【鮨好き注目の一軒!】“ホンモノの鮨”という選択肢がなかった渋谷の街のオトナが認める特別な一軒

【連載】幸食のすゝめ #039 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

カテゴリ
賢人コラム
  • 連載
  • 渋谷
  • 寿司
  • プレミアム会員限定
【鮨好き注目の一軒!】“ホンモノの鮨”という選択肢がなかった渋谷の街のオトナが認める特別な一軒
Summary
1.実は元ラッパーという若き店主が握る鮨を食べるために、毎夜鮨通が訪れる名店
2.鮨以外に繰り出されるさまざまなつまみのレベルも高く、酒が進む
3.鮨飯に使う赤酢は3種類。3年ものを中心に、10年熟成などをブレンド

幸食のすゝめ#039、赤酢と米のライムには幸いが住む、渋谷

揚げ立てをそのまま出すのではなく、備前焼の美しい皿の上で余熱調理され、素材が持つ美味しさが最も引き出される温度で供される力強い野菜や鰆などの魚たち。その日、縁あって静岡の板前天ぷら『成生』のカウンターを囲んだ7人の中に、ことさら強く真っ直ぐな視線で素材と温度のドラマを見つめている人物がいた。

市内の大衆酒場で杯を重ね、駅でつまみと酒を買い、共に最終のひかりに飛び込んだ。彼の名は黒崎一希氏、、、

「渋谷で鮨」という新しい選択を確立した、あの店の若き主人だった。
日曜の渋谷21時、2巡目のカウンターに座ると黒崎さんがこれから使う分の山葵を、静かなリズムでおろしていた。

涼しげな笑顔と、端正な立ち居振舞、しなやかなのにキレがある動き。あの夜、ひかりの車内で聞いた元ラッパーというフレーズを思い出しながら、のれそれのスープを頂く。濃厚な出汁は、太刀魚と金目鯛のものだと言う

副産物である魚たちの個性的なバックトラックに、淡白なのれそれを泳がせる。ラップを聞いている最中、サンプリングされた凝ったネタに思わず微笑んでしまうことがある。
その時、畳み掛けるように三陸の子持ちヤリイカが濃いライムを踏んできた。

富山のホタルイカと菜の花、三陸の若布、旬を歌うトリオの酢味噌で変化をつけ、続くは佐賀の干潟から届いたオトフセ。人気のクマモトと同じく、地元で愛されてきた小ぶりの牡蠣だ。貝柱が鍛えられ太くなることで生まれる、干潟特有のうまみと甘みは、シルクの喉越し。あえて、一切の味を足さずに出す。

続く金目鯛は、天津小湊産。濃厚な味わいに、大根おろしと木の芽が添えられ、前半のリズムにアクセントが生まれる。

そして、1つ目のサビは二晩休ませた常磐の鯛。握りに最適なサイズの兵庫産トリガイと、希少な噴火湾産白海老の3時間昆布〆、小柴産太刀魚の酒蒸しを挟み、クライマックスは九州島原産の見事な車海老が登場する。

この記事にはまだ続きがあります

今すぐ続きを読む

プレミアム記事をすべて読むには、ぐるなびプレミアム会員登録が必要です

関連記事

スペイン『エル・ブリ』が火を付けた“美食のタパス化”の行き着く先にあった、神戸・鉄板焼きの進化系
スペイン『エル・ブリ』が火を付けた“美食のタパス化”の行き着く先にあった、神戸・鉄板焼きの進化系

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

ウジウジと転職に悩むアラサー男子が悩んでいることを大胆に解決する方法がここにある【漫画家・江川達也】
ウジウジと転職に悩むアラサー男子が悩んでいることを大胆に解決する方法がここにある【漫画家・江川達也】

愛知教育大学数学科(応用数学専攻)卒業。卒業後、中学の数学教師という経歴を持つ。本宮プロダクションでアシスタントを経て、1984年『BE FREE!』(講談社)で漫画家デビュー。『まじかる☆タルるートくん』(集英社)、『東京大学物語』(小学館)などのヒット作を生み出す。現在はタレントとして活躍中。テレビや雑誌などさまざまなメディアに登場し、コメンテーターとしての顔を持つ。

あなたの知らない“昭和レトロな自由が丘”で癒される、着物女将とおでんの楽園
あなたの知らない“昭和レトロな自由が丘”で癒される、着物女将とおでんの楽園

【連載】幸食のすゝめ #038  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン
【奥渋にある隠れ家】日本酒好き、燗酒好きにはたまらない世界がこの扉の向こうでは待っている

連載】幸食のすゝめ #037  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン
中野・ウマすぎて一週間に三度も通った隠れた名店! ごく普通の大衆中華の顔をして、大当たりの店とは?

【知られざるいい店のすゝめ】あの口コミサイトに載っていない店。地元民しか知らない店。裏通りや駅から少し遠くにある店……。街にはまだまだ知られざる店がある!街と店と絡み合ってきた人生の中で食の賢人・松浦達也が辿り着いた珠玉の一軒を紹介する。

松浦達也
編集者/ライター/フードアクティビスト