鮨好きなら絶対行くべき名店! 最強の「本マグロ」を食べたら心を握られる、外苑前『鮨 龍次郎』

松井一恵

Summary
1.『ミシュランガイド東京』で星に輝いた名店『すし処 海味』の2代目大将が独立オープン!
2.本日のおまかせコース1本勝負!驚異的なおいしさ
3.粋な接客で繊細な気配りが最高! 初心者でも快適に過ごせるサービス

鮨好き必訪の名店! 食ツウも唸る外苑前『鮨 龍次郎』

東京メトロ銀座線・外苑前駅から徒歩5分。緑豊かな神宮外苑の南、静かな袋小路に新しい鮨店が誕生したのは、2019年11月のこと。ビルの谷にポッと灯りが浮かび、控えめな暖簾と看板があがっている。

暖簾をくぐりエントランスに入ると、格子戸の隙間から店内がうかがえる。目に飛び込むのは、やわらかな照明に照らされた美しいカウンターだ。

この11席のカウンターは木曽ヒノキで造られたもの。新しい木の香りの清々しさを感じるとともに、厚み10㎝の立派な材木に見惚れてしまう。昨今、このように厚みある木曽ヒノキは神社仏閣で使われるだけで、一般には出回らない希少な存在だ。

バックカウンターにある金庫のように見える棚は、氷室。上部に氷が入り、その自然な冷気の中で、ネタが出番を待っている。重厚な扉にはやはり貴重な神代杉を使用。さらに見上げれば、細かい職人技が光る網代天井。すみずみまで妥協せず、古き良き鮨店の構造や雰囲気を伝承して丁寧に造られている。

そう、ここが鮨好きの間で話題の『鮨 龍次郎』だ。

笑顔の大将は、33歳の中村龍次郎さん

初めての来店なら、格子戸を開くまではいささか緊張するだろうが、大将の中村龍次郎さん(写真上)が親しみあふれる笑顔で迎えてくれるので、ふっと力が抜ける。カウンターに座れば、あとはすべてを中村さんにゆだね、リラックスしてカウンター鮨を楽しみたい。

龍次郎大将は、東京・江東区生まれ。実家は中華料理店を営んでいて、子どもの頃から食べることが大好きだった。高校卒業後は、金沢市内の有名鮨店『葵寿し』(2019年に閉店)で、基礎からみっちり5年間修業。帰京してからは、銀座界隈の鮨店で働き、『ミシュランガイド東京』の二つ星の名店『すし処 海味(うみ)』の門を叩いた。そこで生涯の師匠となる長野充靖さんと出逢う。が、2015年に長野さんが他界。悩んだ末に2代目として『海味』を引き継ぎ、4年間大将を勤めた。そして2019年11月に『海味』を卒業、念願の独立を果たした。自身の名前を堂々と使った店名『鮨 龍次郎』だが、随所に師匠・長野さんの魂を感じる。

最初の一貫は“日本一”の本マグロを!

『鮨 龍次郎』のメニューは、おまかせコース1種のみ。通常ツマミ8品、握り12貫からなる、日本の旬を追いかけるメリハリのある構成になっているのだが、最初に出す一貫は決まって本マグロの中トロを握る。理由を問うと、「親父さん(師匠・長野さんのこと)がそうしていたからね」と、ニコリと笑みを浮かべて迷いなく答える龍次郎大将。

が、独立を機に、マグロの仕入先は新しく開拓した。親しくしている銀座『鮨あらい』でマグロ専門仲卸『やま幸』のマグロに出逢い感銘を受け、独立するならぜひお願いしたいと思っていたという。ちなみに、取材時は、静岡県伊豆下田産、延縄(はえなわ)漁で上がった本マグロ、139.6kgだ。そっと包丁を当てながら、大満足の表情になっていく。「身のやわらかさ、脂のバランス、甘み、すべてが理想的。そして何といっても香りがいいんです」。

中トロに続くのは旬を感じる、極上のつまみ8品

つまみと握りを交互に出す構成も試したが、今は、中トロ一貫のあとは、つまみを先に供する王道のスタイル。まずは、長崎県壱岐の「マハタ」(写真上)。透明感にうっとりする高級白身魚だ。静岡県御殿場産の生ワサビを添えて。

日本酒を飲まずにはいられなくなってくる。

「日本酒のラインナップは旬の魚に合うものを置いています」と、龍次郎大将。たしかに、季節のおすすめや限定品など、魚介にマッチするような日本酒ばかりだ。

続くは、富山県の白エビを卵黄醤油で和え、鹿児島県の三郎ウニをのせたツマミ(写真上)。白とオレンジの色のコントラストがなんとも美しい。「三郎ウニは濃厚さがすごい!」と、大将の評。北海道産のウニはみずみずしさが持ち味だが、鹿児島県のように南の海でとれるウニは、味の濃さが格別なのだ。

つまみは他に、ツブ貝煮、メカジキの漬け、とらフグの白子入り茶碗蒸し(ハマグリ出汁の餡)、焼き物、子持ちヤリイカなどを季節に応じて日替わりで用意。これらつまみだけでも最高の気分にしてくれる。

濃厚なマグロに合わせたシャリ。すべてのバランスが見事!

つまみの後はいよいよ握りがスタート。カウンター越しに大将の手がよく見えるが、その滑らかな動きの美しさを、つい無言で見つめてしまう!

こちらのマグロの部位は脂がのった蛇腹部分のすぐ横あたり。大将は「大トロ」(写真下)だというが、もう一つ「大」をつけてもいいのではなかろうか。切りながら大将自身が香りを味わっているようだ。

「シャリは、濃厚なマグロに合わせて、パンチをきかせて仕上げています」と、大将。赤酢、赤酢と白酢を混ぜたもの、米酢の3種をブレンドした寿司酢は、通常よりも酸味が立っている。これをかために炊き上げたシャリに合わせているのだ。米は、北海道産「ななつぼし」の古米を主体に、もう一種類別銘柄の米を混ぜている。

白身魚も比較的に脂ののったネタを使うが、これはシャリとのバランスを考えてのこと。醤油もコク深い、茨城県産の老舗『柴沼醤油醸造』が木桶で醸されるものを取り寄せている。

大トロの余韻にうっとりしていると、目の前ではコハダが登場だ。「コハダって、産地によって歯ごたえがまったく違うんです。今日のコハダは佐賀県有明産。有明のコハダは皮身がしっかりしていますね」。細かやかに隠し包丁を入れて、シャリをすっぽり覆うように握れば……

コハダ(写真上)ならではの自然の文様と、包丁技が合わさって、芸術の域! 「大トロのあとは、絶対にコハダ。口の中に残るマグロのねっとり感を、酸っぱめに仕上げたコハダがリセットしてくれますから」。

アナゴは蒲焼き風にタレで焼く

握りの〆を飾るのはアナゴ(写真上)。煮たアナゴを、蒲焼き風にタレで焼いて握るのだが、『海味』の長野さんが考えたレシピだ。タレをまとうアナゴの皮の香ばしさ、肉厚でしっかりした食感を楽しみたい。

亡き師匠・長野さんは、どんな時も弟子の独立を歓迎し、「『海味』の魂を持ってやってくれればいい」と、背中を押してきた。

『鮨 龍次郎』でも、『海味』の魂が随所に感じられる。一貫目を中トロではじめること、アナゴを煮てからタレで焼き上げることなど、長野さんから受け継ぎ実践している仕事は数多い。しかし、龍次郎さんが大事にしているのは、鮨の技術以上に、長野さんから叩き込まれた鮨職人としての心意気だ。

「お客さんに可愛がってもらって、謙虚に色々教わりなさいということ。気配り、心遣い、喜んでもらいたいという気持ちを大切にすること。お客さんの心を握るようになれ! という教えです」。

個室のカウンターを作ったのも、家族連れのお客さんが気兼ねなく利用できるようにと考えたからだ。すでに心を握られる常連客が増え、次回の予約をして帰る人も多い。ぜひ訪れてほしい鮨の名店だ。

【メニュー】
おまかせコース 25,000円〜
日本酒 500円〜(グラス) 
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です
※予約は1カ月先まで受付しています
※個室(貸切)は2人から6人まで。

鮨 龍次郎

住所
東京都港区南青山2-11-11 1F
電話番号
050-5492-6729
営業時間
ディナー 18:00~23:30
ランチ 12:00~14:00
定休日:日曜日
祝日
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/fb0xt87g0000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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