都内でイタリアの職人ビールが旨い2店! それ現地でもめったに飲めないやつです

【連載】通わずにいられない逸品  トレンドに流されず、一つのお店を長く観察し、愛しつづける井川直子さんにはその店に通い続ける理由がある。店、人、そして何よりその店ならではの逸品。彼女が通い続けるそのメニューをクローズアップする。

2016年05月16日
カテゴリ
賢人コラム
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都内でイタリアの職人ビールが旨い2店! それ現地でもめったに飲めないやつです
Summary
1.練馬と大岡山、イタリア料理と合わせて楽しめる2軒
2.ワイン好きがハマる個性的なビール
3.イタリアは実はクラフトビールの国かも?

職人の国の、職人のビール

イタリアのクラフトビールが面白い、という噂を訊いて、醸造所を訪ねて歩いたのは2012年のこと。
噂は本当。彼らのビールはとても自由で、詩的で、わくわくした。
桃、サクランボ、栗、ヘーゼルナッツ。
ティモラッソにクロアティーナ、バルベーラ。
スペルト小麦、りんどうの根、カモミールの花。
果実も木の実も、ハーブもスパイスもビールに溶け込む。
イタリアにゴロゴロあるワイン樽はもちろん、古代の製法であるアンフォラ(地中で発酵させるテラコッタの壺)までも使ってしまう。さすがローマ帝国の底力。

ワインの国だと思っていたら、いつの間にか街のあちこちにビッレリア(ビアバー)ができていて、みんな店の外まではみ出して飲んでいる。
手にしているのはワイングラスに似た形だけれど、中の液体はブドウでなく麦のお酒だ。

イタリアのクラフトビールは1990年代から始まったといわれるが、奇しくもその少し前、1980年代後半からスローフード運動が起こっていた。彼らのビール造りにおいて、その影響は少なからずあるように思う。
個と質を問い、造り手自身の哲学を表現しようとすること。
そうして今や星つきリストランテで、ワインと並んでオンリストされていたりする。

そもそもビールは、モルト、ホップ、酵母と原料はほぼ輸入品。だから本質的に、「土地」よりも「造る人」が主役になるプロダクトかもしれない。
造り手の記憶、経験、考え方。生まれ育った土地や、今暮らしている場所の食べものも映し出される飲みものじゃないかなと思う。
イタリアでは、クラフトビールのことを「ビッラ・アルティジャナーレ」=職人のビールと呼ぶ。
靴、スーツ、家具と同じ。職人をリスペクトするこの国らしい呼び方だ(ちょっと長いけどね)。

むしろワイン好きがはまるかもしれない

現地で造り手と話したとき、彼らが「エレガントである/ない」の言葉遣いをよくするのに驚いた。
たとえば栗のビール。最初からこれでもかと栗がガンガンくるパワーは「エレガントじゃない」。
「ひと口ゆっくり飲みこんで。ほら、後から栗の香りが上がってくるでしょ?」
ふわりとやわらかく、でも後から後から立ち上がる。これがエレガント。
時間差で開いていく香りの重ね方や、果実の存在にゆっくり気づかせていくセンスはまさにワインのような発想だ。

実際、造り手は必ず料理との相性を語るし、HPを見れば合う料理が書かれている。料理なくしてビールはない。
たしかにビッラ・アルティジャナーレは、炭酸が穏やかで飲みやすいし、ヴァン・ナチュールを思わせる酸っぱいビールも得意。
ビール好きよりむしろ、ワイン好きがはまるビールかもしれない。

ビッラ・アルティジャナーレをイタリア料理で飲みたい

で、日本在住の私の悩みは、イタリア料理と一緒にビッラ・アルティジャナーレを飲みたいということ。切実である。
リストランテで食前酒やワインのコースに組み込む店は増えつつあるけれど、日常で、となると世界のビールを揃えたビアパブが多くなる。
でも、イタリアのエノテカとかバールとかトラットリアでこそ飲みたいのだ。
だってフィッシュ・アンド・チップスでなくフリットで飲みたい。ハギスでなくトリッパで飲みたい。ソムリエとも相談したいし、ビッラ・アルティジャナーレとワインを行ったり来たりしながら飲みたい。
スプマンテのようにグラス売りにもして欲しい。
という夢と願いを業界に込めて、今月は東京でビッレリアを始めた勇気ある2軒をご紹介。

ダ・パオロ @練馬

2013年に開店。直輸入のチーズ、生ハムなどイタリアの食材やワインも揃う『エノテカ・アリーチェ』の経営。ビッラ・アルティジャナーレを自宅で飲みたい人は『エノテカ・アリーチェ』で買えます。棚には、生産量の極めて少ない「ロヴェールビア(ピエモンテ州)」や、地元特産の古代小麦を使う「ラ・ペトロニョーラ(トスカーナ州)」といった稀少なビールも。
母体が食材&酒屋だから、『ダ・パオロ』では今、日本で飲めるビッラ・アルティジャナーレはほぼ揃っていると言っていい。

ボトルで飲むも良し、常時二種類の樽生もあり。この樽生、かなりレアなうえ、行くたびに違うので回数券が欲しいくらい。
この日の樽生は、古代小麦を使ったホワイトビールでオレンジやレモネードのように爽やかな「エンキール/ビッラ・デル・ボルゴ(ラツィオ州)」(680円)。モルトのコクはあるのに、水の綺麗な土地の印象そのままクリアな飲み心地「フェデリコ2/フレア(ウンブリア州)」(680円)。

2店のオーナー、矢立泰介さんは酒屋のイタリアワイン担当、料理人、ソムリエも経て横浜のリストランテや専門店を立ち上げてきた人。だけど彼が作りたいのは「イタリアマニアの店より、イタリアファンを増やすための店」だそう。
ここではご近所のおじさんもバンコ(カウンター)で立ち話、家族連れは丸テーブルでわいわいやって、女の子がひとりでサッと一杯飲んだりもして。
イタリアの田舎のように緩い風景だけど、その真ん中にビッラ・アルティジャナーレがある。

「あなたが飲んでるそれ、イタリアでも滅多に飲めないやつですよ」と言いたくなることがあるけれど、そんなこと知らなくてもみんな普通においしいって飲んでるのが素敵。
名物のパニーニは、石神井公園のピッツェリア『ダ・フィリッポ』の生地だそうです。

〈メニュー〉
イタリアクラフトビール:樽生ピッコロ680円~・グランデ1,380円~、ボトル1,000円~。グラスワイン550円~、つまみ400円~。(すべて税別)

(お店の詳細は、ページ下をご参照ください)

ビッレリア ルッポロ @大岡山

昨年7月にオープンしたこのお店では、日替わりでグラスビールが飲める。
イタリアと日本の各1種類。私が行った日は「イザック/バラデン(ピエモンテ州)」(500円)。爽快な小麦のビールで、アプリコットやオレンジ、コリアンダーを思わせる香りが複雑に立ち上がる。この時季、最初の一杯にぴったりなうえ、スプマンテより炭酸が穏やかだからラク。しかも手頃。

こちらは4月から、元『エノテカ・クリッカ』の大橋昌彦さんがシェフに就任。懐かしい鶏もも肉のコンフィも、花ズッキーニのフリットもある(季節限定)。

大橋シェフはカンパーニャ州、トスカーナ州などの5店舗で計3年半修業した人。だけどコテコテ伝統料理というよりも、日本の季節の素材を使い、普段の日に食べてほっとする料理を作る。

パネッレとビールだけもいいし、前菜いろいろつまむもよし、セコンドまでしっかり行くことも。
こういう店が街に一軒あればいいな、と思う人は多いのか、いつ行ってもギュウギュウだ。

クラフトビール約30種類のうち、約半数がイタリア、半数が日本。しかしメニューに載っていないものもあるので、私はサービスの山根拓也さんに訊くことにしている。

「真鰯とういきょうのマリネ」(780円)には「スーパー ビター/バラデン(ピエモンテ州)」(930円・330ml)。
個性的なういきょうの香りとオレンジの酸味甘みに、シナモンを使ったビールのスパイシー感合わせ技。

「春キャベツとシラスのペペロンチーノ」(1,200円)のシンプルなパスタには、すっきりとキレのいい「チェコ・ノリス インペリアルピルスナー/ブリューフィスト(ロンバルディア州)」(930円・330ml)。

「ホワイトアスパラの目玉焼きのせ」(1,180円)と「コスタンツァ/フレア(ウンブリア州)」(930円・330ml)は、ホワイトアスパラの妖艶なえぐみとホップのほんのりとした苦味、卵とモルトのリッチな相性。

ああ、こういうこと。こういうことがしたかったのですよ。


〈メニュー〉
クラフトビール(イタリア、日本):グラス480円~、ボトル830円~。グラスワイン680円~、つまみ500円~。(すべて税別)

バール イタリアーノ ダ・パオロ

住所
〒176-0012 東京都練馬区豊玉北6-13-15 藤和シティコープ 103
電話番号
03-6914-6368
営業時間
17:00~L.O.翌1:00、土・日・祝12:00~L.O.翌1:00
定休日
定休日 無休 練馬駅より徒歩3分
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/cmebc4rp0000/
公式サイト
http://tre-frecce.co.jp/da-paolo/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

ビッレリア ルッポロ

住所
〒145-0062 東京都大田区北千束3-28-6 YUKI大岡山1B
電話番号
03-6425-9237
営業時間
17:00~24:00
定休日
定休日 火曜 大岡山駅より徒歩3分
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/7j0ajf6p0000/
公式サイト
http://www.luppolo.jp/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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