恵比寿の雑居ビルに誕生した秘密の隠れ家。心地よき完全紹介制のワインバー『瑠璃』

【連載】幸食のすゝめ #069 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年07月20日
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恵比寿の雑居ビルに誕生した秘密の隠れ家。心地よき完全紹介制のワインバー『瑠璃』
Summary
1.看護の世界から飲食の道へ。オーナーの願いを盛り込んだ、完全会員制の小さな隠れ家
2.最も大切にしたのは、一人ひとりのお客さまの気持ちに寄り添った気配りができる距離
3.イタリアンと和に精通した女性シェフの料理と、現地で買い付けた豊富なイタリアンワイン

幸食のすゝめ#069、秘密の扉には幸いが住む、恵比寿

「いつまでもお客さまたちに心地よい時間を過ごしてほしいから、時計の針はラストオーダーの3分前で止めてあるんです。楽しい時間が、いつまでも終わらないように」。

静かにサム・クックやドリス・デイが流れる古いジュークボックスの近く、ジャカード織りのゆったりとしたソファのそばに掛けられた大きな柱時計。決して振り子は揺れることなく、その針はいつも12時3分前で止まっている。

「大人の居場所、隠れ家を作りたかったんです」、そんな女将西田瑠里さんの願いは、恵比寿駅から数分の場所にある、古い雑居ビルの最上階で瀟洒(しょうしゃ)な実を結んだ。

完全紹介制のワインバー『瑠璃』、店の名はもちろん美しき女将の名前から付けられた。

最初は、恵比寿にあるイタリアンレストラン『ALMA』の熱心な客だった。
介護の仕事に就いていた頃、休みが取れると『ALMA』に出かけて、東北直送の食材やイタリアのワイン、気さくなスタッフたちに癒された。
介護の仕事には、調理師や栄養士など飲食関係の仕事も多い。はじめは調理を希望していた瑠里さんは、とうとう「この店で働かせてください」とリクエスト。
最終的には店のマネージャーを務め、10年の時が流れた。

「でも、自分の目が隅々まで届く範囲で、小さなお店をやりたいと思うようになったんです。一人ひとりのお客さまの気持ちに寄り添った気配りができる距離、それが何よりも大切だと思って…」

そんな時、現在の物件に出会い、ひと目で惚れ込んだ。都市の雑踏と喧噪が窓の外に広がる、静かで小さな空間。
空いていたとなりの部屋も借りて、貸切用の個室も作ろう。セラーの中は、イタリアのワインでいっぱいにしよう。
アイデアがひとつずつ形になっていく。

いちばん大切なコンセプトは、「完全紹介制」というシステムだった。もちろん、住所も電話番号もクローズド。いわば大都会の真ん中にある、小さな秘密の隠れ家だ。

こどもの頃、誰もが一度は隠れ家作りに夢中になる。自分だけの場所を持つことの優越感と、秘密の場所が持つ背徳感。
そんな隠れ家が持つ高揚感を、選び抜かれたワインと旬の素材を活かした料理と共に楽しむ。

それは、都市の片隅で味わう最高の贅沢に違いない。

開店は午後4時、夕方からきちんと飲める場所にしたかったという女将の願いは、街を見晴らすカウンターに座れば即座に理解できるはずだ。
夕暮れ前、公園で遊ぶこどもたちの姿に心を癒されていると、周囲のビルたちが灰色から少しずつピンクに染められていく。ブルーのグラデーションが少しずつサーモンピンクに溶け出していき、やがてオレンジ色に支配される。
限りなく、ひとりになれることの至福、もちろん愛する人がそばに居てもいい。

女将が注いでくれたロザートの薄いオレンジ色が、夕陽に染まる東京とひとつに重なって見えてくる。

幸せとはきっと、こんな時間に付けられた名前かもしれない。

ワインの味を引き立てる旬の小皿たち

ワインに添えられる小皿は、イタリアンと和に精通した女性シェフ小島ヒトミさんが腕を揮う。季節の食材を活かしたアクアパッツアなどのアラカルトや〆のパスタもオーダーできる。

そのすべてに共通するのは、ワインの味を引き立てるために、塩や醤油などの塩分を極限まで控えていること。それでも味が決してぼやけることがないのは、通常より濃く、丁寧に引かれただしの成せる技だ。

最近の隠れたヒットは、南部鉄器で炊き上げた白いご飯、思わずお代わりが止まらなくなってしまう大人たちも多いらしい。タイマーや自動調節、現代人が便利さと引き換えに失ってしまった大切なものがここにはたくさんある。

自分自身に帰るための小さな秘密の隠れ家

メインラウンジと、貸切用のテラス付き個室スペースを結ぶエントランスにはウォークインセラー。女将がイタリアで買い付けてきたワインたちが地域ごとに整然と並んでいる。このセラーのボトルたちは、テイクアウェイとして購入も可能。週末の自宅用や誰かへのプレゼントを選ぶ時にも便利だ。

葡萄のステンドグラスと囲炉裏、古民家の欄間を使ったランプシェード、大正浪漫をイメージした店内には、静かにオールディーズが流れている。
「ケセラセラ」、ドリス・デイの代表曲だ。「なるようになる」という歌詞の意味は、決して諦めや投げやりの態度じゃない。
少し肩の力を抜いて、自然の流れに身を任せる、そんな心の余裕を持つということ。そんな気持ちに出会いたくなったら、『瑠璃』の扉を叩いてみることだ。

秘密の扉の向うには、幸いが住んでいる。

完全紹介制、要予約の『瑠璃』。
今回、dressingプレミアム会員の方限定で、特別入店特典をいただきました!


※取材時にいただきました特典は、2018/7/20~2018/8/31まで有効です。


『瑠璃』への入店方法は…こちら!

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