海の幸と葡萄畑の幸は横浜で出会う、旬を頂く和食の極みと自然派ワインの店 横浜『おか田』

【連載】幸食のすゝめ #080 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年12月19日
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海の幸と葡萄畑の幸は横浜で出会う、旬を頂く和食の極みと自然派ワインの店 横浜『おか田』
Summary
1.選び抜かれた自然派ワインと和食の共演。北イタリアの静かな旧市街で始まった『おか田』の物語
2.料理は、食材の持つ力を活かし切り、熟練の知と技で仕立てられた旬の和食
3.客の一人ひとりに目が届き、料理人の一挙一動のライブ感が伝わる「コの字カウンター」で割烹料理を

幸食のすゝめ#080、だしとワインの出会いには幸いが住む、横浜。

「このワイン、いったい何なんだろう?」、口に入れた途端に衝撃に包まれた。
「複雑で、白ワインとは思えないしっかりした味わい、それでいて喉に引っかかる感じがまるでなくて、スーッと入っていき、そのまま身体に染み渡っていく…」。
2014年の夏、岡田(邦晴)さんが訪れた北イタリアのモデナにある『オステリア・フランチェスカーナ』での出来事だった。
バルサミコとフェラーリで有名な街にある小さな店は、世界で最も予約が取れないレストランのひとつだ。

料理にペアリングされたワインは『ダミアン』の「ネカイ」、イタリア、フリウリ地方の葡萄「フリウラーノ」を使用、樹齢40年の古木の樹上で成熟を待ち、一部貴腐化した葡萄も合わせて収穫する。

料理は『オステリア・フランチェスカーナ』の定番、「パルミジャーノの5変化」だった。白いひと皿に、熟成日数が違う5種類のパルミジャーノ・レッジャーノを5種類の調理法で盛り合わせたシェフ、マッシモ・ボットゥーラの得意料理。
濃厚なのに、サッパリしている。おいしさのパラドックスを、舌の上で1つにまとめたのは『ダミアン』の深い味わいだった。「これなら和食のだしにも、きっと合うに違いない」、北イタリアの静かな旧市街で、その時、『おか田』の物語が始まった。

岡田邦晴さんは、寿司の世界から料理界に入り、9年間の修業を経て渡欧。スイスにある料理旅館『兎山(オーベルージュ・ハーセンベルク)』の料理長の紹介で、新規オープンする日本食店の厨房に入る。それから2年スイスで腕を揮い、イタリア、ローマへ。
ローマにいた3年間に、運命を決定づける『ダミアン』と出会う。
「それからしばらくは、フリウリ地方のワインを次から次へと飲み漁りました。飲めば飲むほど、和食に合わせたいという気持ちが盛り上がって来て、料理のアイデアが浮かんで来たんです」。

そして、2018年2月、横浜に自身の店を開いた。

帰国して驚いたことは、東京だけでなく福岡や仙台などの地方都市でも盛り上がっている自然派ワインの勢いだった。
「ますます自分の想いを実現したくなったし、今の日本だからこそやる意味があると思いました」。

そして、セラーの中に、フリウリやジュラ、アルザスなどの大好きなワインを揃えた全く新しい日本料理店がスタートする。
店では、様々なボトルワインのほか、グラスワインも豊富に用意されている。
和食のだしと自然派ワインの幸福な出会いが、かつての文明開化の地、横浜からスタートした。

ある日の『おか田』では、三軒茶屋のワインスタンド『Però(ペロウ)』とのペアリングが行われていた。
多数の自然派イタリアンワインをストックする『Però』と、『ダミアン』から始まった『おか田』の出会い。ソムリエ森田雅人さんのペアリングの妙に、岡田さんの熟練の知と技が限りなく飛翔する。

芋茎(ずいき)の歯ごたえの上に2種類の食感の蟹が乗る「毛蟹酢」には、圧倒的な飲み心地で多くの人たちを自然派ワインに導いた『ラ ビアンカーラ』の「サッサイア2016」。
白ワインでありながら、分かりやすい果実味より、鉱物と塩気と果実が混在した味わいと香りが、甲殻類の持つポテンシャルを最大限に引き出しながらも、すっきりとまとめる。

続いて登場した「目光(めひかり)酒盗和え 一夜干し」には、『ダリオ プリンチッチ』の「ビアンコ トレベツ セレツィオーネ2012」。
一般的に唐揚げで食べられることが多い人気の深海魚を、開いて一夜干しにすることでさらにうまみを引き出し、鯛の酒盗でうまみを重ね、根三つ葉の青い清涼感でまとめ上げる。
そこに『ダリオ プリンチッチ』の心地よい渋みが目光の脂を切り、その先に押し寄せる類い稀なる甘い官能に抱かれる。
その日、小さなコの字カウンターを囲んだ全員が息を飲んだペアリングだ。

巨大な1枚板のカウンターを真ん中に、料理人と客が対峙する。カウンター割烹でお馴染みの風景と一線を画するコの字カウンターは、当初から思い描いていたアイデアだった。
昔のおでん屋さんみたいに、同じ料理、同じ酒を囲みながら知らないお客さん同士が触れ合える場所。そのためには、大き過ぎない面積と距離感が大切だった。客の一人ひとりに目が届く席数も重要だ、客からも料理人の一挙一動が見渡せてライブ感が伝わる。

堅苦しく敷居の高い割烹ではなく、分かりやすくフランクな空間の中で、料理とワインを楽しんで欲しい。
昼から店が開く日曜日には窓越しに公園のまどろみが伝わり、子どもたちの遊ぶ様子が見える。
食材の持つ力を信じて活かし切り、繊細に仕立てられた旬の和食と、自然の力そのもののワイン。
しなやかに力強く、和食の新しい地平が生まれた。

ペアリングを越えた、だし割りの背徳

続く料理は、旬の秋刀魚をひと口大の寿司に仕立てた「秋刀魚寿司 わた味噌」。肝を味噌で和えた「わた味噌」の心地よい苦みと、角が取れて熟成した寿司飯の赤酢が口中でハーモニーを奏でる。
そこに『ラディコン』 、「リボッラ2003」の芳醇な酸味が重なる時、すべての味覚が舌の上で1つに融合していく。

その余韻が覚めない内に登場する「土瓶蒸し」、蓋を開けるとたくさんの松茸とクエ、そして海老真丈が覗いている。
贅沢過ぎる土瓶蒸しに合わせて、グラスが陶器のぐい呑みに変わる、注がれるワインは再び『ラディコン』。今度はフリウラーノで作られる貴重な白、「ヤーコット2006」だ。こともあろうにソムリエの雅人さんは、途中から「ヤーコット」のだし割りを提案する。赤羽なら、清酒ワンカップのおでんだし割りはお馴染みだが、まさかの『ラディコン』だ。
背徳感に包まれながら口に運ぶと、だしとワイン、松茸の香り、濃厚なクエ、秘かに香る甲殻類が幾重にも押し寄せて来る。

だしのドラマを加速する、自然派ワインの力

その後は、「鰹(かつお)の藁焼」、「鰤(ぶり)の柚庵焼」と魚の焼き物を重ね、「真鴨真丈と蕪の炊き合わせ」へ。葛に満たされた鴨に合わせられたトスカーナのリースリング『カッシーナ デッリ ウリーヴィ』の「ア デムーア2013」、この組合せだけでエンドレスに楽しめそうな気持ちになって来る。

興奮の中、登場した土鍋の中には、脂が乗り切った本カマスを炊き込んだご飯、なんと炊き上がりにイクラを合わせる。

ここで、再びぐい呑みに注がれたのは『ヴォドピーヴェッツ』の「ヴィトフスカ」。イタリア北東の外れ、スロベニア国境に近いカルソ地区で土着品種を使って作られた珠玉の1本は、なんと1週間前に抜栓されたものらしい。

そして、クライマックス。岡田さんの運命のワイン、『ダミアン』の「ネカイ2012」がデザート「栗渋皮煮とマスカルポーネ」に合わせて注がれる。栗とマスカルポーネチーズの間には、ささやかに餡子が忍んでいる。

ガラス器の中で出会う、東洋と西洋のハーモニー。今もうっすらと舌に残っている、繊細なだしの味わい。

だしとワインの出会いには、幸いが住んでいる。


【メニュー】
コースのみ 11,000円 (完全予約制) ※2日前までにご予約ください。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。

おか田

住所
〒221-0844 横浜市神奈川区沢渡2-4 YSビル2F
電話番号
045-624-8703
営業時間
月〜土 17:30~22:30、日 12:00~15:30
定休日
不定休
公式サイト
https://www.facebook.com/okada20180215/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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