日本の中の小さなリアル・ベトナム! 高座渋谷に突如現われるベトナムそのままの街角と魅惑の料理

【連載】幸食のすゝめ #071 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年08月05日
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日本の中の小さなリアル・ベトナム! 高座渋谷に突如現われるベトナムそのままの街角と魅惑の料理
Summary
1.一歩中に入ると、そこはもう異国の街角!? 現地に瞬間移動したかと錯覚するベトナム料理店
2.生まれて初めての食感と、厨房から漂う発酵臭とハーブの香り、ベトナム女子の片言の日本語
3.定番バインミーから発酵味噌ソースでいただく揚げ豆腐「タウ フー チィン」まで、ベトナムそのままの料理を満喫

幸食のすゝめ#071、皿盛りの葉っぱには幸いが住む、高座渋谷(神奈川)

「マムトムというソースを付けて食べる揚げ豆腐はマスト、あと冷蔵庫にある葉っぱ野菜ラウダンを、そのまま食べるから出して!って頼むと出してくれるから、いろんなものに合わせてつまむとおいしいよ。大丈夫、日本語通じるから。あ、ラウラムっていう葉っぱ野菜も、生で食べられるよ」。

岩本町の仏領インドシナ『アンドシノワーズ』のあずさちゃんからメッセージが入る。東京から電車で行けるベトナム、いちょう団地へのナビゲーターとして、こんなに頼もしい友はいない。でも、残念ながら、貼られていたアドレスを辿ると、説明は現地のベトナム語だった。

東急田園都市線の終点、中央林間から小田急江ノ島線に乗り換えると、車窓は一転してのどかな田園が続く。各駅停車しか留まらない高座渋谷駅で降り、スマホの地図機能を頼りにいちょう団地を目指す。神奈川県最大規模を誇る団地だから、まず誰も迷う人はいないだろう。

途中、竹薮や林の中の一本道を通り不安が募るが、10分程歩くとニョキニョキと立つ棟が見えてくる、いちょう団地だ。「バイク進入禁止」の注意書きは、ベトナム語やスペイン語、ラオス語など、6カ国語で書かれている。以前、日本語の注意書きが読めないせいで、団地内でバイク事故が多発したからだと言う。

郵便局やいちょうマートがある建物を通り過ぎてしばらく歩くと、道路の先に唐突に建つ食材倉庫のようなプレハブの建物が見えてくる。食材の保護のためだろうか、ブルーシートやブラインドで目隠しされた窓。しかし、「OPEN」という文字のネオン管が見える。

本当に食事もできるのだろうか、恐る恐る店を一周してみると、裏には「ベトナム料理」という日本語が白いテープで貼られている。扉の中にはたくさんの原色のざるや無数のハーブ、おしゃべりしているベトナム人の女性たちが見える。どうやら、こちらは厨房の入口みたいだ。

意を決して、道路側の扉を開けると、そこはそのままリアルなベトナムの街角だ。

壁一面に並ぶベトナムやアジアの食材、冷蔵庫を埋め尽くす緑色のハーブたち、思い思いの食事を楽しむベトナム人たち、目眩がするほどの異国情緒。オーダーは大丈夫かな?と考えていると、「日本語メニューあるよ」とすかさずママ。

安心して席に着き、まずは予習してきた揚げ豆腐のおつまみ「タウ フー チィン」を注文する。ママからは、「臭いけど大丈夫?」とアドバイス。エビの発酵味噌マムトムが苦手な日本人も多いので、親切にひと言添えてくれるのだろう。店のスタッフや、お客さんたちも笑顔いっぱいで素朴で優しい。

続いて頼んだ「バップ サオ」は、一見すると居酒屋メニューのコーンバター。とうもろこしをバターで炒めただけのシンプルな料理に見えるが、僅かに添えられた桜海老と独特の香辛料が深い滋味を生み出している。

スープやフォーなどの汁物を頼むと、皿に別盛りされた大量のハーブとレモンスライス。ベトナムの方たちは、皿ごといっぺんに丼にあけて、レモンをギューと搾っている。

それにしても、ハーブの中央部に見える少し茶色い千切りのものは何だろう。揚げ春巻きを運んで来てくれた女子に聞くと、いきなり厨房に引き寄せられた。なんだかドキドキしながら、指差された方向を見ると、バナナの花の蕾がいくつもまな板に並んでいた。

生まれて初めての食感と、厨房に漂う発酵臭とハーブの香り、ベトナム女子の片言の日本語…。決してアウェイじゃない日本の中の異国。だから、多くの人たちが、リピーターになるのだろう。

東洋と西洋の味覚のメランジェ

エスニックな香りの衣を纏(まと)ったエビの揚げ物には、たっぷりのミントとレタスが添えられる。紫蘇の葉で巻かれた少し辛い揚げ物には、砕いたナッツがまぶされ、ハーブとベトナム料理でお馴染みの紅白のなますと生の胡瓜。

定番のバインミーは、ハーブとなます、レバーペーストと辛い調味料、ベトナムハムとチャーシューが渾然一体となって、独特の食感のベトナム風バゲットと超絶なハーモニーを奏でている。
香りと食感、ハーブ使い、エビや魚などの発酵食品、各種の米の麺、バゲット。フランス領だった頃に培われた洗練だろうか、ベトナム料理には東西の食が出会った最良の記憶が息づいている。

そこは日本の中の小さなベトナム

隣りのテーブルにいた青年がベトナムのビール「333(バーバーバー)」を2缶冷蔵庫から出して隣りに座り、ニコニコしながら乾杯してくる。流暢な日本語でメコンデルタの話や、今住んでいる仙台の街のことを話す。

現地の人たちさえ惹き付けてやまない、その店の名は

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須永久美
ライター