横浜・伊勢佐木町でいただく和風パンケーキは、文明堂の隠れた名物

また子供の頃の話から始めるのですが、子供の頃の事はとてもよく思い出せるのです。三日前の事とかは結構忘れています。一番忘れているのは十年くらい前の事でしょうか。全く思い出せません。子供の頃、心の中に刻まれた一瞬は多分私が生きている間はずっと鮮明に思い出せることでしょう。良い事も悪い事も喜んだ事もがっかりした事も。だから子供の頃にどんな風に育ったのかと云うのは本当に大事なんだなと思うのです。こんな世の中だから余計にそう思います。

私はどちらかと云えば外で元気よく遊ぶよりも家の中で本を読んだり絵を描いていたりするのが好きなインドア派でした。植木鉢に花の種をまいて、そんなにすぐには芽が出ないのにずっとその土の表面を眺めていたりもしました。水槽にいた金魚の事はそれこそ穴の空くくらい見ていました。金魚でもフナでもクチボソでもとにかく魚は見ていて飽きません。これは今でも同じです。

そして目を離せなかったのが、ホットケーキを焼いているフライパン。市販のホットケーキミックスを水で溶いたのをフライパンに丸く敷いたのに、しばらくすると気泡がぷつぷつと浮かび出てきて透明なドームを形成して、割れて、そこに穴が空きます。初期段階はそこを周囲のホットケーキミックスの流体が埋めるのですが、時間が経つと周囲も固まってくるので穴が空いたままになります。そのプロセスを観察する事の楽しさたるや。そうこうしているうちにひっくり返して、良い焼き加減の茶色を見るのがまた好きで。たまにエッジが黒く焦げたりするとちょっとがっかりしたりして。

いざ食べる時にはもうある程度気持ちが満足しておりまして、弟に気前良くもっと食べろと勧めた記憶があります。それでさすがお兄ちゃんねーなんて褒められてちょっと得した気持ちになったのも覚えています。まるで昨日の事のように。ところで一昨日は何食べたっけ。えーと。すぐには思い出せませんすみません。

食べる度に私の心にそのホットケーキを思い出させるメニューが、横浜伊勢佐木町商店街の『文明堂茶館ル･カフェ』にあります。カステラがメインメニューの横浜文明堂の売店奥にある喫茶店です。その名はパステル。

どんなファンシーな食べ物かと思いきや、これが焼きたてのどら焼き（三笠山）の皮なのです。でもどら焼きの皮ですよと云われなければきっと判らないと思います。

パステルと云うメニューとしてしっかり成立しているのです。パステルは1枚から何枚でもオーダー可能。私が好きなのは2枚。一度でいいから3枚食べてみようと思いながら既に十数年。やっぱり2枚に落ち着きます。パステル1枚に付きバター、シロップ、生クリームのいずれかのソースを選べます。でも私はバターだけでいいです。極論するとバターもなくていいくらい。それだけパステルそのものがウマイ。

ホットケーキともパンケーキとも違う、唯一無二でオリジナルでユニークなパステル。和風でもあり洋風でもあり、それがとっても横浜っぽいと私は思うのです。昨今のパンケーキブームの中、私も有名店の行列に並んで色々戴いてみましたがやっぱり私はパステルが一番好き。ウマウマウーにしてスキスキスー。横浜においでの際は是非ご賞味ください。美味しかったです！ 御馳走様でした！