#009 控えめで寡黙な実力派、奥沢
世田谷区の東の外れに突き出た形で、目黒区と大田区に包み込まれた世田谷の奥座敷、奥沢。
街の東部は、そのまま田園調布に連なる形で開発が進み、西部はそのまま尾山台、等々力の高級住宅街へと続いて行く。
すでに昭和初期には、住宅地としての環境整備が整い、街の北側にある高級ショッピングタウン、自由が丘の繁栄にも後押しされながら、静かに、いつも品を保ちながら独自の発展を続けて来た。
北は東京を代表するショッピングタウン、目黒区自由が丘。南は高級住宅地の代名詞、田園調布。しかし、奥沢にはスイーツ女子の街的な気恥ずかしさも、田園調布の過度なステータス感もない。むしろ、2つの街よりも洗練された品の良さと、揺るぎない真の高級感がある。
そんな街だからこそ、決して気負わず、決してスタンドプレイにも陥らず、それでいて、極めて上質な味覚を提供する店舗が、閑静な住宅地の中にポツンポツンと点在している。もちろん声高な主張とは無縁の街故に、その存在は地元の住民だけにひっそりと守られている。
もちろん、今回紹介する店も知られざる至宝だ。
・ホテル時代、四川の技で高名だったシェフが独立したチャイニーズ。
・人気のあの作家が世界一愛する洋食の老舗。
・未だメディア露出ゼロの焼鳥の名手。
さて、そろそろ静かなるグルメタウン、奥沢の街に飛び出そう。
指名客が殺到したホテル中華の覇者
都内の大手ホテルには、ショッピングタウンと有名な飲食店の支店が立ち並ぶことが多い。しかし、真の味覚を求めるなら、大手ではなく、個性的なスペックを持つシティホテルに軍配が上がる。
例えば、多くの文豪たちに愛された御茶ノ水「山の上ホテルの天ぷら」。同じく、現代の作家たちがこぞって仕事場にしている白金「都ホテル」の中華、特に四川料理が高名だった。わざわざ、天ぷらなり、四川なりを食べるためにホテルに通う、そんな客たちが数多く存在する。ホテル料理の白眉だ。
奥沢と言えば、鮪や鮨の特集になると必ずメディアに登場する『入船寿司』。その商店街辺りに、あのホテルの料理人が四川料理店を開いていることは、意外にもまだ余り知られていない。自由通りは、ちょうど『入船』にぶつかる所で、奥沢銀座と二股に分かれて行く。
奥沢銀座は少しずつ上質な店を点在させながら、どんどん住宅街に入って行く。
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