北新地のうどんにはじまり、佐賀の特別な御膳で終わる5つの贅沢

【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第16週  日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。

Summary
1.トレンド予測した「やわうどん」
2.キスの上手なマグロのこと
3.特別な機会にしか食べられない御膳とは?

11月19日「ゆっくり食べたいきつねうどんのこと」

琥珀色のダシの中で、白いうどんがすすられるのを待っている。
お揚げは、そっと横たわり、青葱が彩りを添える。
まずつゆを一口飲む。
「はぁ〜おいし」。一人なのに、思わず呟いてしまった。
温かい甘みが、丸くなった滋味が、転がるように舌に広がって、手足を伸ばす。
うまいがうますぎない、ほどを知った味わいが、心をほぐす。

次にうどんをひとすすり。
のどごしを求める讃岐うどんもいいが、大阪のうどんは“舌ごし”である。
つるりと唇を過ぎたうどんが、舌に吸いつくようにしなだれる。
柔らかな食感で「こんにちわ」と挨拶すれば、「仲良うしよな」と舌が答える。
やわくなめらかな肌を噛もうとすれば、3〜4回で消えてしまう。
いや消えるのではない、舌と抱き合い、同化するのだ、と思うほどしなやかに生きるうどんなのである。
だからまとめてすすらない。細いうどんなら3本くらい、太いうどんなら1本にして、少ない本数をいとおしむように口に上らせる。
甘い出汁を吸ったお揚げは、箸で持てば重く、噛めばお汁が滲み出る。
でも噛み切りはするが、そのまま舌の上に乗せて、しばらく噛まない。
ゆっくり汁が染み出してくる。
「ゆっくり炊かれましたん」と言って、染み出してくる。
それを感じてから、噛んでやる。
汁に一味は入れない。辛味はいらない。それよりも一味の中にある、微かなエグミが汁の味を濁らしてしまう。
普段早食いの僕も、きつねうどんだけはゆっくりと食べる。
質素の中にある幸福を、汁に溶け込んだ人情を、心のヒダに染み込ませていくように、ゆっくりと食べる。
北新地「さかえ」の細うどん。きつねうどんは900円だが、昼は、鰯煮、ひじき、舞茸しぐれ煮といった惣菜三品にかやくご飯がついて、1,090円。

賢人・江弘毅さんの黒門さかえの記事はこちら

黒門さかえ (クロモンサカエ)

住所
〒530-0000 大阪府大阪市北区堂島1丁目4-8 広ビル 1階
電話番号
06-6344-0029
営業時間
11:30~L.O.14:00、18:00~23:30(閉店24:00)
定休日:定休日 土・日・祝(GW・盆時期・年末年始休)
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/76xesx650000/

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11月20日一軒目「実力のオムライス」

「オムライス下さい」と、いうと、
「はぁい」と、高く丸い、おばはんの可愛い声が返ってきた。
「おおきに」。その後を、ゆっくりした口調でつなげる。
「チロル」は三角巾をかぶったおばちゃんが二人で営む、喫茶店である。

楕円の皿におさまったオムライスは、包み型ではなく、かぶせ型であった。それゆえに、ライスとの接地面が半熟ではないという心配がよぎったが、食べれば半熟、オジサンは大いに喜んだのである。
さらにこのおばちゃん、炒め方がうまい。
チキンライスがパラッパラで、ケチャップ色が濃いのに味はうっすらで、ケチャップをつけてちょうど良い塩梅になる、
嬉しくなったオジサンは、ハムカツ単品も頼んだ。
現れたハムカツは、ハムでなくソーセージを使った、正当な名前詐称のハムカツで、ウースターをかけたオジサンは、いっそうニコニコ顔になるのであった。
勘定すれば、ハムカツは百円。嬉しいねえ。
今度は名物カレーかドライカレー、タマゴサンドを食べようと、自分に誓うオジサンであった。
京都にて。

喫茶チロル

住所
〒604-0000 京都府京都市中京区御池通大宮西入ル門前町539-3
電話番号
075-821-3031
営業時間
6:00~19:00
定休日:定休日 日曜、祝日(GW休、盆時期休、12月31日~翌1月3日休)
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/9yucbssk0000/
公式サイト
公式ページhttp://tyrol.favy.jp/

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11月20日二軒目「危険なマドレーヌ」

危険である。
非常に危険である。
デセールが終わってマドレーヌが出された時、「包んでいただけますか」と、言おうと思った。
しかし、皿からバターの香りがふわりと立ち上っている。
焼きたてなのだ。 各テーブルごとに、焼きたてのマドレーヌを出すのである。

「カリリッ」。
歯を立てれば、温かいマドレーヌが音を立てる。
そして歯は、ふんわりとした生地に包み込まれる。
玉子の甘い風味が、口いっぱいに広がる。
かすかにレモンの香りが鼻を抜けていく。
「もうダメ」。
僕は体の力が抜けて、女の子のように口走る。
バターをたっぷり使い、良質な玉子と粉を使った、焼きたてのマドレーヌは、とてつもなく危険である。
味わいが豊満で、母の胸に顔をうずめたような懐かしさがある。
これは菓子ではない。情愛が菓子の形をしているだけだ。
二個を瞬く間に食べ終えた僕は、「もう一度焼いていただけませんか」という言葉を、ようやく飲み込んだ。

トゥールダルジャン

住所
〒102-8578 東京都千代田区紀尾井町4-1 ホテルニューオータニ ザ・メイン ロビィ階
電話番号
03-3239-3111
営業時間
火~日 ディナー 17:30~20:30 (L.O.20:30)
定休日:定休日 月曜
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/gax9800/
公式サイト
公式ページhttp://www.newotani.co.jp/tokyo/restaurant/tour/

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11月21日一軒目「魅せられて」

キスが上手な女(ヒト)だった。
濃密に舌をからめて翻弄するが、あともう少しという余韻を残して、唇を離してしまう。
男を焦らし、もてあそび、恋に誘い込む。
軽く味噌に漬けたインドマグロは、そんな女(ヒト)だった。
インドマグロの脂は、ぼんやりとしているが、味噌に覚醒させられたのだろう。
丸く、甘い色香を膨らませて、口の中でくるくる回る。
舌にしなだれ、のったりねっとりからみあって、消えていく。
あとに残るは、酸味の影。
舌の両端から口の奥に向けて、きれいな酸味があって、ああ、今さっきまでの蜜月は、夢だったのかと思う。
こうして僕らは、キスの上手な女(ヒト)に、魅せられていく。
智映にて。

割烹 智映

住所
〒104-0061 東京都中央区銀座7-7-19 ニューセンタービルB1
電話番号
050-5788-0661
営業時間
18:00~23:00
定休日:定休日 土・ 日・ 祝
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/gc96300/premium/

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11月21日二軒目「宮日の御膳」

有田に営々と受け継がれる、「おくんち御前」をいただく、貴重な機会を得た。
その日は、朝から晩まで、踊り子さんたちが数十軒の家を回り、舞を舞って、ご馳走をいただくという。また旦那さんたちも、家々を巡って酒を飲む。

中でも欠かせないのが、栗の入った赤飯と「煮こぼし」である。
同寸に小さく切った、鶏肉、蓮根、里芋、人参、牛蒡、こんにゃく、竹輪の煮物だが、面白いのは、ここに小豆と栗が入るのだ。
砂糖も少し入る。
煮崩れた栗や小豆の甘みが、とろりと根菜類にからんだ味わいは、しみじみとおいしい。
初めて食べるのに、なぜか懐かしい。地味ながらも贅沢な、ほっこりと心を包む味である。

小路庵 (シュウジアン)

住所
〒844-0003 佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-8-11
電話番号
0955-46-2500
営業時間
毎月第2水曜に予約制のお食事会「行事食を楽しむ会」
定休日:古民家「小路庵」土・日・祝日のみ一般公開10:00~16:00
公式サイト
公式ページhttp://www.arita.jp/spot/post_48.html

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