「熱燗」「ぬる燗」「上燗」の違いって?【日本酒(燗酒)の基礎知識】燗酒がウマい日本酒の名店付き

日本酒の基礎知識
♯5:「熱燗」「上燗」「ぬる燗」の違いについて

2018年11月21日
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「熱燗」「ぬる燗」「上燗」の違いって?【日本酒(燗酒)の基礎知識】燗酒がウマい日本酒の名店付き
Summary
1.日本酒は温度によって香りや味わいが変化する
2.温度によって表現が違う! 「熱燗」は約50℃に温められた日本酒のこと
3.日本酒初心者大歓迎! 純米酒の燗酒をメインにした東京『酒亭 神田新八』

連載:【日本酒の基礎知識】日本酒の飲用温度(燗酒について)

近年、再び脚光を浴びている日本酒。気軽に日本酒が飲めるバーや、日本酒を楽しむ野外イベントなども増えてきた。とはいえ、「日本酒は敷居が高そう」「飲んでみたいけど難しそうでよくわからない」と思っている人も多いのではないだろうか。

そこで本連載では、日本酒を詳しく知らない初心者の方に向けて、知っておきたい基礎知識から、日本酒を気軽に楽しめる飲食店やイベント、さらには注目の銘柄などを紹介していく。

今回は、日本酒の飲用温度(燗酒)について解説する。記事の後半では、純米酒の燗酒をメインにした、おすすめの飲食店も紹介しよう。

日本酒は温度によって香りや味わいが変化する!

日本酒は、冷たいものから温かいものまで幅広い温度で味わえるのが魅力の一つ。実は日本酒は温度によって、香りや味わいが変化するのだ。

たとえば、冷やすことで香りは華やかになり、飲み口がキリっとする。そしてうまみが軽やかになり、アルコール感が少なく思う場合がある。一方、温めることで香りが広がり、飲み口はまろやかになり、うまみがふくらみ、甘みが広がってくる。

このように同じお酒でも、温度によってまったく違う香りや味わいになるのだ。このことを理解しておけば、日本酒の種類によって、どの温度で飲めばいいのかわかるようになってくる。

ちなみに、温かい日本酒のことを「熱燗(あつかん)」と呼ぶことが多いが、温かい日本酒=熱燗ではない。「熱燗」とは50℃程度に温められた日本酒のことを指す。他にも40℃が「ぬる燗」、45℃が「上燗(じょうかん)」など温度によって表現が異なり、温かい日本酒全般を指すには「燗酒(かんざけ)」という言葉を使う。

また冷たい日本酒のことを「冷(ひ)や」と呼ぶこともあるが、冷蔵庫のない時代は、燗酒以外はすべて冷やと呼んでいた。そのため、冷蔵庫に入れていない常温のものを「冷や」と呼び、冷蔵庫で10℃以下に冷やしたものを「冷酒(れいしゅ)」と呼び分けることもある。

日本酒の温度表現は、以下の通り。

<熱>
55~60℃ 飛び切り燗(とびきりかん)
50℃   熱燗(あつかん)
45℃   上燗(じょうかん)
<温>
40℃ ぬる燗(ぬるかん)
35℃ 人肌燗(ひとはだかん)
30℃ 日向燗(ひなたかん)
<常温>
20℃前後 冷や(ひや)
<冷>
15℃ 涼冷え(すずびえ)
10℃ 花冷え(はなびえ)
5℃  雪冷え(ゆきびえ)

日本酒の温度を変える方法

日本酒を冷やすなら、一升瓶や酒を注いだ徳利を氷水に浸ける方法が一番早い。容器の首まで氷水に浸けると、約1分で1℃程度下がる。

一方、温める場合は、湯煎が理想的である。アルコールは78℃で沸騰するため、80℃程度のお湯を用意し、徳利や銚子、ちろりなどの容器を首まで浸けると、約2分で40~50℃位に温まる。沸騰した湯につけるよりも80℃程度のほうが、風味がまろやかになり、アルコールの刺激もおさまる。他にも、蒸し器やせいろに入れて温める「蒸し燗」、電子レンジで温める「電子レンジ燗」などもある。このように日本酒を加熱する行為を「お燗(かん)」と言う。

繰り返しになるが、日本酒は温度によって、香りや味わいが変化する。あえて1種類の日本酒を冷やしたり、常温にしたり、温かくしたりして飲み比べてみるのもおもしろいだろう。

【まとめ】

・日本酒は温度によって、香りや味わいが変化する
・約50℃に温められた日本酒のことを「熱燗」と呼ぶなど、温度によって表現が異なる
・日本酒を加熱する行為を「お燗」と言う
・日本酒の温度を変えるには、氷水や湯煎に浸けたりするのがよい

燗酒を飲むならココ! お燗番がいる、東京駅『酒亭 神田新八』

さて、日本酒の飲用温度のことを少し勉強したところで、実際においしい日本酒を飲みに行ってみよう!
今回は、燗酒をメインに提供している、日本酒初心者大歓迎の居酒屋を紹介する。

やってきたのは、JR東京駅丸の内口から徒歩約1分、2007年に建てられた新丸の内ビルディング、通称「新丸ビル」5階にある『酒亭 神田新八』。本店は1981年にオープンし、神田駅に店を構える。

店内は、和のテイストを取り入れた古民家風な造り。カウンター席やテーブル席の他に、少人数から10名程度のグループまで使える個室も用意している。東京駅という土地柄、接待などのシーンにもよく使われているという。

お燗番が純米酒をお燗する『酒亭 神田新八』

『酒亭 神田新八』の特徴の1つに、日本酒の品揃えが豊富であることが挙げられる。その数30の蔵から約50銘柄があり、うち大半が純米酒(※)だ。中でも埼玉県の酒造『神亀酒造』の日本酒を多く取り揃えている。『神亀酒造』は1987年、戦後の日本で最初に醸造する日本酒全量を純米酒に変えた蔵である。

※純米酒とは…米・米麴・水だけで造り、醸造アルコールを添加していない日本酒のこと(詳細はこちら

そして『酒亭 神田新八』のもうひとつの特徴は「お燗番(かんばん)」がいることだろう。お燗番とは、日本酒を一番おいしく飲める最適な温度に仕上がるよう、燗をつける専門家のこと。冷蔵庫が普及するまでは、日本酒は常温か燗酒で飲むのが一般的であった。そのため当時はお燗番も多くいたそうだが、冷蔵庫の普及とともに冷酒が人気になり、お燗番が減少したと言われている。

お燗番であり店長の井坂慎吾さん(写真上)は、「たとえばお客様が冷やを注文したとしても、ぬる燗で飲むのがおすすめの場合は『温かくして飲んだほうがいいですよ』と、アドバイスさせていただきます。蔵が望んでいる最適な温度で飲まれるのが一番だと思っているからです。どの日本酒がいいのか悩まれましたら、気軽にスタッフにお声がけください。お客様の飲みたい要望と食べている料理の組み合わせを考えて、ご提案させていただきます」と話す。

ちなみにメニュー表には、どの温度で飲むのがおすすめかを記載している。また燗酒がメインだが、もちろん冷酒も用意している。冷酒の場合は、ぐい呑み(写真上・左)と片口(同・右)での提供となる。

そして、もう1つ『酒亭 神田新八』の特徴を挙げるなら、お通しに小鉢3品と平盃(ひらはい)の“お通し燗”が付くことだろう。まずは純米酒の燗酒をひと口飲むスタイルだ。

「日本酒の中でも燗はニッチな世界です。燗酒を飲んだことがない人も多いのではないでしょうか。そこで燗酒をひと口でも飲んでいただきたく、お通しとして出しています。温かい日本酒を飲むと体が温まり、料理もおいしく召し上がっていただけます」(井坂さん)。

燗酒と和食の絶妙なペアリングを愉しもう!

『酒亭 神田新八』は料理にも徹底的にこだわる。たとえば魚介は北海道などの漁港から直送しているものに加え、東京・豊洲市場から新鮮な魚介を料理長が毎朝調達してくる。野菜は、千葉県三里塚にある契約農家から無農薬野菜を直送で仕入れている。

おすすめは「鱈・白子の天麩羅(たら・しらこのてんぷら)」(写真上)。塩のとげとげしさがなく、料理のうまみを引き出すベトナム産「カンホアの塩」をつけて食べる。衣はサクっと軽く、火が入った白子はクリーミーでまろやかながらコクがある。

こちらの料理には、『神亀酒造』の「ひこ孫 純米吟醸3年熟成酒」の上燗(写真上)が合う。3年以上熟成させた熟成酒で、木のようなやわらかい香りが特徴。乳酸系のような味わいで、クリーム系やチーズ系に合う一杯だ。

もう1品のおすすめは「三陸牡蠣(カキ)の土手焼き」(写真上)。こちらは三陸産の牡蠣を使い、白味噌と熟成味噌を合わせ、そこにカツオと昆布のだし、七味を加えたもの。仕上げに、『神亀酒造』の純米辛口をひと回しかける。そして食べる直前に卵の黄身をのせて、溶いてからいただく。

土手焼きには、秋田県『舞鶴酒造』の「田从(たびと) 山廃純米」の熱燗(写真上)が合う。こちらも熟成酒で、ナッツやカカオのような熟成香が感じられる。飲み口はどっしりと重いが、口に含んだ時にうまみがぱーっと広がる。

「日本酒は熟成させることで苦みやとげとげしさがとれて、まろやかな味わいになります。日本酒はワインと同じ醸造酒。ワインは熟成させればおいしいと知られていますが、日本酒はまだまだ。ぜひ試しに熟成した日本酒を飲んでもらいたいです」と井坂さん。

ちなみにランチは海鮮丼やカキフライ定食など魚介を使った料理や、千葉県三里塚の無農薬野菜を使ったおばんざい定食などを提供している。またディナーのメニューも注文でき、昼から日本酒を飲むのも可能だ。

燗酒や熟成酒の世界を教えてくれる『酒亭 神田新八』に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

【メニュー】
田从 山廃純米 1合980円
ひこ孫 純米吟醸3年熟成酒 1合1,280円
鱈・白子の天麩羅 1,380円
三陸産 牡蠣土手焼き 1,380円
※価格は税抜
※サービス料10%

<参考文献>
・『新訂 日本酒の基』日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)著/NPO法人FBO
・『酒仙人直伝 よくわかる日本酒』NPO法人FBO 著
・『ゼロから分かる!図解日本酒入門』山本洋子著/世界文化社
・『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』 竹口敏樹監修/ナツメ社


写真提供元(一部):PIXTA

<編集協力>
名久井梨香

神田 新八

住所
〒100-0065 東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング5F
電話番号
050-3490-0386
営業時間
月~日 ランチ:11:00~14:30(L.O.14:00) 月~土 ディナー:17:00~23:00(L.O.22:00) 日・祝日 17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日
無 ※※但し、1/1及び法定点検日は除く
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/a634261/

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