日本の旬を本場エスプリで仕立てる! 至福のフレンチ『ティエリーマルクス/ダイニング』【銀座】

dressing編集部

Summary
1.フレンチの巨匠、ティエリーマルクス氏の右腕シェフが作る極上の一皿を堪能!
2.ひたすら語学も料理も努力を積み重ねて、勝ち取った巨匠からの信頼
3.日本の四季の食材を取り入れつつも、フランス料理の枠をしっかり守る料理の数々

伝統と革新の融合、ティエリーマルクス氏待望の日本店

“星の請負人”とも呼ばれ、これまで手掛けた数々のレストランでミシュランの星を獲得してきた、フランス料理の巨匠の一人、ティエリーマルクス氏。古くからの伝統を尊重しつつも、革新への挑戦も忘れないシェフが作る料理は、クリエイティブでありながら繊細さを合わせ持ち、世界中のグルマンたちから高い評価を得ている。

そのマルクス氏が、2016年9月、東京・銀座のど真ん中、銀座4丁目を眺める交差点に『ティエリーマルクス』と銘打ったフレンチレストランを2店同時にオープン(現在、『ティエリーマルクス/ダイニング』と『ティエリーマルクス/サロン』を展開中)。フレンチファン待望の日本初進出とあって、大いに話題を集めた。

マルクス氏から全幅の信頼を寄せられ、両店舗のエグゼクティブシェフを任されているのが、小泉敦子シェフだ。調理師学校を卒業後、『ミクニ・マルノウチ』などで修業を積み、さらにフランスに渡り、当時マルクス氏が総料理長を務めていた『Cordeillan-Bages(コルディアン-バージュ)』で研鑽を積んだ。その実力を買われ、マルクス氏が『Sur Mesure par Thierry Marx(シュール ムジュール パール ティエリー マルクス)』の総料理長に就任する際に、セカンドシェフに抜擢された。

日本の旬の素材を生かしながら、『ティエリーマルクス』の世界観を自らの感性で表現する小泉シェフ。日本中の料理人から注目を集める小泉シェフに自らが考えるフランス料理の魅力とその世界観を伺った。

不甲斐ない想いでいっぱいだった初めてのフランス修業

―― これまで有名レストランでフランス料理を学ばれ、フランスでも修業されてきましたが、現地ではどんな学びがありましたか。

小泉:「最初にフランスを訪れたのは、当時学んでいた調理師専門学校のフランス校でした。やるなら本気で取り組もうという覚悟で臨んだのですが、周りは日本人の学生ばかりであまり語学力も伸びませんでした。現地のレストランで研修したのですが、コミュニケーションが取れず、何もできなくて、研修先の料理人たちには、あからさまに存在価値がないという意思表示をされる有様でしたね。進む道を間違えたのかと思うぐらい、落ち込みました。研修を終えて、日本に帰る日が来たのですが、不甲斐ない状態は変わらないまま。もっと勉強して、彼らと同じように働けるようになってから、フランスにもう一度行こうと思いましたね」

―― その後、『ミクニ・マルノウチ』などで修業されていましたが、そこでの学びはいかがでしたか。

小泉:「当時の『ミクニ・マルノウチ』の厨房は、本当にタフな環境にありました。料理の教えも厳しく、精神的にも鍛えられました。ハードな毎日でしたが、フランス料理のベースはそこで身に付けたと思います」

雲の上の人、ティエリーマルクス氏からの信頼を獲得

―― 日本でティエリーマルクス氏との出逢いがあり、再びフランスに渡っていらっしゃいますね。

小泉:「マルクスシェフのフェアが『ミクニ・マルノウチ』で開催され、そのためにシェフが来日されていました。当時、私はまだ駆け出しで、マルクスシェフのこともよく知らないぐらいでしたが、もう一度フランスに行きたいという気持ちがあり、シェフに『フランスのレストランで働きたい』とダメ元で伝えたんです。そうしたら、「OK」と言ってもらえたんです。すごくうれしかったですね。その後、労働ビザの取得などに時間がかかり、結局、3年ぐらい経って、ようやくフランスに行くことができました」

―― フランス・ボルドーにある、ティエリーマルクス氏が総料理長をつとめる『コルディアン-バージュ』で働き始めたわけですが、マルクス氏はどういう方でしたか。

小泉:「当時の私にとっては、雲の上の人でした。レストランでは、前菜班、魚班、肉班などがあり、毎週1回、班ごとに新しいメニューをマルクスシェフに提案するというシステムがありました。私は2年目に魚班の班長を任されることになり、仕込みをしながら、メニューを考えて、提案しました。ほとんどが採用されませんでしたが、毎回きちんと提案し続けました。そうやって班長になって半年ぐらいして、マルクスシェフにようやく名前を覚えてもらうようになりました。その頃から料理に関して、直接質問したり、意見も色々頂いたりするようになりましたね。メニューをゼロから考えるのは本当に大変で、“誰か助けて!”と思いながら、必死で考えました。今にして思うと、同じ作業ばかりやっていても上には上がれない。新しいことを考えるのは大変ですが、その大変なことをやることで前に進めるということを教わったと思います」

―― 『シュール ムジュール パール ティエリー マルクス』でセカンドシェフに抜擢されましたが、きっかけはあったのでしょうか。

小泉:「マルクスシェフともだいぶコミュニケーションを取れるようになってきましたが、自分自身を売り込むというようなことは苦手でした。いつも “ストレスなくシェフが仕事をできるようにするにはどうしたらいいだろうか”といったようなことばかり考えて、行動していましたね。そういう所がシェフにとっては重宝な存在で、新店オープンの際に名前を挙げていただいたのではないでしょうか。それまでの経験や頑張りが、信頼につながったのかなと思います」

奇をてらうことのない、きちんとしたフランス料理を作る

―― 銀座にオープンした『ティエリーマルクス』のエグゼクティブシェフに就任されましたが、日本ではどんなフランス料理を作ろうと考えられましたか。

小泉:「マルクスシェフが、日本のシェフたちの間で有名になったのは、“キュイジーヌ・モレキュール(分子料理)”だと思います。けれど、パリで店をオープンしたときは、健康志向の高まりもあって、料理もよりナチュラルなものへと戻っていました。日本でレストランをオープンするときは、どうしようかと迷いましたが、日本人のお客様は、きちんとしたフランス料理を好まれ、“おいしい”のレベルも高いものが求められます。そこをクリアせず、イメージ先行の料理を作っても受け入れられないなと思いました。

小泉:「『ティエリーマルクス』の看板を掲げていますから、フランス料理の枠から逸脱しない料理を常に意識して作っていますね。お客様が期待するフランス料理への安心感、かつそれを超える美味しさ、そしてレストランでの体験が楽しめるようなレストラン作りを心がけています。レストランにとって、“おいしい料理”は最低限必要なこと。けれども、料理だけではなく、雰囲気や非日常感、ワクワクするような気持ちなど、レストランを訪れる楽しみもお客様に味わってもらいたいです」

日本の食材を使いつつもフランス料理らしさを大切に

―― “フランス料理の枠を逸脱しない料理”というのは、具体的にはどんな料理でしょうか?

小泉:「フランス料理って何だろうと日々考えています。ひとつはフランス料理のベースはソースだと思います。ソースは丁寧に作っていきたいですね。また、今、フランス料理も懐石料理のような少量多皿のコースが多くなりました。マルクスシェフからは、日本の食材や旬をリスペクトするようにというミッションをもらっているので、料理には積極的に日本の食材を取り入れています。ただ、そうでありながらも、フランス料理の枠を外さないように日本的ではない香り(ハーブやお酒)を使用するなどフランス料理らしさを表現しています」

―― フランス料理ではコースの流れも大切になってくるかと思いますが、どのような流れを考えていらっしゃいますか。

小泉:「コース全体がきれいに流れていくことも重要ですが、その中で抑揚をつけていきたいですね。たとえば、メインの肉料理は、きちんとある程度量をつけてテンションをアップさせて、デザートでフッとくつろいでいただく。そういった理想の流れを大切にしています。そして安心感も大切。知らない食材が続くと疲れてしまいますよね。お客様のイメージするフランス料理に寄り添って、安心感を持ってもらうよう気を付けています」

チーム全員で作っていく至福のレストラン

▲エグゼクティブシェフの小泉敦子さん(写真右)と、ダイニングシェフの大塚哲郎さん(同左)

―― 2店舗を統括され、日々業務をこなしながら、料理のメニューも考案されるのは大変かと思いますが、いかがですか。

小泉:「9年間の滞在は貴重な経験でした。しかしながら私より日本のことをよく知っている、『ダイニング』料理長の大塚シェフや、『サロン』料理長・松澤(俊介)シェフといったスキルの高いスタッフがいるので、どんどん意見を聞くようにしています。サービス担当者の意見にも耳を傾け、風通しがよい職場を心がけています。もちろん私一人でコース全てを決めることもできますが、それでは、おもしろいものは生まれません。20代前半の若いスタッフからベテランまで全員がひとつのチームとして、自由に意見交換しながら、レストランを良くしていきたいですね」

―― 巨匠の看板を背負う小泉シェフのお料理は繊細でありながら、どこかクラシックな奥深さを感じる味わいが特徴的。日々前進し続ける小泉シェフの作り上げるフレンチの世界に誰もが魅了されるのも納得だ。

春香る一皿に酔いしれる

では、『ティエリーマルクス/ダイニング』を代表するような料理をさっそく紹介しよう。

▲春野菜のプレッセ

牛ほほ肉と、ナス、ゴボウ、アンディーブ、春キャベツなどをポトフのようにコンソメでやわらかく煮て、重ねて層にした、野菜が主役の前菜。野菜をゴロッと大ぶりにカットすることで、それぞれの野菜が持つ食感と、甘みや苦味といった味のバランスが楽しめる。

添えてあるのは、アーティチョークのピュレ。アーティチョークは、日本ではあまり馴染みがないが、大塚シェフの修業先だったブルターニュ地方の代表的な春野菜。日本の野菜にはないホックリした味わいに心が和む。

粒から作ったという自家製のマスタードは、酸味も辛味もマイルドで野菜の甘さを引き立てくれる。

▲リードヴォーのフリカッセ サラダ菜のブレゼ

リードヴォーとは仔牛の胸腺肉。フランスでは親しまれているが、日本では一般的にあまり知られていない食材。味わいはミルキーで、プリッとした食感で肉質はやわらかい。

肉の下にしのばせているのはモリーユ茸とサラダ菜を蒸し煮にしたもの。乾燥させたモリーユ茸はうまみが凝縮され、いつまでも口の中にうまみが続く。サラダ菜は生で食べるイメージだが、きちんと火入れをすると甘さが増す。淡泊で少しネットリした食感のリードヴォーに、さまざまなうまみが絡み、味に深みが増している。

色鮮やかなソースは、ニンジンのジュースを煮詰め、仕上げにジンを加えたもの。ニンジンの濃厚な甘さとジンの香りが料理全体のアクセントとなっている。

▲仔羊背肉のロースト ポムフォンダンとインゲンサラダ ソースジュダニョ

仔羊の背肉を骨付きのまま、じっくり1時間かけてバターでロティ(ロースト)。骨付きなので肉が縮みにくく火入れも優しくなる。

付け合わせの「ポムフォンダン」は、フランスで昔からある伝統的な料理。新ジャガイモの表面を焼き付けてから、ブイヨンを注ぎ、うまみをジャガイモに吸わせている。くり抜いて、骨付き肉と豆苗を詰めているのが、なんともユーモラスなビジュアルだ。

骨付き肉は、先ほどの背肉から切り離し、蒸して脂を落とし、さらに香ばしく焼き付けて食べやすくしている。表面に塗られたナッツを混ぜたマスタードと共にほお張れば、トロンとやわらかく、濃厚なうまみが口いっぱいに広がる。

瑞々しい緑が春を思わせるインゲンは、ビネグレットでマリネ。ポイントとなるソースは、焼いた仔羊の骨からとったジュ(だし)。ギュッと凝縮されると醤油のような塩味が引き出され、コクのあるソースが肉のうまさに深みを増してくれる。

――小泉シェフが手掛ける日本のフランス料理を心ゆくまで楽しんでみてはいかがだろうか。

ティエリーマルクス/ダイニング

住所
〒104-0061 東京都中央区銀座5-8-1 GINZA PLACE 7F
電話番号
03-6264-5045
営業時間
平日17:30~22:00(L.O.20:30)、土曜・日曜、祝日11:30~16:30(L.O.14:00)、18:00~22:00(L.O.20:30)
定休日:不定休
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/nn9mfetf0000/

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