【こどもの日】なぜ「男の子」だけのお祝いなのか? 食べると縁起が良い行事食とは?

日本古来の伝統食は、日本の気候や風土、歴史によって長年育まれてきた大切な食文化です。中でも、暮らしの節目節目にくり返される「行事食」には、日本人のスピリットが凝縮されています。本連載は、日本の伝統食、行事食にスポットを当て、知っておきたい基本知識について、日本料理研究家の柳原尚之さんにお話しいただき、さらに覚えておけば日々の食ライフがランクアップする、日本料理の基本レシピも随時紹介!

Summary
1.端午の節供(こどもの日)のルーツは? 菖蒲を飾る理由は?
2.こどもの日になぜ、かしわ餅やちまきを食べるのか? 地域による違いは?
3.こどもの日に家族で食べたい! 近茶流直伝、端午の節供におすすめのレシピ

連載7回:「端午の節供」(こどもの日)に食べる行事食について【日本料理研究家/近茶流嗣家・柳原尚之】

現在、「こどもの日」として盛大に祝われる5月5日は「端午の節供」として大切にされてきた。男の子の成長を願って、かしわ餅やちまきを食べ、菖蒲(しょうぶ)湯に入るのが定番だが、あらためてこの行事を振り返ってみると、「端午の節供」の語源やかしわ餅を食べる由来など、知らないことばかりではないだろうか。

今回も、江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)の柳原尚之さんに、端午の節供のルーツや語源、かしわ餅やちまきについての意外なトリビアを解説していただいた。また、意外に頭を悩ませるのが、端午の節供の日に食べるお祝いの料理。柳原さんが子供の頃から味わっていた、近茶流のお祝い膳の料理の一例を貴重なレシピ付きでご紹介いただいた。

5月5日は「こどもの日」。なぜ“男の子”の成長を祝うのか?!

5月5日は「端午の節供」と呼ばれ、平安朝の時代から中国からの影響で大切に祝われてきたそうです。「端」は「はじまり」という意味があり、「午」は数字の「五」を意味していることからこう呼ばれています。五が重なることから「重五(ちょうご)の節供」とも呼ばれてきました。

日本では男の子の健やかな成長を祝う日ですが、中国からの考えで陽数(奇数)が重なる大悪日という考えから、物忌みの日とされてきました。端午の節供には菖蒲(しょうぶ)を飾ったり菖蒲湯に入りますが、独特の強い香りをもつ菖蒲には邪気を払う“魔除け”の意味がありました。ちょうどこの頃は虫も増えてくるため、菖蒲は毒虫を家に入れない虫除けとしても役に立っていたようです。なお、葉菖蒲はアヤメに似た花を咲かせる「ハナショウブ」とよく混同されますが、別品種です。

また、邪気払いとして、菖蒲とよもぎを使って丸く束ねた「くす玉」が作られてきました。かなり香りが強かったでしょうから、実際に虫除けになったのかもしれません。この菖蒲とよもぎのくす玉が、現在、立候補者が当選した時に割るくす玉の元になったのです。

室町時代の武家社会となり「菖蒲」の同音語として「尚武(しょうぶ)」の字を当てるようになり、“武運を上げる”という意味が加わって、男児の祭りになっていきました。兜を飾るようになったのもこの時代からで、江戸時代の様子を描いた書物によれば、この時期、東京・日本橋に賑やかな市が立ち、模造刀やくす玉なども売られていたそうです。人々はこうしたものを買って帰って家に飾ったようですね。

端午の節供に「かしわ餅」を食べる理由は?

さて、端午の節供の行事食といえば「かしわ餅」です。このかしわの葉っぱは、枯れてもすぐには落ちずに木にくっついていて、次の葉っぱが出てきた時に、押し出されるようにして初めて落ちます。お正月のダイダイやゆずり葉のように、代を重ねるという意味で、縁起がいいとされました。この時期にはちょうどかしわの新葉が出てくる季節で、この葉っぱを使ったかしわ餅が作られるようになりました。

ところで、関東と関西より西では、使っている葉っぱが違うのをご存知ですか? 西ではかしわではなく「山帰来(さんきらい)」の葉を使っています。かしわよりもっと丸い葉っぱです。かしわの葉を使う場合は、塩漬けにした黄色っぽい色の葉が使われています。

こどもの日に「ちまき」を食べるのは“邪気払い”のため?!

かしわ餅と並んで、「ちまき」も端午の節供によく食べられています。昔は「茅萱(ちがや)」の葉で巻いていましたが、今は笹で巻いた「笹ちまき」がほとんどです。茅萱は細いので、何本か束ねて巻いていました。このちまきも邪気払いの意味があったようで、明智光秀も本能寺の変の際にちまきを食べたと言われていて、緊張のあまり、ちまきを包んでいる葉ごと食べてしまったとか。本能寺の変は新暦でいう6月ですが、端午の節供以外にもこの時期には食べられていたようですね。

ちまきには餅以外にもいろいろあり、「ちまき寿司」といってお寿司を詰めたちまきもあります。また葛を固めて作った「葛ちまき」や、小豆あんの入った「羊羹ちまき」、鹿児島には灰汁を加えた「あくまき」(写真上)など、日本各地で個性豊かなちまきが作られています。

端午の節供におすすめの料理は?「初鰹」を使った絶品レシピはおすすめ!

端午の節供の行事食には、中国の伝説・登龍門にちなみ鯉料理や、甲冑にちなんだ伊勢海老の「具足煮」、健康で勇敢な男子に育つように願った「鯛のかぶと焼き」などがあります。またちょうど旬を迎える初鰹は「勝夫」という縁起の良い魚として食べられました。

私が子供の頃から、端午の節供によく食べていた、かつおのたたきの作り方をご紹介します。今回は皮目を火で炙った後にダイコンおろしをたっぷりそえて、二杯酢でさっぱりしていただきます。平造りにした後は、塩を少しふるのがポイントです。

■「かつおのみぞれたたき」の作り方■

【材料】4人分

・かつお 1節(約300g)
・ダイコン 400g
・アサツキ 3~4本
・ニンニク 1かけ
・ムラメ(あれば) 少量
・ミョウガ 3本
・青じその葉 適量
・二杯酢(米酢1/2カップ、醤油大さじ2)
・塩 適量

【作り方】

① かつおは余分な血合いを取り、皮目の近くに5本の金串を扇形に打つ。皮側から強火のガスの炎にかざし焼き目がついたら、身の方は表面がわずかに白くなる程度に焼く。氷水にとって金串を抜く。冷やしてからふきんで水気をふき取る。

② ダイコンは目の粗いおろし金ですりおろし、ふきんで軽く水気を絞る。アサツキは小口切りにし、ムラメは水に放す。ニンニクは薄切りにする。

③ ミョウガはせん切りにして水にさらす。

④ ①のかつおの皮目を上にして7~8mmの厚さの平造りにする。少量の塩をふりかけてから皮目に②のダイコンおろしをのせ、アサツキ、ムラメを散らす。包丁の腹で軽くおさえて薬味をなじませる。

⑤ 器に青じその葉を敷いてかつおを盛り、ミョウガをあしらい、ニンニクと二杯酢を添えて完成。



男の子がいる家庭はもちろん、季節を感じられる旬の食卓メニューとして、ぜひ作ってみてはいかがでしょうか?


参考文献
『柳原一成の和食指南』(柳原一成著/NHK出版)
『ニッポンの縁起食-なぜ「赤飯」を炊くのか』(柳原一成・柳原紀子著/NHK出版)

※写真はイメージです
写真提供元:PIXTA
編集協力:糸田麻里子(フードライター/エディター)