「食べもの」というナチュラルな薬で人を癒したい。新宿の路地から始まった舞さんの『小料理kokoro』

【連載】幸食のすゝめ #088 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2019年04月11日
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「食べもの」というナチュラルな薬で人を癒したい。新宿の路地から始まった舞さんの『小料理kokoro』
Summary
1.人の心をほぐしたい。ケミカルでなく食の力で癒やす『小料理kokoro』を新宿でオープンした女性店主
2.金沢近江町市場の父親から届けられる旬の加賀野菜と新鮮な魚介を使った石川の郷土料理
3.自分が扱う食材をちゃんと知る努力が、自分が培った財産

幸食のすゝめ#088、路地の小鉢には幸いが住む、西新宿。

「新宿で、こんなにちゃんとした料理が食べられるんだ」、初めて入って来たお客さんが、笑顔と共に能登で揚がった活き〆の鰤(ぶり)を頬張っている。その時、心の底から新宿の街に帰って来てよかったと思った。
でも、店主の(越野)舞さん自身は「新宿で」なんて否定的に思ったことはない。
むしろ有象無象(うぞうむぞう)なこの街の空気が恋しくなって、若かった頃はあんなに苦手だった街に自分の城を築こうと決めた。

金沢の街で、父親は野菜屋、近江町市場の仲買人だった。だから、いつも旬の加賀野菜に囲まれて育った。
食はいつも、当り前のように自分のそばにあった。
高校の頃、臨床心理士に興味を持って、比較的に近隣で心理学部がある名古屋の大学に進学した。心理学を勉強しながら、空いた時間は飲食店でアルバイト。だんだん、飲食が自分の天職かもしれないと思うようになった。
それに比べて、大学の勉強にはがっかりすることも少なくなかった。
  
人の心をほぐしたいと願っても、結局はいつも対症療法しかないのだろうか?
だったら、自分はケミカルではなく、「食べもの」というナチュラルな薬で人を癒やしたい。

心が苦しく荒れてしまう前に、おいしい料理や、おいしいお酒に出逢えたら…。
もしかしたら、多くの人たちは病気にならないのかもしれない。

上京して、まず最初はホームページの営業職。直接、飲食には繋がらないけど、将来接して行くお客さんたちの気持ちを知るにはいいのかなと思った。
でも、土日はやっぱり飲食店でバイト。大学時代と同じように、結局はバイトの方が楽しくなった。
やがて新宿の店で、社員になり、26歳の時、店長になった。自分より上に人がいないという状況で2年間。
若かったから、客に舐められることも多かった。平気で買って来た物を広げ出す客、テーブルに足を乗せる客。
新宿でなんか、もう働かない、いつもそう思っていた。

そんな中、知り合いの店のレセプションで飯田橋『ル ジャングレ』の有沢(貴司)さんと出会う。
有沢さんは、食材に徹底的にこだわっていて、ワイナリーや酒蔵だけでなく、畑や牧場、時にはハンターに同行して猟にまで行くと言う。そんな姿勢に惹かれ、週2回のバイトから始めて、まもなく『ル ジャングレ』のスタッフになった。
有沢さんはいつも、生産者をどんどん店に連れて来た。日本酒の蔵にもたくさん出かけて行き、杜氏に会ったことがない蔵はほとんどなくなった。インポーターさんも、多くのワイナリーの造り手と店に来てくれた。

「自分が扱うものを、ちゃんと知る努力」、それは今でも自分の財産になっていると思う。味噌や醤油などの調味料まで、造り手の顔が浮かぶものしか使わないこと。
『ル ジャングレ』を卒業して、自分の店を作る時、自分の根本は父親の店に並んでいた加賀野菜と能登の魚たちだと思った。豚などの肉類も、既に懇意にしていた生産者の方がいた。店のコンセプトは「加賀野菜と日本酒とワイン」、その3つが充実した「小料理屋」をやろう! 店名は、『小料理kokoro』に決めた。

「たくさんの方のkokoroをほぐせるように、kokoroのある食材やお酒やワインを、精一杯のkokoroを込めてお届けすること」。閑静でセレブだった飯田橋での日々を過ぎて、場所はいつか若い頃に苦労した新宿に決めていた。

あの頃は嫌だった、新宿の有象無象のストリート感の中で、心をほぐす小料理屋がやりたい。
いつか新宿は、自分の中で懐かしい街になっていた。当時の先輩で、前任の店長だった堀さんに相談すると「俺やろうかな」という返事。
強力な助っ人と、路面の物件。西新宿で、舞さんの新しい心をほぐす物語がスタートする。

たっぷりの野菜と、能登の幸を

近江町市場の父から届く加賀野菜と、その隣りにある魚屋さんの新鮮な魚介類。石川の郷土料理を中心にした小料理屋だから、コックコートを脱いで、着物と割烹着に着替えた。実家から、小鉢や猪口に使う九谷焼などの郷里の食器も運んで来た。

酒はもちろん、選び抜かれた日本酒とナチュラルワイン。昼には、旬の小鉢がたくさん並ぶ身体に優しいランチも用意する。
夜は燗酒とワインで、石川の旬を満喫できる。料亭ではなく、新宿価格に抑えられたメニューは、働く人たちの懐にもきっと好意的に迎えられるだろう。

哀しみは半分に、微笑みは倍に

舞さんにとっての、小料理屋さんって何だろう?
「いつもそこにあって、そこに帰ると安心できる場所。あそこに帰ろう!と思える店」。

そのまま家には持ち帰れない、痛みや怒り、寂しさをほぐすために、喜びや微笑みは誰かと一緒に分かち合うために、人は行きつけの店を持つのかもしれない。
もしまだ見つからなかったら、ラーメン屋と町中華に挟まれた路地にある舞さんの小料理屋を訪ねて欲しい。
きっと、帰り道には心が軽くほぐされているはずだから…。

路地の小鉢には、幸いが住んでいる。

【メニュー】
ランチ/ご膳セット・メイン料理+(小鉢3品・味噌汁・ご飯・お漬物付) 1,000円 
もち豚のローストポーク丼(小鉢・味噌汁・お漬物付) 800円 
もち豚朝〆もつ煮丼(小鉢・味噌汁・お漬物付) 700円
ディナー/おまかせコース(6品) 3,200円
恋するトマトと自家製カッテージチーズ 720円
国産ひじきごはん 380円
五郎島さつまいもとしめじの和え物 580円
出し巻き玉子の天ぷら 780円
大山鶏と車麩の治部煮 980円
エビス生ビール 600円
ハイボール・サワー各種 600円
純米酒(半合) 450円~600円
ナチュラルワイン グラス600円~、ボトル4,500円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。

小料理 kokoro

住所
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-9-15 102号
電話番号
03-6279-2407
営業時間
ランチ(月~木)11:30~14:00、ディナー(月~金)18:00~24:00 (土) 17:00~24:00
定休日
日曜
公式サイト
https://www.facebook.com/%E5%B0%8F%E6%96%99%E7%90%86-kokoro-2272892316320385/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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あおい有紀
フリーアナウンサー/和酒コーディネーター
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森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン