【超保存版】焼肉の焼き方決定版!炭火網焼き店で部位ごと・タレと塩の焼き方を肉の専門家が超詳しく解説!

【連載】肉の兵法 第十六回 肉に向かうときに雑になってはならぬ。どこでどんな肉を食べるのか、組み立てるのが大人のたしなみであり、男の作法。「大人の肉ドリル」著者である松浦達也氏がうまい店の肉をさらにうまく食べるための作法を解説する。

今回のテーマは肉の焼き方。焼き網全体を使って一気に肉を焼いていますか? 塩もタレも一緒に焼きますか? だとしたらあなたには、もっと焼肉がおいしくなる方法があります。

2018年09月28日
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【超保存版】焼肉の焼き方決定版!炭火網焼き店で部位ごと・タレと塩の焼き方を肉の専門家が超詳しく解説!
Summary
1.いつもの焼肉が劇的においしくなる!肉の賢人・松浦達也氏が伝授する、焼肉の焼き方『炭火・網焼き店』編
2.松浦氏おすすめの焼肉店にて実践レポート!「肉の細胞&調理の科学」目線から分かりやすく徹底解説。
3.成功体験を積むことが、なにより肉焼きが上手になる秘訣

焼肉の基礎知識:炭火・網焼きの焼肉店で、肉はこう焼く

「炭火焼きの焼肉店で出された厚切りタンは、網のどこに乗せるのが正解?」「ガスロースターの店でのタレカルビの焼き方は?」「レバーやハツはどう焼いたらいいの?」
なんてことをときどき聞かれます。本当は肉焼きに唯一絶対の正解なんてありませんが、多くの人に好まれる焼き上がりの基本形はあり、そうした「いい焼き加減」を目指すための焼き方もあります。

焼肉は食べ手が好きに焼くことができるとても自由な食べ物です。しかし自由には当然責任がつきまといます。焼肉は調理と食事を一度に行うという、難度の高い料理。それだけにほんの少し焼き方を覚えるだけで、劇的においしくなるのです!

大前提として、肉焼きがうまくなるには成功体験を積むことが大切です。狙いもないまま、失敗を何度も繰り返すのではなく、意図を持って肉と焼き台に向き合う。そうすれば焼肉は必ずうまくなります。そのためには肉を愛し、肉を知る、信頼できる店を見つけること。そういう店は肉焼きを上達させてくれます。

というわけで、本日は僕が信頼する赤坂『KABUN-CHIKA』(近くにある「かぶん」の2号店)で、「炭火×網の店での焼肉の焼き方」を追求していきましょう。

えっ。ガスロースターはどうするのかって? そちらも次号でがっちりやる予定ですので少々お待ちください。

肉の種類:分類と、焼くコツ

まず焼肉店で焼く肉の種類ですが、大きく3種類にわかれます。

これに「タレか・塩か」問題や、焼き網の種類「太網か・細網か」、熱源は「炭か・ガスか」などさまざまな変数が掛け合わされますが、まずは“肉のこと”だけを考えてください。基本的な肉の焼き方がわかれば、その他の付随する問題はおのずと解決されます。それぞれの肉の焼き方は次の通りです。

いずれにも共通するのは「温める」というキーワード。「焼肉」と言う名前からつい「焼く」ことだけに意識が向きがちですが、焼くだけでなく薄切り肉の内部にどう火を入れるか、も大切なのです。

焼肉は、部位ごとに火の入れ方が異なる

こちらが本日のお肉です。

《塩》
① 牛タン3種 … 厚切り・切り目入り、薄切り、タンスジ(タンルート)
② レバー
③ ハツ2種 … 厚切り、薄切り
④ ハラミ … 厚切り
⑤ ショウチョウ

《タレ》
⑥ カルビ         
⑦ ロース… 薄切り

以上、焼肉のなかでもメジャーな7種類の部位をピックアップ。塩→タレの順で、ひとつずつ詳しく解説しながら焼いていきましょう。

① 《塩》牛タン3種 … 厚切り・切り目入り、薄切り、タンスジ(タンルート)

『KABUN-CHIKA』にはまさに「タン盛り合わせ」という、タンのなかでも特徴の違う3種盛りのメニューがあります。まずは厚切りタンから行きましょう! この店のタンは片側に鹿の子の切り目が入っています(※切り目が入っていない極厚タンの焼き方は、以前の記事「極厚の牛タンを完璧に焼き上げた幸せな焼肉」で説明しています)。

▲厚切りタン・切り目入り

厚切りタンは、切り目を下側にして、網の中央近くに置きましょう。ただし炭を網のギリギリの高さまでパンパンに詰めてあるような店なら、少し火の弱いやや外側に置くのをおすすめします。最初の数枚は網上の肉を置く場所に、一度サッと肉の焼く面をなでつけてから肉を置きましょう。肉の水分と脂分をほんの少しでも網に塗布することでくっつきリスクが少なくなります。

カンテキ(七輪)の上の温度は店によっても差がありますが、基本的に中央が一番高く400~500℃前後、その周囲が250~300℃前後、一番外側が100~200℃と場所によってかなり差があります。ただしこれはあくまで基本線。焼き台にはクセやムラがあり、排気や空気の流れによっても条件は変わります。必ず、網の上に手をかざし、網上の温度を確認してから乗せましょう。この日は中央付近の広いエリアが、適温だったので中央に置きました(写真上・左)。

まず、表面にカリッとした焼き色をつけます。塩で食べることの多いタンですが、焼きが甘いと独特の香りが気になることも。表面に焼き色をがっちりつけて、香ばしさを立たせるのがポイントです。切り目の奥の見えているところがレアの火入れになってきたら、返し時。

裏側にも同じような焼き色がついたら焼き上がり(写真上・右)。ザクッとしたタンの食感とともに噛むほどにあふれる肉のうまみを堪能してください。

▲薄切りタン

薄切りタンを焼き網×七輪で焼く場合には、もっとも高い温度の場所に置きましょう。表面に網目の焼き目をつけつつ、中まで火を通しすぎないようにするためです。こちらもまず肉を置く場所に肉をサッとなでつけたら肉を置き、最初に焼いた面が少し反りだしたら返して……。

両面にこのくらいの焼き色(写真上・右)がついたら薄切りタンはOKです。タンは縦横無尽に肉の繊維が走っている特殊な構造の部位で、それゆえ鹿の子に包丁を入れたり、薄切りにしたりするのですが、それでも火を入れすぎるとタンはかたくなってしまいます。焼肉だけに、じゅうじゅう気をつけてください(ああ、言ってしまった)。

▲タンスジ(タンルート)

最後にタンスジ。正式にはタンルート、店によってはタンゲタなんて呼び方もしますが、タンの付け根の部分です。基本的には薄切りタンと同じ考え方で構いませんが、ここはとりわけスジの存在感が強い部位。強火にかけるとすぐ反るので、トングで押さえて強引に焼き目をつけながら焼きましょう。

《まとめ》
■厚切りタン・切り目入り
先に切り目から焼く。温度が高温に確保されているエリア(中央付近)に置き、表面に焼き色をがっちりつけて、香ばしさを立たせる
■薄切りタン
もっとも高い温度の場所で、表面に網目の焼き目をつけつつ、中まで火を通しすぎないように焼く
■タンスジ(タンルート)
薄切りタンと同様だが、すぐ反り返るので、トングで押さえて強引に焼き目をつけながら焼く

② 《塩》レバー

レバーやハツといった内臓肉はそれぞれにベストの火の入れ方が異なる、焼くのが難しい部位です。特にレバーは構造自体他の臓器と違っていて、袋の中に独立した肝小葉という構造単位が詰まっています。熱を通しすぎるとこの一つひとつがバラバラになってボソボソした食感になるので、焼き目にはこだわらずなるべく網の外側の火が弱いところに置き(写真下・左)、表面の色が変わったら返す、を繰り返して全体を慎重に焼き進めてください。

焼く前に生レバーにゴマ油をつけてから焼く(写真上・右)と網につきにくくなりますが、生のレバーをつけたタレと、食べるときのつけダレは完全分離が鉄則。安全のためにも、つけダレのゴマ油をもうひとつもらうなどして切り分けましょう。

③ 《塩》ハツ2種 … 厚切り、薄切り

ちなみにハツも焼きすぎると硬くなりますが、レバーほどシビアではありません。表面の焼き目もレバー同様、あまりこだわらなくて大丈夫。

▲ハツ・厚切り

厚切りのハツは網の外側の火が弱いところで転がしながら、じわじわと各面から火を入れます。何周か転がして、肉の内側から強い弾力を感じるようになってきたら仕上がりです。

▲ハツ・薄切り

薄切りの場合は、両面の色が変わるくらいで構いませんが、こうした脂のついたハツの場合、脂身が透き通るくらいまでは焼きましょう。食べごろは、両面を焼いた頃に溶けた脂身が滴り、立ち上った炎が目安! 脂の少ないハツでは、炎が上がらない場合もありますが、薄切りのハツは全体の色が変わったら食べごろです。

④ 《塩》ハラミ … 厚切り

一見、正肉のようなハラミですが、流通上は内臓肉として扱われます。ただ、筋繊維の構造としては正肉などと同じ「横紋筋(おうもんきん)」と言われる筋肉なので分類が難しく、あえて上記の表には入れていません。
これもタンなどと同様、部位独特の香りを気にする方もいるので、表面はバリッと焼き上げましょう。内部もミディアムレア程度には火を入れていたほうが香りもよく、ハラミ独特のザクザクっとした食感を楽しむことができます。なので焼き始めの位置はタンと同じく中央からやや外側(写真下・左)。

しっかり焼き目をつけてから返しましょう。

表裏同じくらい焼き目をつけたらできあがり。断面はこれくらいが(写真上・右)香りも歯ざわりもよく、ジューシーな肉汁も味わえます。

《まとめ》
■レバー
網の外側の火が弱いところに置き、表面の色が変わったら返す、を繰り返す。
■ハツ・厚切り
網の外側の火が弱いところで転がしながら、じわじわと各面から火を入れる。
■ハツ・薄切り
網の外側の火が弱いところでさっと両面を焼く。全体に色が変わったら食べごろ。脂のついたハツの場合、脂身が透き通るくらいまでは焼く。
■ハラミ
中央からやや外側の温度高めの場所で、表面はバリッと、しっかり焼きめをつけてから返す。

⑤ 《塩》ショウチョウ

ショウチョウ、コプチャン、ホルモンなどさまざまな呼び方がありますが、一番焼き方を聞かれる部位かもしれません。みんなショウチョウで悩んでる! 

ショウチョウは皮のように見える面と脂身がごってりついている面があります。上の画像で見えているのが、「皮」の方。焼くときには必ず皮目を下にして焼き始め、皮目の水分をじっくり抜くように焼いていきます。逆から焼くと皮の食感はちっともよくならないし、必要な脂まで溶け落ちるし、落ちた脂で焼き網上が大炎上するし、いいことなし。まずはじっくり皮目を焼き上げましょう。
中央のやや外側くらい、中弱火くらいの火加減の場所
がおすすめ。

返すタイミングは皮目がパリッと仕上がり、こんがりとした焼き目がつき、皮目の上で細かい泡がジュクジュク沸騰しているような頃。脂身が全体に半透明になったら返し、脂身を軽く温めたら食べごろです。皮と脂の焼きバランスは皮8割、脂2割! ホルモンの皮目を構成するのは「平滑筋(へいかつきん)」という焼いても極端に縮んだり、硬くなったりしない筋肉なので、時間をかけてパリッと焼き上げましょう。

《まとめ》
■ショウチョウ(ホルモン)
中央からやや外側の温度高めの場所で、最初に皮目にこんがり焼き目がつくまでじっくり焼きあげてから裏返す。脂身の方は軽く温める程度。皮8割、脂2割。

次は《タレ》の焼き方

さてここからがタレです。
全体の組み立てとしては「塩→タレ」の順で食べることをおすすめします。よほどタレから食べたい人以外は塩から焼き始めたほうが焦げにくく、網のマネジメントがスムーズです。もしどうしてもタレから始めたい方は、焦げたらマメに網を交換してもらいましょう。

⑥ 《タレ》カルビ

さて、カルビやロースなどの正肉は主に「横紋筋」という筋肉で構成されています。こうした部位を加熱すると60℃を越えたあたりで収縮し、抱えた水分を絞り出す。75℃まで温度を上げると、絞りきったタオルのように内部の水分はほぼ失われてしまいます。

しかし赤身のタレ焼肉の醍醐味は表面の焼き目にもあります。とりわけタレ焼肉は、肉の糖とアミノ酸が反応して焼き目となる「メイラード反応」に加えて、タレに含まれた糖分が熱によって褐色に変わる(褐変)する「カラメル化」という香ばしさも重要な要素。焼き網の太さもここで効いてきます。

実際に、動画で焼き色を確認しましょう。
↓↓↓返すかどうかは、焼き色を見て判断!

中央付近の温度高めの場所で両面にしっかり焼き目をつけつつ、内部に赤身を残すくらいの加減・レア~ミディアムレアに保つイメージで引き上げましょう
食べた瞬間、赤身と脂身とタレの渾然一体とした味わいが口の中でジュワッと爆発し、香ばしさがブワッと鼻に抜けてきます! ああ、これは白飯が必要です! ご飯を! どうか僕にご飯を恵んでください!(錯乱)

⑦ 《タレ》ロース … 薄切り

さ、さて、気を取り直して最後にロースです。
実は焼肉店のカルビやロースは必ずしも同一の部位を指しているわけではありませんが、ロースは比較的、脂の少ない部位が出てくることが多いようです。

『KABUN-CHIKA』には裏メニューとして「あぶりロース」(写真上)というサシの入った薄いタレ肉をサッと炙って、わさび入りの大根おろしで食べさせてくれる皿があります。このメニューは基本、お店のスタッフが焼いてくれるのでここからも焼きを学んでいきましょう。

①まず旗のように肉の端の方全体をトングで持つ。
②奥から手前に向けて、片面をサッと網上を滑らせる。
③面を返して、手前から奥の方に向けて肉を置く。
④焼き目がついたら肉を返す。

⑤わさびおろしを乗せて……。
 クルクルと巻いて完成!

この間、わずか20秒! 表面にしっかり焼き目もつき、もちろん肉も柔らかいまま。

《まとめ》
■カルビ(タレ)=中央付近の温度高めの場所で、両面にしっかり焼き目をつけつつ、内部に赤身を残すくらいの加減で引き上げる。
■薄切り特ロース(タレ)=カルビよりも脂が少ない。さらに短時間で焼き上げる。



店選びで大事なこと

ちなみに大前提としての店選びですが、まずカルビならカルビ、ホルモンならホルモンとその日食べたい肉の軸を決めましょう。例えば赤身をおいしく食べたければスリット入りの鉄板で焼く店が有利ですし、ホルモンならば焼き網×炭火の店のほうがいい焼き上がりに持っていきやすい。赤身とホルモンを両方ともおいしく焼きたければ、『KABUN-CHIKA』のように径の太い焼き網×炭火をカンテキで焼く店をおすすめしています。

『KABUN-CHIKA』はスタッフが肉の特徴や焼き方を熟知していて、肉によっては焼いたりもしてくれます。実はこういう「スタッフ全員が焼肉に詳しくて、親切な店」は意外と少なかったりします。

「どんな肉をどう焼けばおいしくなるか」。肉の特徴を知り、熱の伝わり方を体感すれば、その瞬間いつもの焼肉が何倍にもおいしくなります。焼肉は「自由」だからこそ、ほんの少しのことで味が劇的に変わります。焼きたくなったら、即実践! 焼きは場数を踏むほどうまくなるのです!


次回はガスロースター×スリット入り鉄板の焼肉店で、肉を焼いていきましょう。
本日は炭火焼き×(径の太い)焼き網の焼肉店、赤坂の『KABUN-CHIKA』からお送りしました。

【メニュー】
タン盛り合わせ(2名様~) 2,880円~
新鮮レバー 1,200円
ハツ(厚切り、薄切りから選択) 730円
極ハラミ 2,980円
ショウチョウ 730円
極カルビ  2,480円
裏メニュー「あぶりロース」(100g) 3,600円
※価格は全て税込。写真は撮影のため少量ずつの提供

KABUN‐CHIKA

住所
東京都港区赤坂5-1-1 B1
電話番号
050-5487-8000
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
営業時間
月~金
夕食 17:00~翌3:00
欠品状況や予約状況によって営業時間の変更あり

土・日・祝
夕食 17:00~24:00
欠品状況や予約状況によって営業時間の変更あり
定休日
不定休日あり
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/nwwbtxgb0000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。