気分は紳士淑女。銀座の正統派バーで飲む魔法のジントニック

東京・NY・パリ、世界の食トレンドの最前線を走る街を中心に、国内外を問わず、「次に食べるべきもの」「こんど行きたい店」をクローズアップしていきます。

2016年01月22日
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気分は紳士淑女。銀座の正統派バーで飲む魔法のジントニック
Summary
1.2013年、日本最優秀バーテンダーに輝いた勝亦誠氏がオーナーを務める
2.「落ち着いてゆっくり飲める」をコンセプトに英国風のインテリア
3.おすすめのジントニックは手に取って確かめたライムが味のポイント

バーの定義は難しい。単に酒を飲ませるところと言ってしまうと居酒屋も仲間入りしてしまう。ダーツバーやゴルフバー、さらには酸素バーなどの亜種も登場していて、もう何でもいいからバーにしておこうという安易さが感じられる。
その正反対にあるのが銀座の資生堂本社の近くにあるセブンシーズンズだ。華やかな夜の並木通り。ネオンと出勤を急ぐホステスらしい美女のまぶしさから逃れるようにして階段を下りると、重い扉が迎えてくれる。ぐっと力を込めて中に入れば、英国の城を意識した石や木でインテリアがまとめられている。さて、大丈夫だろうか。美女が接客する店と同じぐらい予算が必要ではないか。

雰囲気からは想像できないリーズナブルな料金

「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうで静かな笑顔でこちらを迎えてくれるのはオーナーバーテンダーの勝亦誠氏だ。きれいに撫でつけられたシルバーグレイの髪、きりっと伸びた背筋。俳優と言っても通じるような端正な顔立ち。これはただ者ではない。ちょっと自分には不相応ではないかと、きびすを返したくなるのをこらえて、重厚なカウンターの席に腰を下ろす。映画の世界に入り込んだような印象だ。気分はジェームズ・ボンド。ウオッカマティーニをとの言葉が出かかるが、初めての店では安心できない。まずは様子を見よう。

2005年9月に銀座4丁目にオープンしたフォーシーズンズの2号店として、セブンシーズンズは2015年10月にオープンした。フォーシーズンズは1年を通して飲んでもらいたいとの意味を込めてのネーミングだったが、7丁目の新店は住所からセブンと洒落込んだ。どちらかといえば賑やかなフォーシーズンズとバランスを取るように、落ち着いた大人の空間にしたかったのだと勝亦氏は説明する。客層も40代のビジネスパーソンが中心。銀座のバーの平均的な価格は1杯1,500円、チャージも1,500円だが、セブンシーズンズは1,300円で飲めるカクテルがあり、チャージも1,000円と想像とは反対にリーズナブルに楽しめる店である。

あっという間に飲み干したくなるジントニック

何かおすすめのものをとお願いして「ジントニックではいかがでしょうか」と返される。ジンにライムジュースを足してトニックウォーターで割っただけの1品。だからこそ難しい。初めての寿司店でコハダや卵焼きで職人の腕を確かめるように、ジントニックはバーテンダーの力量を図るバロメーターになる。そのカクテルを自ら勧めるというのは相当に自信があるに違いない。

使うジンはビーフィーター。もっとも一般的な選択だ。生ライムを絞ったジュースを合わせて、目の前でトニックウォーターを注ぐ。手品の仕掛けを見破ろうとするかのように、勝亦氏の一挙手一投足を確認したが特別なことはなかった。
普通じゃないか。自分の見方の甘さを知るのは一口含んでからだ。しっかりとした味わい。鼻孔に抜けるライムの香り。これからバーで酒を楽しもうという自分をまさに歓待する味だ。たまらず、続けて飲んでしまい、ロングドリンクだというのに、あっという間にグラスが空になる。すっきりとした後味。「同じものをください」との言葉は、本来こういうときに使うべきものだ。一体、どんな魔法をかけて作ったのだろう。

師匠の教えを守り続ける丁寧な仕事ぶり

勝亦氏の師匠は、銀座で50年近い歴史を持つ『ダルトン』の石澤實氏。御年80歳近く。日本にマッカランを紹介したバーテンダーとして知られる。その教えは「水割りやジントニックのようなものほど、ていねいに作れ」だったという。旨さの秘密はそこにあったのかと一瞬納得しかかったが、それでも疑問が残る。本当にそれだけで味に差がつくのだろうか。前回紹介した保志雄一氏のように、その日の天候に合わせてレシピを微妙に調整しているのではないか。
「私はレシピをいじりません。どの季節に飲んでも同じ味です」
ますます謎めいてくる。粘ってようやく聞き出した秘密はライムにあった。ジントニックがおいしくなるかどうかはライムの選択で決まるのだという。手に取って皮が薄く、弾力のある実を感じるものを選ぶ。言葉にすれば簡単だが、この見極めには経験が必要だろう。2002年、全国バーテンダー技能競技大会での総合優勝はダテではない。
また、ドライなものを好む客が多いことから、多くの店ではトニックウォーターに、炭酸水を注ぎ足して甘さを調整している。これに対して勝亦氏は100%トニックウォーターで満たす。「自分が美味しいと感じたものを飲んでもらいたい」と胸を張る。ブレのない味わいは、素材選びと、ていねいな作り、変えることのないレシピの3つがそろって初めて実現するものだった。

デザート代わりに楽しむ大人の甘い酒

ジントニックを2杯やっつけたら、今度はオリジナルが飲みたくなる。
「それでは2003年、米国ラスベガスの世界カクテル・コンペティションに出品したカジノ・ロワイヤルではいかがでしょうか」
ストイックな印象の勝亦氏が差し出したショートグラスには、ブレンダーから赤褐色のシャーベット状のものが注がれ、そこにシャンパンを満たして完成となる。デコレーションもイチゴを中心に、果物の皮で作ったハートとスペードが突き刺さっている。渋いイメージの勝亦氏から、こんなかわいいものが出てくるとは驚きだ。

英国から一転してラスベガスに気分も飛んで行く。なんだか真面目な男の本性を見たような楽しさに頬が緩む。あれだけ緊張して最初の一杯をお願いしたのに、すでに勝手に打ち解けている自分がいる。もう酔っているのだ。

べたつく甘さではないので、男性客からの注文が多いという。グランマニエ、チェリーブランデー、フレッシュパイナップルジュース、ストロベリーシロップ、シャンパンとケーキのようなレシピながら、複雑な甘さがおもしろい。軽い苦みがあって、飲み飽きないような工夫がされている。ルーレットのテーブルに座り、こんなカクテルをあおりながら勝負したくなる。

残念ながらカジノ・ロワイヤルは入賞を果たせなかった。考えてみれば60カ国からエントリーがあり、3位までしか発表されない大会だから、簡単にはランク入りできなくて当然だろう。その敗戦の一杯を気軽に勧めてくれる勝亦氏に、ますます親近感を覚える。ツンデレではないが、最後はデザート代わりに甘く締めるのが、大人の酒道なのだ。
すっかりいい心地になって階段を上る。並木通りはさらに賑やかになっている。すれ違うカクテルドレス姿のホステスに目を奪われることもない。バーの定義に話を戻そう。小1時間で自分をリセットしてくれる場所なのだ。夜風が火照った頬に気持ちよかった。


チャージ1,000円 サービス料10%
ジントニック1,300円 カジノ・ロワイヤル1,600円 金柑のカクテル1,600円

料金はすべて税込

BAR SEVEN SEASONS

住所
〒104-0061 東京都中央区銀座7-5-5 長谷第一ビルB1
電話番号
03-5537-5885
営業時間
18:00〜26:00 土18:00~24:00
定休日
定休日 日・祝
公式サイト
http://seven.bar-fourseasons.jp/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。