日本でも最古の一軒とされる本格イタリアン『アモーレ・アベーラ』の歴史ある料理たち【旧い店の存在価値】

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

Summary
1.日本に現存するイタリア料理店の中でも本格的な店としては最古クラスと言われる店
2.オープンは太平洋戦争の翌年という、71年の歴史を持つイタリア料理店
3.旧い店には「流行軸でなんだか既製品」的なところがないと江さんは語る

ここ数年、バーや居酒屋といった酒場を問わず、旧い店ばかり行っている。
以前からうどんやお好み焼きといった、お手軽な食べ物は絶対旧い店の方がレベルが高いと思っているのだが、あれこれのグルメ情報誌の新店情報ページをめくっていて気づいたのは、フレンチやイタリアン、スペイン料理、和食では割烹ばかりが登場していて、普段よく行くうどんとかお好み焼きとかの新店情報は極端に少ない。

あったとしても「讃岐系」うどんの店ぐらいで「お好み焼き屋がオープン」という記事は皆無だ。
街場を定点観測していればわかるように、定評のうどん屋やお好み焼き屋がなんでも後継者がいなくてひっそりと店を閉めてしまうケースがあっても、新しい店の開店の様子は見えない。
あったとしても安さ勝負のチェーン店、ファストフード系の店だ。

「外食産業」だらけの時代に旧い店の良さを知る

ターミナルビルやデパートなどのテナントにしても、ショッピングモールのフードコートにしても、家族3代手打ちでやってるうどん屋さんや、おばちゃんがやってるお好み焼き屋さんが出店するということはない。
デベロッパー側にしても、うどんにしてもお好み焼き屋にしてもテナントとして賃貸するなら「外食産業」の方だろう。

わたしの場合、仏伊レストランは新旧問わず食べに行くが、あえて旧い店の良いところを述べると、それは「まだまだ分からないことがある」ということだ。

↑カンネローニ。板状のパスタに香味野菜で煮込んだミンチを詰めて焼いてある(ミートソースっぽい)。パン付(グリッシーニらしいです)2,970円

日本に現存するイタリアンの中でも最古とされる一軒

少し前に毎日新聞(大阪本社版)の連載コラムで、宝塚南口にある『アモーレ・アベーラ』のことを書いた。
この店はシチリア出身のオラッツィオ・アベーラさんが1946(昭和21)年に宝塚にオープンした店だ。
アベーラさんはイタリアが連合軍に降伏したとき関西にいた。
日本はまだ太平洋戦争中で「志願兵で来ないか」と誘われて応じ、台湾へ向け軍艦に乗って神戸港から出港しようとしたときに空襲に遭う。
日本の敗戦後、火傷やケガのリハビリで武田尾温泉に湯治するうちに、日本人女性と親しくなり結婚することに。
それがきっかけで西欧料理がまだフランス料理しかなかった時代に宝塚にイタリア料理店を開いたのだ。

こういう話は「皿の上のこと」ではない。
連載でも「イタリア海軍のアベーラさんが神戸で敗戦を迎え、1946年にイタリア料理の店を開いた」としか書かなかった。

わたしが初めて『アモーレ・アベーラ』に行ったのは80年代初頭で、大学を出て初めて給料をもらったときに「行っとかないとダメ」みたいな感覚で初めて地元の友人に連れていってもらった。
高級住宅街にある庭付きの邸宅がレストランであることに驚き、「これがホンモノのイタリアだ」とばかりに施された内装やロゴサインはじめ、あちらこちらのグラフィック・デザインに感嘆した。

↑文中にある“ぶっといグリッシーニ”

けれどもその後、いろんなイタリア料理店に行ってみて分かったのだが、「カンネローニ」「スパゲティ・ア・レ・ボンゴレ」と書かれたメニューや、「なんだこのパン?」だった、ぶっといグリッシーニは、いまさら見てもこの店だけのものだと思う。

スパゲティしかなかった時代に、確かにこの店でイタリア料理とはどういうものだとかセコンド・ピアットとは何かとかは分かったつもりだが、今なお「この店のそれらはなぜそうのか」はクリアカットには分からない。

そんなことを考えてたら、85歳の読者の方から「昭和35年にとあるガイド本を見て行った記憶がある」という内容の手紙が来た。その記事のコピーが添えてあった。1960年だから今から57年前だ。

そこには、
「ピッツアというのは小麦粉を塩で味付けして焼いた薄いパンに、ペペロニー(乾燥ハム燻製)やマッシュルームを載せ、おろしチーズをふりかけ、さらに固形チーズやオリガーノという香菜、唐辛子などで味をつけ天火で焼くという手のこんだ料理である」
とあった。

↑全面がチーズで覆われたミックスピッツァは1,944円

旧い店は「流行軸でなんだか既製品」的なところがない。
旧い店に「自分がまだ分からないこと」がたくさんあるということは、つまり次に行っても新たな「発見がある」ということだ。
それこそが歴史の長い店の味というものだろうか、などと思う。

↑仔牛のカツレツ3,240円はトマトソースまたはレモンから選べるが今回トマトで。クラシカルなフォークとスプーンの形に注目

アモーレアベーラ

住所
〒665-0011 兵庫県宝塚市南口1-9-31
電話番号
0797-71-3330
営業時間
11:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:火曜
公式サイト
公式ページhttp://amoreabela.com/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。