あの名店の跡地に再び鮨店が! 郷土と新しさのマリアージュが圧巻、広尾『すし良月』

佐川 碧

Summary
1.名店『鮨 心白』の地を継いだのは29歳の若き大将!
2.出身の和歌山の食材にスポットを当てた独創的な鮨
3.カウンター8席のコンパクトな店内はシンプルで落ち着いた雰囲気

鮨好きが“注目したい新店”を選ぶ理由とは?

東京都に鮨バブルが起きた、と言われてからかなりの時間が経ったが、今だその熱は冷めていない。その証拠に都内なら毎日と言っていいほど、どこかで新しい鮨店がオープンしている。

そのあまたある新店から、鮨好きは何を基準に訪問する店を選ぶのか? ロケーションや価格、口コミなど理由はさまざまだが、意見として多くあがるのが「どこ出身か」、そして「名店の近くや跡地に入ったお店」。

かつて広尾に趣向を凝らしたつまみと握りがたっぷり味わえるという人気の『鮨 心白』という予約困難店があった。同店は2019年10月に恵比寿に移転。主のいなくなったその空間に再び灯りがともったのは、約1カ月後の11月4日。

「超有名店の跡に入る店とは?」と、すぐさま話題に。しかもそれが同業種の鮨と判明するとたちまち鮨好きが色めき立った。その店の名は『すし良月』。仕切る大将は29歳と若手。いったいどのような鮨がいただけるのだろうか?

とある調味料との出逢いが店の方向性を決めた!

『すし良月』大将、前岩和則さん(写真下)はこちらも人気店の『すし匠まさ』の二番手を務めていた。そして独立を決め、地方を巡るなどして自身の求める鮨を探し、そこで出逢った、いや、再会したのが「出身地である和歌山県の食材」。

「若い頃は田舎がイヤで、絶対に都会で修業しよう!と意気込んで上京しましたが、今改めて地元と向き合うと、海の恵みに山の幸、昔からの知恵を生かした調味料など、こんなに素晴らしいものが自分のまわりにあったのか、と驚きました」と前岩さん。

中でも「雑賀 吟醸赤酢」との出逢いは衝撃的で、そのマイルドさとスッキリ感のある深い味わいに魅入られ、“これを自分のお店の主役にしよう。この赤酢をベースにシャリを作り、シャリを生かした握りを大切にしたお店にしよう”と、赤酢から『すし良月』のコンセプトが決まった。

この酢と共に愛用している「三ツ星醤油」は同じく和歌山県で作られ、木の桶を使って醸造するなど、今や珍しい昔ながらの造り方にこだわっている。

そしてシャリは、この「雑賀 吟醸赤酢」と「三ツ星醤油」、そして相性のいい土佐の塩で調整し、仕上げているそうだ。合わせ酢に醤油を使ったシャリはかなりの珍しさ。一体どんな味なのであろうか? さっそく、『すし良月』の鮨を見せてもらおう。

炊き方も合わせ酢も個性的! こだわりのシャリの味は?

まずは明石海峡で獲れた「鯛の握り」(写真下)。

関西出身ということもあり、大将自身が好きな魚「鯛」は泳がせた状態で仕入れ、握り用は少し寝かせ、つまみ用は香りが強い活かった状態と分け、店内で処理をしているそうだ。

4日間ほど寝かせたという鯛を使った握りは身の歯ごたえと香りも素晴らしく、横に三筋ほど入れた包丁の効果でシャリとの一体感も良い。

さて、そのシャリだがシャープでスッと引くような後味があり、魚のうまみ・甘みを引き立てている。醤油の独特の匂いは感じず、味の層にその余韻だけ感じる。

また、シャリは「炊き方は秘密」だそうだが、鮨店では珍しく100%浸水させ、米の甘さを全部引き出せるよう、外側に張りを感じるような炊き方にこだわっているのだとか。

シャリの大きさも大将の好みでやや大きめ、握りとはシャリを味わうものという言葉を実感できるおいしさだ。

まったりとした口当たりと清涼感を感じるあん肝

次の品はつまみで北海道余市産の「あん肝」(写真下)。

味付けは「三ツ星醤油」に酒、そしてみりんの代わりに「赤酒」を使って仕上げている。なんでも赤酒を使うことでふっくらと仕上がるのだとか。ちなみに使っている煮切りは醤油と赤酒を合わせたもの。スッキリした味わいで魚本来の味を邪魔しない。

そうして仕上がったあん肝は、噛むとあん肝独特のまったりした歯ごたえと濃厚さが広がり、しかし仕込みと煮切りの味、そして仕上げに振った柚子の効果で、爽やかな清涼感を感じる。ここまでスッキリしたあん肝は珍しい。

「湯気もごちそう!」。ひとつめのスペシャリテは蒸し鮨

次に頂いたのは和歌山県串本町産の「クエの蒸し鮨」(写真下)。

こちらは薄切りにしたクエでシャリを包み、竹製のせいろで蒸し上げる。そして蒸しあがったらそのままカウンターに運び、ふんわり上がった湯気をまとったせいろのまま提供する。

ふたを開けるとほわっと温かさを感じ、クエの上品な脂が熱でほどよく溶け、それがシャリと混じり合い一体感のあるおいしさになっている。味付けに使ったポン酢も熱を通すことでよりまろやかになり、すばらしい三位一体の味だ。

さて、この「蒸し鮨」。実は『すし良月』ひとつめのスペシャリテだそう。「温かな湯気というのはそれだけで気持ちがほっとするし、そして冷たい握りの中に差し込むことでコースに緩急がつく」ということで“温度”にこだわって提供している。

もうひとつのスペシャリテはなんと“焼き”?

『すし良月』のスペシャリテはもうひとつある。それがコースの後半に出される“焼いた鮨”!今回頂いたのは「焼き鯖鮨」(写真下)。

片面を1分くらいさっと紀州備長炭の炭火で炙り、仕上げに「三ツ星醤油」をスプレーでふきかけ、黒七味と振り柚子で仕上げる。

ひと口目は香ばしさ、そして次に来るのは舌に心地いい温度で流れてくる脂のうまみ! 鯖鮨に温度を与えるとこのような新しい味になるのかと驚いた。

そしてお鮨をいただく前から気になっていたライトがあった。「スポットライトだろうか?」と疑問に思い質問すると、なんと「ヒートランプ」だという。

ヒートランプはフレンチレストランの厨房などではおなじみの、光を当てることで熱と温かさを調整する器具だが、こちらではネタの温度調節や温かい鮨に使う皿を温めるときなどに使っているそうだ。

名門の酒蔵の日本酒にソムリエがセレクトしたワインも

『すし良月』がおすすめするお酒は、「飛露喜」や「日高見」といった、日本酒好きならたまらない、名門の酒蔵の日本酒。

そして知人のソムリエがこちらの料理に合わせてセレクトしたという赤と白のブルゴーニュワインも揃えている。幅広い年代の人が来店するというこちらのお店にふさわしい、選ぶ幅が楽しいラインナップだ。

東京で知った地元の豊かな恵みを発信できる鮨屋でありたい

ネタの仕入れ先は豊洲以外に、生産者を自分で探して交渉したという明石直送のものや、和歌山県の魚に強い京都・錦市場から仕入れているという『すし良月』。

地元の魚への愛情、そして和歌山県の恵みが生んだ調味料の探求、いつか地元に戻って鮨を握りたいという想い。「年若く独立したが、いつまでも謙虚に敬意を忘れないよう、祖父の名前をつけた」という『すし良月』。細部まで大将の愛情や想いに満ち溢れた店だ。

初めての方も和めるような落ち着きのある空間で和歌山県の幸を味わってみてはいかがだろう?

【メニュー】
▼料理
おまかせ(つまみ8~9品 握り12~14貫) 18,000円
▼ドリンク
日本酒 一合1,000円~
他、ビール、ワイン、ソフトドリンクなどあり
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税・サ別です

撮影:岡崎慶嗣

すし良月

住所
東京都渋谷区恵比寿2-37-8 グランデュオ広尾1F
電話番号
050-3390-0121
営業時間
17:00~20:00
(L.O.19:00)
定休日:月曜日
臨時でお休み頂く場合がございます
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/gv5g86v00000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。