マルサラ酒の原型。飲む世界遺産! 幻のワインの旨さとは?

【連載】東京・最先端のワインのはなし verre15  ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。

2016年02月03日
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マルサラ酒の原型。飲む世界遺産! 幻のワインの旨さとは?
Summary
1.1773年に英国人商人が見つけたことで世界に広まった
2.伝統的な造りでは「マルサーラ」と名乗れない矛盾
3.シチリアの名家が造り出す金と時間に糸目をつけない一本

フランス勢の多いTOKYO NATURAL WINE ELEVENだが、イタリアだって見逃せない。イタリア、フランスのみならず、あらゆるナチュラルワインに造詣の深い表参道「Felicita(フェリチタ)」の支配人・永島農(あつし)さんに2本目のオススメを訊いた。

Vecchio Samperi Ventennale / Marco De Bartoli(ヴェッキオ・サンペーリ ヴェンテンナーレ/マルコ・デ・バルトリ>

永島さんのオススメ2本目は、国力と海外への影響力があった英国によって歴史の中に埋もれてしまった真実。そして、本来こちらがオリジネーターであるはずの「飲む世界遺産」とでもいうべき、シチリアの至宝だ。

<永島さん>
今回はイタリア色の強いものをと思い、これを選ばせていただきました。
このコラムの主たるテーマたるナチュラルという観点は、一旦置いていおいて「ワインにとって最大の敵ってなんだろう?」という話になった時、上位に来るのが「酸化」だと思います。

酸化は、一般的にはワインの世界においてはネガティヴに捉えられがちだと思います。しかし、私は酸化にはポジティヴな酸化とネガティヴな酸化というものがあると思っています。

このマルコ・デ・バルトリのヴェッキオ・サンペーリは、狙って酸化させている、完全にポジティヴな酸化をさせたものです。産膜酵母(※1)の働きによって、ワインに複雑味や、味、そしてワインに(例えば時間的な)旅をさせるという経験をさせたものだと思います。

酸化という「とある普通のワイン」では到達し得ない、未体験ゾーンに入っているお酒なので、いろんなストレスに強いと考えています。例えば、熟成という「時間的ストレス」、料理の中に混ぜてしまうという「他者からくるストレス」などです。こういういろんなストレスに対して、このお酒は圧倒的な力をもっていると思います。

それは、アルコール度数を見ていただいたらわかると思います。17.5%という高いアルコール度。酵母添加などをしないでこのアルコール度数に到達しているんです。酵母が健全に仕事をしない限りはここまでのアルコール度数にはならない。そして、おそらくこのアルコール度数になると、酵母は自分が作り出したアルコールによって自身が駆逐されるという、ワインの世界における非常に不思議な現象が起こるわけです。

いわゆる「マルサーラ」の誕生について

そもそもこのヴェッキオ・サンペーリについて話をするとき、マルサーラ(いわゆるマルサラ酒)というお酒の話をしないといけません。
1773年英国の商人、ジョン・ウッドハウスはアクシデントがあってシチリア・マルサーラ港に立ち寄りました。そして、食事のために入ったレストランでおそらくこのヴェッキオ・サンペーリのようなワインを飲んだのだと思われます。
当時イギリスではマデイラ・ワインなどが熱狂的に支持を受けていたので、彼はこの素晴らしいワインを持ち帰ることを考えたのでしょう。
けれど、そのままの状態では長い航海の間に安定した酒質で本国に送り届けることができるのか不安であると考え、アルコールを添加しようということになったのです。
そんな顛末から始まり、このイギリス人によって造られたのがマルサーラなんです。

ただ、おそらくこのジョンさんがシチリアで飲んだものは、アルコールを添加した、いわゆる酒精強化ワインではないはずです。
もともとオリジナルといえる、つまりマルサーラの原型と言えるものはこちらだったことでしょう。その後、アルコール添加をしない限りマルサーラを名乗ることが出来ないという歪んだレギュレーションが生まれてしまったため、多くの造り手がこのワインを造るのをやめました。
マルコ・デ・バルトリではそういうこともあって、この「マルサーラ」と謳うことができないワインに「ヴェッキオ・サンペーリ」という変わった名前をつけています。

この「ヴェッキオ・サンペーリ」の良さは、どんなTPOで飲んでも美味しいし、料理に使うと非常に美味しいということです。
僕らの仲間内では究極の料理酒だと呼ばれているほどです。
バニラのアイスクリームにかけても良いし、魚をマリネしてもいいし、肉を焼くときにも、なんなら餃子の餡に入れても良い。

このヴェンテンナーレは20年以上という長い時間旅をさせ、とあるところまで行き切った、つまり発酵仕切ったワインです。
シチリアのグリッロという品種はプーリアで栽培されるプリミティーヴォ同様、アルコール度が上がりやすい品種ではありますが、アルコール添加なしで17.5%まで上がるのは、糖度の高さや気候がもたらすマジック、そして発酵させ切っているという証拠です。

味わいは、ソレラシステム(※2)によるものなので、酸化熟成したマルサーラのような雰囲気はあるけど、非常にドライで、食後に飲みたいですね。
また、アルコール添加していないということはとても大切なことだと考えています。
私はこれまでかなり古いマルサーラも飲んできましたが、それらのマルサーラには何か大きな爪痕というか硬い傷跡が残っていると感じました。

ヴェッキオ・サンペーリの味わいは明らかにマルサーラのそれとは違う、濃厚で、甘く、ドライだけど、完熟なブドウのもたらす甘い印象がある一本。
この土地の名家であり、イタリアのワイン界ではスーパーヒーローであるマルコ・デ・バルトリ。今月、次男のセバスティアーノが来日の予定ですが、一度飲んで頂きたいと思うワインです。

<お店での価格>
グラス(30ml)1,000円
ボトル12,000円

(※1)産膜酵母…液体表面に皮膜(フロール)を作り増殖する酵母。ワインを詰めた樽などに液面上部に空気があるとそこに皮膜ができる。一般的にはワインの品質を劣化させるものという認識があるが、シェリー酒やフランス・ジュラ地方のヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)のようにワインに皮膜を形成させることで特有の香味を生み出すことを狙ったもののも少なくない。

(※2)ソレラシステム…シェリー酒によく用いられるもので、ワインを出荷する際、積み重なった樽の中で一番下のもの(一番熟成したもの)から瓶詰めし、その樽からワインを抜くことで隙間が生まれたところにその上部の樽に入ったものを注ぎ入れ、一番上の樽まで順番に同じことを行う。

Felicita(フェリチタ)

住所
〒107-0062 東京都港区南青山3-18-4
電話番号
03-3408-0141
営業時間
[ 2・3F レストラン]火~金18: 00 ~ L.O.22:00、土・日17:30~L.O.21:00、 [ 1F BAR ]火~金18:00~L.O.23:00
定休日
定休日 月・祝日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/a786201/
公式サイト
http://www.felicita.co.jp/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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