胸躍る街中華プライスで、シェフの絶品創作中華を!話題沸騰の新店・広尾の中華バル『coyacoya』

【連載】幸食のすゝめ #079 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年11月29日
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胸躍る街中華プライスで、シェフの絶品創作中華を!話題沸騰の新店・広尾の中華バル『coyacoya』
Summary
1.絶品料理なのに街中華価格で大評判。大人の遊び人たちの街・広尾に佇む隠れ家中華バル
2.50歳を境に大好きだった料理の世界へ。瞬く間に店が多忙になり料理を本業に転身
3.酒飲みのツボを心得た店主のこだわりメニューと選び抜かれた酒のラインナップ

幸食のすゝめ#079、無心な鍋には幸いが住む、広尾

「コヤさん、ここ餃子アゲイン!あと麻婆豆腐も、今度は牡蠣ヴァージョンね!」
仕事仲間だろうか、溌溂(はつらつ)としたご婦人たちが、ワインを片手に今晩3回目の餃子をお替わりしている。知性も、食欲も旺盛な都市の女性たちは美しい。
小路側のカウンターに座った笑顔が眩しい女性は、赤星(ラガー)を冷蔵庫から出してシェフに目配せ。

即座に中華鍋が振り始められ、レギュラーの麻婆豆腐が完成する。
いつものオーダーなのだろう、小さな茶碗にご飯を装い麻婆豆腐をかけて手渡されると、できたての麻婆丼を頬張り、残りはお持ち帰り用の容器へ仕舞って貰う。

飛び切りの微笑みでお辞儀をすると、ポニーテールの聡明な女性はお勘定をして帰路に着く。
家はきっと、広尾か恵比寿、うんとここの近くなんだろう。

シンプルで無機質なグレーのカウンターは、たくさんの女性たちの笑顔で満たされている。
でも、いちばんご機嫌なのは、その真ん中で踊るように鍋を振るシェフ、宮崎小弥太(こやた)さんかもしれない。

2018年、今年の1月始めにオープンした『coyacoya』は、いつのまにか広尾の街にすっかり溶け込んでいる。

一つひとつのメニューに、コヤタさんならではの創意工夫が散りばめられながら、価格はほぼ1,000円を切る街中華価格。
しかし、ここは広尾、大人の遊び人たちの街だ。リーズナブルな料金体系だけでは、決して人は集まらない。しかも、広尾、恵比寿、どちらの駅からも徒歩10分、さらに小路を入ったところにあるから、知らなければまず訪れないだろう。

それでも人を惹き付けるのは、凝った味の組立と小さめのポーションのメニューや、赤星から自然派のワインまで揃う酒のラインナップなど、酒飲みのツボを心得た店主のこだわりだ。
そんなコヤタさん、実は料理を習ったことも、修業経験もない。
でも、この30年間、仲間たちが集まる度に、いつもみんなに料理を振る舞って来た。

「とにかく料理を作るのが好き、ああでもないこうでもないと、いつも試行錯誤を繰り返してる。だから、いつまでたっても到達点なんかないんです。でもね、だからこそ面白いし、やめられない」、50歳を境に正業の車屋を辞め、大好きな料理の世界へ。最初は二足のわらじを履いていたが、瞬く間に店が忙しくなり料理が本業になってしまった。

「まぁ、働き尽くめの割にはまだなかなか儲からないけど、とにかく今が楽しくてたまんない。結局、人間ってそれがすべてでしょう」、はにかむとスキンヘッドの硬派が、とたんに悪戯好きな少年の顔に変わる。

まずはセラーから好きな酒を選び、軽い小皿のつまみを頼む。

「山くらげとキクラゲのコリコリつまみ」や、「きゅうりと新生姜の冷菜」など、スパイシーで食感豊かなつまみでカウンターパンチを喰らい、のっけからコヤタワールドに引き込まれる。

タイ風や、オリーブと生胡椒、皮蛋翡翠(ピータンひすい)ソース、たっぷりのキノコと、色んな味で楽しめる「干豆腐(かんとうふ)」も人気メニューだ。通常よりも細く繊細な干豆腐は珍しい純国産、薄い板状のものを自ら刻んでいる。

一面が卵の色に染まる「卵だらけのポテトサラダ」には、さらに絶妙なコンディションの煮玉子が乗る。
餃子は、どこまでも肉々しく、赤星や紹興酒、ワインを誘う。

ていねいな仕込みと、天性のスパイス使い

棒状のレモングラスや各種の豆、種を出してスピリタスに漬け込んだカルダモンと煮込まれた「トリッパと豆とカルダモン」は目を見張るおいしさ。カルダモンの柑橘っぽい香りがハチノスに新しい官能を与える。
塩麹に漬け込み、低温調理で仕上げられた後、自家製の辣油がかけられる「よだれ鶏」も未知の味覚だ。

そして、もちろん看板料理の「麻婆豆腐」は白眉。空豆から自分で作り上げる豆板醤を1年半寝かせ、さらにピーシェン豆板醤をブレンド。日本育ちの山椒と、中国の花椒(ホアジャオ)が辛みを越えたうまみとなって響き合う。

レギュラーの麻婆豆腐のほか、羊ヴァージョンではローズマリー、牡蠣ヴァージョンではヨモギの1種エストラゴンとスパイス使いも秀逸だ。しかも、牡蠣はゴロゴロと入れるのではなく、微塵切りしてソース自体の滋味にする。

エンドレスで楽しみたい、絶妙な〆の数々

〆に頼んだつもりが、すっかりまた酒が進んでしまう「仔羊のワンタン」にはフレッシュミントと、ミントソースが添えられる。

カウンター全員が、1人ひと皿のリピーターになる「香港風素焼きそば」の破壊力も半端ない。茹で麺用の中華麺を丁寧に蒸し上げ、いったん天日に干し、中華鍋の中で徹底的に炒り付け、オイスターソースでまとめ上げる。

「大した店じゃないですよ、素人料理ですから…」、悪戯っぽくニヤリと笑うコヤタさんの笑顔の向うには、ルーティンワークに疲れ果てたプロたちにはない、食に対する清々しい尊厳があった。

ただ人を喜ばせるために、大きな音を立てて振られる中華鍋。

無心な鍋には、幸いが住んでいる。


【メニュー】
山くらげとキクラゲのコリコリつまみ 400円
きゅうりと新生姜の冷菜 500円
香港風素焼きそば 600円
干豆腐各種 500円(オリーブと生胡椒/皮蛋(ピータン)翡翠ソース/きのこきのこ)
卵だらけのポテトサラダ 600円
餃子(5個) 600円
トリッパと豆とカルダモン 800円
麻婆豆腐(自家製豆板醤入り) 900円
よだれ鶏 800円
仔羊のワンタン 600円
ビール(赤星) 650円
生ビール(香るエール) 600円
ワイン(グラス700円~/ボトル3,700円~)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。

coyacoya(コヤコヤ)

住所
〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-6-6 第1三輪ビル1F
電話番号
03-6456-4458
営業時間
18:00~24:00
定休日
日曜・月曜
公式サイト
https://www.facebook.com/Coyacoya-2009477739333201

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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