとだけ柚子胡椒。安い価格のヌーヴォーとなれば歌舞伎揚げやきんぴらごぼう、ひじきなどコンビニで買えるものでもすんなり寄り添ってくれます。

また、解禁日にこだわらず、新年、お節料理とともに。〆の関東風のお雑煮まで。そのときは部屋を暖かく、ワインはキリっと冷やして。日本にとってもとてもフレンドリーでチャーミングな存在なんです。

だから、肩の力を抜いて、1年に1度、ここから新しいワインが生まれてくるんだな、飲めるんだなという、そういう日でいいんじゃないか、と思います。気軽で幸せな祝祭日。そこに、いつもの生産者が、いつものように、今年も新しいワインを届けてくれる。七草粥でも土用の丑の日でも初詣でもいい。4年に1度のワールドカップを熱狂と嘲笑で迎える人が、今度は立場を入れ違えてアニメの新作やスマホの新作に対して熱狂や嘲笑の立場を変える。どっちだっていいんですよ。

敬老の日に先達に感謝するように、クリスマスにケーキを買うように、楽しく迎えましょう。あんなもの、でも、絶対飲むべき、でもない、もっとリラックスした気持ちで。プロでもない限りは眉間にシワなんか寄せて飲んじゃダメ。ボジョレー×ガメイ×ヌーヴォー。それは、アロマもテイストも飲み心地も、明るい笑顔、楽しい話題、幸せなテーブルが生まれる組み合わせ。

年に1度のワインの気軽で幸せな祝祭日。繰り返して書くけれど、ただただ、そんな日でいい。



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