行列のソース焼きそば、のどぐろから東京の名店へ計4軒の至福

【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第15週  日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。

2015年12月28日
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行列のソース焼きそば、のどぐろから東京の名店へ計4軒の至福
Summary
・ソース焼きそばの謎
・富山湾からの宝物
・「ダル・ペスカトーレ」の再現
・二日がかりで生まれる味わい

11月12日一軒目「飛騨高山の隠れた名物」

大勢の人が、ソース焼きそばを食べている。
30数人の客、ほとんどがソース焼きそばを食べている。
高山の街を歩くと目立つのは、「飛騨牛ステーキ」に「ハンバーグ」、「飛騨ラーメン」、「手打ちそば」、「手焼き煎餅」なのだが、それらに交じって「ソース焼きそば」が目立つ。
駅前の「ちとせ」を通りかかったら、外まで行列である。
「ソース焼きそば」に行列である
「ソース焼きそば」に「名代」である。
並、もやし入り、肉入り、イカ入り、玉子(目玉焼きのせ)、海老入りとあり、上肉と上イカもある。ここは王道の「肉玉」を頼んでみた。
店内を見れば、餃子とソース焼きそばをシェアしている女子二人。
焼きそばと餃子、ラーメンを分け合う親子連れ。
仲睦まじくソース焼きそばを食べる、老夫婦。
大盛り焼きそばとスープを頼んで、一気呵成にほおばっている男子。
マヨネーズをかけた大盛り焼きそばをシェアする奥さん二人。
ここには、様々な焼きそば人生がある。
厨房をのぞくと、アルミの覆いで見えないが、ソース焼きそばを一手に作るのは、おばあさんのようである。
湯気に囲まれた頭が、リズミカルに動いている。
丁寧に作っているのだろう。ソース焼きそばは、ラーメンや餃子より遅い。さあ現れた。

濃い。色が濃い。
短い。麺が短い。
よくよく茹でてから丹念に炒めているのだろう。麺はちぎれて、3㌢ほどになっている。
味は濃い色の割には上品である。ソース焼きそばだから上品という事はないのだが、味が濃すぎず、するすると食べられるのである。
そこに豚肉とキャベツのうま味が加わり、一体化している。
お腹はすいていなかったが、さらりと食べられたのもそのせいである。
なにか食べ終わった後に、また食べられそうな気分になってくる。
それが「ちとせ」の魅力であり、人気の秘密なのかもしれない。
ご主人らしき男性に、聞いてみた。「上肉と普通はどこが違うんですか?」「柔らかい肉を使ってます」と言って笑う。
うむ、並でも十分柔らかいんだけど、これは今度「上肉」を食べるために、高山に来なくてはいけない。

ちとせ

住所
〒506-0000 岐阜県高山市花里町6-19
電話番号
0577-32-1056
営業時間
月・水~金11:00~15:00 (L.O.14:50)、17:00~19:30 (L.O.19:20)、土・日・祝11:00~19:30 (L.O.19:20)、
定休日
定休日  火曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/phhywkz20000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

11月12日二軒目「富山という土地の豊穣」

静かなお椀だった。
一口。淡い滋味が忍び寄る。
新湊の鱧は、動物的なたくましさを広げ、れんこん餅は、素朴な甘みで心を包む。
その対比を、仲睦まじく感じさせるのは、出汁の静けさである。
かすかに酸味を落とした出汁の味わいが、ゆっくりと膨らんで、鱧とれんこんを一つにする。
特注だという、おわら風の盆を描いた輪島塗の椀も素晴らしい。

お造りは、新湊のカワハギと滑川のアオリイカ。炙って厚く切られたカワハギは、クリックリッと歯が入っていき、肝のうま味のあとからほの甘みが顔を上げる。
みずみずしいカワハギだからこそ味を生かせる、この厚さがいい。
一方アオリイカはどこまでも甘く、ねっとりと舌の上で溶けていく。
醤油などつけたくない、純で濃密な甘みがあって、そこに生からすみを絡めて食べれば、熟れたうま味がイカに色香を着せる。

お造りは、新湊のカワハギと滑川のアオリイカ。炙って厚く切られたカワハギは、クリックリッと歯が入っていき、肝のうま味のあとからほの甘みが顔を上げる。
みずみずしいカワハギだからこそ味を生かせる、この厚さがいい。
一方アオリイカはどこまでも甘く、ねっとりと舌の上で溶けていく。
醤油などつけたくない、純で濃密な甘みがあって、そこに生からすみを絡めて食べれば、熟れたうま味がイカに色香を着せる。

氷見ののどぐろは、塩が精妙で、皮ぎしの香りと品のある脂の甘みを際立たせ、この魚の淡さと強さを思い知る。
そして上市里芋は、一噛みで粘るが、すうっと優しい甘みを残して消えていく。駄里芋のように、口の中の水分をうばうことなく、どこまでもきめ細かく、そこはかとない存在に、切なくなる。
富山という土地の豊穣が、そのまま品となったような里芋なのである。
富山の割烹「ふじ居」にて。

御料理ふじ居

住所
〒930-0887 富山県富山市五福2区5385-5
電話番号
076-471-5555
営業時間
火~日・祝日11:30~13:00 (L.O.13:00)、17:30~22:00 (L.O.22:00)
定休日
定休日 月曜、第3火曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/d4c7zd6d0000/
公式サイト
http://www.oryouri-fujii.jp/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

11月17日「ミシュラン三ツ星の味」

タリアテッレ うなぎとレモンのクロカンテ 

卵黄と粉で練った麺を乾燥させて熟成させたタリアテッレは、かすかな歯ごたえを残して、我々の歯を喜ばす。
これ以上でも以下でもない、精妙な薄さに仕立てられ、パリッと香ばしく焼かれた浜名湖産の天然うなぎの脂の甘みと、甘く煮たレモンの甘酸っぱさを受け止める。
三ツ星「ダル・ペスカトーレ」のブルーナおばあちゃんからナディアに受け継がれた料理を、村山シェフが再現した。
「空気も温度も、食材もフライパンも違う。その中でいかに「ダル・ペスカトーレ」の味を再現できるか、二ヶ月間悩み抜きました」。
その味は、どこまでも静かで、喉に落ちてからようやく滋味が、脳に染み渡っていく。
心の中で、「うまい」と呟く。
目をつぶれば、マントヴァの清涼な風が吹き抜ける。
それは、自然と寄り添った人々が作り出した、質素でこの上なく贅沢な智慧の味だった。
目黒「ラッセ」にて。

レストラン ラッセ

住所
〒153-0063 東京都目黒区目黒1-4-15 ヴェロ-ナ目黒B1
電話番号
03-6417-9250
営業時間
月~土 ランチ 12:00~15:00 (L.O.13:30)、ディナー 18:00~23:00 (L.O.21:30)
定休日
定休日 日曜、第2月曜、祝日やお盆の市場の状況で第2月曜日の定休日が変動することがございます。
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/gbv1500/
公式サイト
http://lasse.jp/restaurant/

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※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

11月18日「リードヴォーのエドワード7世風」

この輝きを見てほしい。
手をつけるのをためらわせる、毅然とした艶がある。
皿からたち上る香りに陶然となりながら、まずソースを一口すくった。
ああ。深い。
深淵が見えぬほど深いうまみが、舌を抱きかかえる。
それほどに濃く、深いうま味なのに、どこまでも自然で、しつこくなく、さらりと口から消えていく。
美しいうま味の余韻だけを頭の中に残しつつ、なにごともなかったように消えていく。
とてつもなく妖艶だが、愛くるしい。
甘美のさざ波が次々と打ち寄せては、引いていく。
甘美をまとったリードヴォーは、ふんわりと舌に着地して、てろんと崩れていく。
形をなくすと同時に、切ない甘みを滲ませて、深いソースに溶けていく。
その瞬間、刹那にこそロマンがある。
フランス料理の、デカダンスがある。
「リードヴォーはゆっくりゆっくり火を入れるため、二日がかりで仕込んでいます。ワインですか? ワインは水のように使っています。それでないとこの味はでない」。
「アクや脂をひいて煮詰めるだけでなく、全体の4割は捨ててしまう。そうしないと雑味が残って、この自然な品のある後口は生まれないのです」。
三宗シェフは、端然と語られた。
トリュフをまぶした、ガルニのヌイユや、リードヴォーの下に隠した、精妙な量のフォアグラとともに、恐らくこの贅沢は、真の贅沢は、もうどのレストランでも味わえないだろう。
エドワード7世がパリを訪れた時に作ったという、マキシムドパリのスペシャリテ「リードヴォーのエドワード7世風」。
連れの女性が、「夢見心地でした。今日は一日中エドワード7世の気分で過ごせます」。といったら「では、王妃のアレクサンドラになられた気分ですね」と、すぐに切り返した菊地さんのサービスも素晴らしい。
「シェ・イノ」にて。

シェ・イノ

住所
〒104-0031 東京都中央区京橋2-4-16 明治京橋ビル1F
電話番号
03-3274-2020
営業時間
11:30~14:00(L.O.)、18:00~21:00(L.O.)
定休日
定休日 日曜(12月31日~翌1月4日休)
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/9th8r35m0000/
公式サイト
http://www.chezinno.jp/

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