「ワイン」選びに迷ったら?ワインナビゲーターが死ぬまでに飲んでおきたい、コスパ抜群な「新世界ワイン」

みんな大好き「お酒」だけれど、もっと大人の飲み方をしたいあなた。文化や知識や選び方を知れば、お酒は一層おいしくなります。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエによる「お酒の向こう側の物語」
♯アルゼンチン・メンドーサのオススメ「ワイン」

2018年02月09日
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「ワイン」選びに迷ったら?ワインナビゲーターが死ぬまでに飲んでおきたい、コスパ抜群な「新世界ワイン」
Summary
1.クオリティが高く、コストパフォーマンスのいいワインが味わえる「アルゼンチン・ワイン」
2.自然に恵まれた環境で育まれたアルゼンチンらしさを表現する「トロンテス」と「マルベック」
3.ワインナビゲーターがオススメする、アルゼンチン・メンドーサの「ワイン」5選

ワインナビゲーターが教える、アルゼンチン・メンドーサのオススメ「ワイン」

ワイン消費量世界5位というワイン大国であるアルゼンチンの約7~8割のワインを生み出す街・メンドーサ。今回は、シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長であり、酒旅ライター兼ワインナビゲーターでもある岩瀬大二氏が実際にメンドーサに訪れ試飲した、日本でも味わえるオススメのワインを紹介していただいた。

アルゼンチンのワインは妄想を掻き立ててくれること間違いなし!

「死ぬまでに見るべき絶景」や「人生でやっておきたい10のこと」なんていうトピックスがよくあるが、僕にとってそのひとつが、ワイン畑からアンデスを望めるメンドーサという場所にいき、そこでワインを味わうことだった。

ワインを味わうことは、風景を味わうこと。だからワインを求めて旅に出る。日本、世界、ワインのある場所に行った、その体感と記憶は瞬間で終わるわけではなく、ホームタウンに帰ると不思議に増幅される。風の硬さ、柔らかさ、強さ、涼やかさ、土や木々の匂いに、ワイナリーでなついてきた犬の息の暖かさに撫でた毛の感触。女性でも男性でも、彼女たち、彼たちと過ごした時間。ワインを飲んだ時にそれを思い出すこともあれば、それを思い出すことで飲みたくなるワインもある。

もちろんまだ足を踏み入れていない憧れの場所でもいい。ワインを飲み、その土地の物語を思い浮かべながら飲めば、もうそこにいったようなもの。本気の妄想へと誘ってくれる。僕も実際にメンドーサを訪れるまで、アルゼンチンのワインを飲んで、妄想を大いに膨らませていた。そしてその妄想のメンドーサを、アルゼンチンのワインは掻き立て続けてくれていた。

アルゼンチンの約7~8割のワインを生み出す場所。それがメンドーサ

大西洋岸の首都ブエノスアイレスから西へ遥か1,060kmほど。アンデス山脈に抱かれた街メンドーサは、ワイン消費量世界5位というワイン大国であるアルゼンチンの約8割のワインを生み出す場所だ。標高700mから3,000mとブドウ畑としては世界最高の標高で育まれるブドウ、そこから造られるワインは、朝、昼、夜、季節による寒暖差と存分な日射量、年間200mlというごく僅かな降雨量(東京でいうならばだいたい9月、1カ月分で降ってしまう程度だ)、乾きながらもアンデスの万年雪の潤いを含んだ心地よい風、豊富でピュアでクリーンな雪解け水を利用した灌漑(かんがい)によって、人工的にオーガニックなブドウ栽培をしなくても、自然にオーガニックで行えるという恵まれた環境にある。

僕が訪れた9月は、美しく澄んだ青空と、自由に空を泳ぐ白い雲にアンデスの永遠の白のコントラスト。それはまさにアルゼンチン国旗、そして代表サッカーチームのユニフォームを見るようだった。

アルゼンチンらしさを表現するブドウ品種についても紹介しておこう。

代表的なものは白では「トロンテス」、赤なら「マルベック」だ。「トロンテス」は、ゆるやかな飲み口と桃や洋梨に少しライチなどを感じる清らかで優しいテイスト。明るい午後にちょうどいい。

「マルベック」はもともとフランス南西部生まれ。ここで造られる「マルベック」のワインは、黒ワインという異名も持つ。渋くてタイトなタンニンは、まさに男の世界。しかし、時間の変化とともに少しずつ甘くはないが優しい表情も見える。ハードボイルド映画の主人公を思わせる存在だ。

アルゼンチンの「マルベック」はこれとは反対に、最初の口当たりやアロマは優しくゆるやかで、伸びやかな果実味を感じるけれど、時間の経過とともに力強さやストイックさを感じられる。意外に骨太で芯が強く、でも最後まで優しい表情は変わらない。こういうワインは気がついたときには酔いが回っているという点でやっかいなのだけれど、それがまた幸せであることは間違いない。

他に、世界でも話題になっていくことが予想される「カベルネ・フラン」。ボルドーで名を知られたブドウだが、メンドーサの気候、風土によく合っていて、エレガントでありチャーミング。軽やかさがありながらもじわじわとエネルギーが湧いてくる。

日本の洋食メニューとよく合うワイン、それが「トロンテス」と「マルベック」

食とのペアリングでいえばアルゼンチンは牛肉の国。ステーキと「マルベック」の組み合わせは極上。脂身の少ない赤身肉を、厚切りにしてシンプルな味付けで。お互いの旨み、甘みを引き出す関係だ。

「トロンテス」、「マルベック」とも日本の洋食メニューとよく合う。グラタン、ミートパイ、煮込みハンバーグに、ロールキャベツならデミソース(赤)でもクリームソース(白)でも。

「マルベック」は中濃ソースやお好み焼きソースでもいける。メンチカツにソースをかけた食パンのサンドイッチを豪快にほおばりながらの「マルベック」も楽しい。

大生産国でありながら国内消費によって長らく世界に出てこなかったアルゼンチンワインだが、2000年代に入って日本でも続々とクオリティが高く、かつコストパフォーマンスのいいワインが味わえるようになった。そこで、僕自身が実際に訪問して印象的だったワイナリーを紹介しつつ、すでに日本でも味わえるいくつかのワインを下記に紹介しよう。

カイケン KAIKEN

チリのトップブランドワインメーカーのひとつである『モンテス』がメンドーサで展開するブランド。アンデスを挟んで素晴らしいワインを造るチリとアルゼンチンの融合が生むのは、洗練と素朴さの見事な表現。リッチな果実味ながらも落ち着きのある優しげなアイテムが多いので、休日の雨の午後、肉、魚、野菜などをふんだんに使ったアペリティフをゆったり家で。清らかさをゆるやかに味わえる。

ルティーニ RUTINI

最新技術と欧州的エレガンス。ゴージャスな場面をさらに盛り上げてくれそうなプレミアムレンジもあれば、若い方の入門編になりそうな素直でわかりやすいシリーズまであるが、いずれも、ちょっとおしゃれに気を使って飲むと気分のいいワイン。高原の初夏に楽しみたいスパークリングワインや、星付きレストランでも十分な実力を見せてくれそうな「ENCUENTRO MALBEC」が印象的だった。

サレンティン SALENTEIN

アンデスを背景にした醸造所はそれ自体が芸術品。ワイナリーにはアルゼンチンのモダンアートを集めた美術館やレストランも併設。ツーリズムとしても素晴らしい環境で、造られるワインも芸術性と親しみやすさのバランスがいい。酸とジューシーさが心地よい「PORTILLO MALBEC 2017」4種のブドウをブレンドした「NUMINA GRAN CORTE 2014」の清涼な深みは時間を忘れて味わえるアイテム。

トラピチェ TRAPICHE

1883年の設立。ワイナリーには往時をしのばせる歴史的な史跡も残るがその歴史は常に革新。フレンチオークの輸入、ステンレスタンクの導入など、新しい風をメンドーサに送り込んできた。そのDNAが見事に表現されたのが「PURE MALBEC」。樽熟成が常識のマルベックをステンレスタンクで。今まで味わえなかったマルベックの素顔が見えてくる新感覚が楽しい。

ボデガ・ノートン BODEGA NORTON

早い段階から日本への輸出を始め、そのコストパフォーマンスの良さと親しみやすさから日本でも購入しやすいブランド。という先入観もあり、それほど新しい発見については期待せずに訪問したのだが…。こちらが所有する1980年代のマルベックをテイスティングして驚愕。フレッシュさが継続どころかさらに増し、奥底から力強いパワーが目覚めてくる。その大手の力はカジュアルなアイテムからも存分に伝わってくる。

ぜひ、皆様も、これらのアイテムをお試しいただきたい。