一品ごとに「だし」を使い分けるこだわりに感服!時間と手間を惜しまず注ぐ、日本料理『一会』【御茶ノ水】

松本玲子

Summary
1.日本料理の名店『広尾 一会』が御茶ノ水に移転!『一会(いちえ)』としての再スタート
2.一品ごとに「だし」を使い分ける、丁寧で繊細な仕立て
3.京都から取り寄せた鮮魚、合鴨農法のパイオニアが育てた米など、素材の質を追及

日本料理の名店『広尾 一会』が、御茶ノ水に移転オープン!

『霞町 すゑとみ(すえとみ)』出身の渡部純一さんが、『広尾 一会(いちえ)』をオープンしたのは2008年のこと。

オープン翌年には、『ミシュランガイド東京2009』で一つ星に掲載され、その年から9年連続星をキープ。食通からの支持を集める同店が、2019年春に御茶ノ水に移転。『一会』として再スタートを切った。

メニューは、全10~11品からなるコースのみ。

丁寧にだしをとった日本料理の真髄を味わってほしいと、一切の妥協を許さず食材に向き合う渡部さんの心が伝わってくる構成だ。特別な時間に酔いしれてもらえるよう、テーブル間が広いゆとりの設計で、器選びにもこだわっている。

「よりよいものにするために必要なのは『考える力』。これまでも、どういう料理にすれば、その素材の本質を引き出せるのかを研究し尽くしてきました」と振り返る渡部さん。

外食は一切せず、ただひたむきに素材と向き合うことに時間をかけてきた。その結果、基本の「だし」からして別格に。

カツオ節、昆布のみを材料としたシンプルなものだが、季節や個体によって味のバラつきが出ないよう、味の均一化を図ることまで徹底しているので、通うたび、初めてこの店の味を知ったときの感動が蘇るほどだ。

だしを極めた店の真髄がわかる一杯

そこでまずは、同店のだしの魅力を堪能できる椀物2品をご紹介したい。

1品目は、小松菜とかしわ入りの東京のお雑煮をイメージしてつくられた、1月の季節のお椀「小松菜の新芽のお椀」(写真上)。

カツオ節、昆布でつくった基本のだしに鴨のだしを少々加えることで、味わい深く澄んだ一杯に仕上がっている。最初にすすったひと口で、心と身体がやわらかくほぐれていくようだ。

小松菜の新芽は、江戸川区で小松菜農園を営む小原英行さんが育てたもの。小原さんが育てる小松菜に惚れ込んでいる渡部さんのために、毎年1~2月は『一会』に出荷する分をしっかりと確保してくれているのだとか。

スーパーではお目にかかることがない新芽を楽しめるのも、この時季ならではだ。

2品目は「ハマグリのお吸い物」(写真上)。

素材のうまみが活きた日本料理らしいこちらの一品も、渡部さんの手に掛かると別次元に昇華。ハマグリを昆布だしとともに火にかける通常の調理法とは異なり、蒸しハマグリから抽出したうまみエキスのみで仕立てているため、ハマグリの味わいをそのまま堪能できる一杯に仕上がっているのだ。

そのため、濃厚さが段違い。ハマグリのうまみをそのまま飲み干すことができるという、なんとも贅沢な体験に気分が高揚させられる。

そのうえ、お吸い物に浮かぶ大ぶりの身は、弾力たっぷりでプリプリ食感。

季節の息吹を五感で楽しむ沢煮

続いては、「山菜の沢煮」(写真上)をご紹介。

フキ、セリ、ハマボウフウ、うるい、わらびの5種の山菜を鴨のだしで炊き上げた、春の香りいっぱいの一皿だ。山菜は食感が残るようさっと炊き上げられているため、シャキシャキとした食感が楽しく、また、噛むたびに口の中に広がる苦みも心地よい。

新鮮な春の味覚、丁寧にとっただしの組み合わせは、季節の恵みをいただくありがたさ、日々を丁寧に生きることの大切さを思い出させてくれるよう。これぞ、日本料理の醍醐味であろう。

産地にもこだわった海の物、山の物、里の物

続いては「お造り」(写真上)。

京都から取り寄せた新鮮なヒラメの昆布〆は、江戸時代から伝わる調味料「煎り酒」と醤油を添えて供される。

昆布〆によってうまみが際立ったヒラメの味わいを、2種の調味料で食べ分けるのも一興だ。きゅっと身が締まったヒラメは、一切れずつゆっくりと堪能したくなる上品な味わい。日本酒もぐんぐん進んでしまう。

お次は「八寸」(写真上)。

埼玉県川越市の農家、鳴河一成さんから取り寄せたきめの細かい里芋は、煮干しのだしで炊き上げたのち、唐揚げに。

中まで染みこんだおだしの豊かな風味と、衣の芳ばしい香りの両方を堪能できるのがミソだ。

添えてあるのはコシアブラの天婦羅。サックリとしたやさしい食感と爽やかな香りが楽しい。

山の物に対する海の物は、『霞町 すゑとみ』親方仕込みの自家製からすみ(写真上)。

カラスミの原料となるボラは、福岡から取り寄せたもの。仕込みをする当日の朝まで泳いでいたため、鮮度の良い状態で漬けこまれている。焼いた餅と一緒に食べると、塩気もちょうどいい塩梅だ。

〆のご飯にはあえてだしを使わず、素材そのものを楽しんでもらう

最後に紹介するのは、「アナゴのご飯」(写真上)。

同店の炊き込みご飯は、常時3~4種類から選ぶことができるが、そのうち通年用意しているのが、ちりめんじゃことアナゴだ。

アナゴは、信頼できる仲買人から仕入れ、米は、合鴨農法の草分けとして知られる、石川県金沢市の山下令治さんが育てたものを使っている。

だしを探求し尽くしている渡部さんだが、〆のご飯はだし不使用。

「米の味わいそのものを堪能してほしい」と、どの炊き込みご飯も、水をベースに薄口しょうゆまたは塩のみで仕上げている。アナゴのうまみが染みこんだ米は、一粒一粒が立って力強い味わいだ。

また、昔ながらの製法で誠実に造られた「手取川」をはじめ、渡部さんの想いとシンクロする日本酒ラインナップもぜひ一緒に楽しんでほしい。

本物のよさを知ってほしいから、お客様とも食材とも真摯に向き合い続けている

「シンプルな中にすべてが詰まった美しさを表現していきたい」と渡部さんは胸の内を言葉にするが、その決意ゆえ、たゆまぬ努力を続けてこられたのだろう。

店内に飾られた、書家の桑原翠邦氏による「幽尋」の二文字(写真下)は「深く究めていくこと」を意味するが、渡部さんの生き方そのものだ。

「最初のデートにご利用くださったカップルは、今ではご夫婦として通ってくださっていますし、うちにくると食欲が戻ると定期的に足を運んでくださるご高齢の方もいらっしゃいます。本当にありがたいことで、みなさんが拠り所にしてくれることがわたしの原動力となっています」と渡部さんは感謝の意を表すが、お客さんも渡部さんのひたむきな姿に魅了されているに違いない。

また、差し替えなし、1巡のみの1日3組完全予約制で1組1組としっかりと向き合っているのも渡部さんならでは。

少しだけ背伸びすれば、本当の日本料理が食べられる。その世界観を多くの人に楽しんでほしいと、時間と手間をかけることを惜しまない渡部さん。

これからも誠心誠意を込めて食材と向き合いながら、日本料理の醍醐味を伝え続けていくのだろう。


【メニュー】
・懐石コース 12,000円(全10~11品)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格は税別、別途サービス料10%を頂戴しています。

日本料理 一会

住所
東京都文京区本郷2-3-15 元町館B1
電話番号
050-5488-9846
営業時間
ディナー 18:00~22:00
(L.O.19:30、ドリンクL.O.21:50)
最終のご入店は、19時30分とさせていただいております。
ドリンクオーダーは、可能な限り閉店間際まで承ります。
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/mjf3657g0000/
公式サイト
公式ページhttps://ichiedua.owst.jp/

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