なぜ正月に「雑煮」を食べるのか? 日本人なら知っておきたい、雑煮のルーツと江戸雑煮のおいしい作り方

日本古来の伝統食は、日本の気候や風土、歴史によって長年育まれてきた大切な食文化です。中でも、暮らしの節目節目にくり返される「行事食」には、日本人のスピリットが凝縮されています。本連載は、日本の伝統食、行事食にスポットを当て、知っておきたい基本知識について、日本料理研究家の柳原尚之さんにお話しいただき、さらに覚えておけば日々の食ライフがランクアップする、日本料理の基本レシピも随時紹介!

2018年01月01日
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なぜ正月に「雑煮」を食べるのか? 日本人なら知っておきたい、雑煮のルーツと江戸雑煮のおいしい作り方
Summary
1.正月にどうして餅や雑煮を食べるのか? その発祥と由来について
2.日本全国を回れば、こんなにユニークな雑煮も!
3.柳原家の雑煮、おいしい雑煮作りの秘訣を公開します

連載2回:雑煮の歴史と由来について【日本料理研究家/近茶流嗣家・柳原尚之】

1年に一度、気持ちを新たにして迎える新年。どんなにライフスタイルが変化しても、自分の生まれ育った土地の雑煮は、特別な思いや、愛着があるもの。そんな雑煮は、土地土地で千差万別といえるほど、汁や具材、餅の形状や料理法にバリエーションがあるのはご存知の通り。

ライフワークとして代々で47都道府県の雑煮を食べ歩き、今も研究を続けるという、江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)の柳原尚之さんに、さまざまな角度から雑煮の雑学についてお話しいただこう。

餅には神様の魂が宿る

日本人にとって、古くから餅はハレの日に食べるものでした。特に正月の餅は神(歳神様)が宿るものとして、家の中で一番格の高い床の間に飾られ、形は三種の神器、八咫鏡(やたのかがみ)の形に似ていることから、鏡餅と言われ、丸く形作られます。丸いものというのは望月信仰にもつながっていて、満月になぞらえ、お腹を満たす、生活性を満たすに通じるものでした。

餅の材料はもち米です。日本に最初に伝来した米は、うるち米ではなく、もち米系の品種と言われています。その後、うるち米が一般に広まった後も、うるち米より収穫量が少なく、高価であったもち米は、神に供える特別な食べ物としてふさわしいとされたのでしょう。関東では角餅が一般的ですが、これは関西から丸餅として入ったが、略式として江戸で角型になったと言われています。正月に餅を食べるのは平安時代、宮中で行なわれていた「歯固之儀(はがためのぎ)」が始まりで、その後、餅を入れて、各種の具材を入れた雑煮は、室町時代から食べられていたようです。

なぜ正月に「雑煮」を食べるのか?

雑煮の由来については、いろいろな説がありますが、私の祖父、柳原敏雄の著書『伝承日本料理』(NHK出版)ではこう紹介されています。

『雑煮は餅を主体にした羮で、もとは臓腑を保養するもので「保臓(ほぞう)」、それから「烹雑(ほうぞう)」へと変化したという説があります。また、九州で雑煮を「なおらい煮」とよぶところが多いのは、年越しの夜に神をむかえて行った祭りの直会(なおらい)として供饌の餅を下げ、雑煮を祝った事によると言われています。』(322頁)

昔は温かいものを食べ、お腹を温めることで胃腸などの五臓六腑を健康に保ち、病気にかからないという考え方がありました。このことを臓器を保つという意味で「保臓」(ほぞう、ほうぞう)と呼び、その「臓」が「雑」に転じて「雑煮」になった、と。神様の魂が宿る、縁起物の餅を加えた、温かい汁物を正月に食べることで、1年の無病息災を願ったのです。

温かい汁物のことを昔は「羮(こう・あつもの)」と言っていました。雑煮もこの羮の一種です。平安時代の貴族の食事を調べてみると、冷たい料理が多い。今では温かいものを温かく食べることは当たり前ですが、当時はできなかったのでしょう。羮は体によいご馳走だったのです。

なお、神様に供える鏡餅では、2つの餅を重ねて飾ります。これは奈良東大寺で行なわれる法会「お水取り」がルーツのひとつとされています。平成30年で1,267回目を数え、1回も滞りなく毎年続いている行事です。このお供えの餅を檀供(だんく)というのですが、餅を1,300個以上ついて丸め、高く重ねて十一面観音様にお供えします。その簡易版が、餅を2つ重ねる鏡餅として広まったとも言われています。

日本全国を回れば、こんなにユニークな雑煮も!

雑煮は地方によってさまざまな特色があり、餅の形も具材も、だしも作り方も違います。私の祖父、柳原敏雄は、日本の郷土料理の研究者でもありました。戦前から日本全国を回って郷土料理を研究していたのです。その中でも、もっとも色濃く地域の特色が出るのが、正月のおせち料理と雑煮でした。私も受け継いで今も研究し続けていますが、その中でも印象に残った雑煮がいくつかありますので紹介しましょう。

東北・岩手県の三陸海岸地方の「くるみ雑煮」。煮干しだしで、焼いた角餅の入る雑煮ですが、変わっているのは餅の食べ方です。ゆでたくるみをすりつぶして作った甘いくるみだれを作り、雑煮の餅をこのたれにつけて食べるのです。

四国・香川県の「あんもち雑煮」。甘いものが贅沢だった時代。和三盆で有名であった高松藩の土地柄を反映させている雑煮です。煮干しだしで白味噌仕立ての雑煮に、甘い小豆あん入りの丸餅を入れます。

九州・長崎の具雑煮。あご(トビウオ)だしのすまし仕立てで、焼いた丸餅。具は鶏肉、かまぼこ、白菜、人参、唐人菜など、必ず奇数(9種や13 種など)入れます。日本の雑煮の中でも、もっとも具だくさんで豪華とされています。具が多く、椀にすべての具が入るように、竹串にまとめて通しておき、一度に椀に入れます。

また、雑煮に青菜を入れるところは日本各地にありますが、食べる時に「名を上げる」という意味で青菜を持ち上げてから食べたり、「名を残す」という意味でわざと青菜だけ残すという風習もあります。武家時代の名残ですね。

徳島の祖谷(いや)地方では、餅を入れない「餅なし雑煮」もあります。干し椎茸でだしをとり醤油で味をととのえたすまし汁。昔は山奥で米があまりとれなかったため、餅の代わりに豆腐や里芋など、土地で採れたものを餅に見立てて入れるのです。

雑煮は地方によって、これほどの違いがありますから、家庭によっても少しずつ違ってくるもの。家によっては、元旦は旦那さんの家の雑煮、次の日は奥さんの実家の雑煮と、違う雑煮を作って食べる家もあるようです。あとは、雑煮を作るその家の奥さんの好みが反映されるでしょうね。たとえば関西なのに、東京出身の奥さんの好みで具や汁がだんだん江戸風になって、子供たちもそっちのほうがおいしいと味方したりして、ハイブリッドになっていくことも。そんなところも雑煮の面白さなんですね。

柳原家の雑煮、おいしい雑煮作りの秘訣おしえます

一般的な江戸雑煮は、すまし仕立てで鶏肉や青菜、人参、なるとや里芋が入るところが多いですね。近茶流は魚河岸とのつながりがあるので、必ず海老を尾頭付にして入れるのが大きな特徴です。あとは、柚子と小田原かまぼこが入りますね。

では、「近茶流江戸雑煮」(写真下)の作り方を紹介しましょう。

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柳原尚之
江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)/「柳原料理教室」副主宰