正統派フレンチの道を歩んだシェフが、あえて「鉄板フレンチ」にこだわるワケ

2017年12月13日
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正統派フレンチの道を歩んだシェフが、あえて「鉄板フレンチ」にこだわるワケ
Summary
1.著名なホテルや人気店で腕を磨き、満を持して鉄板フレンチの店をオープン
2.コース料理の概念を覆す、「逆転」の発想に納得
3.居心地が良すぎて酔いやすい!? ワインバーや深夜食堂としても使える店

隠れ家感満載! カウンター7席の「鉄板フレンチ」オープン

名古屋市内を斜めに走る旧飯田街道沿いに、2017年3月9日『L’atelier K(ラトリエ K)』がオープンした。シェフの宮里(ミヤサト)耕太さんは「名古屋 東急ホテル」のメインダイニング『ロワール』で修業を重ねたのち、ウェディング業態で料理長を務め、名古屋市内の人気店『Teppan Cuisine kaFka(カフカ)』と『Kiitos(キートス)』で経験を積んだ。『ロワール』は、正統派フレンチと鉄板焼きのレストランを併設。

宮里シェフはその両方で腕を振るううち、フランスの伝統的なソース文化と、ライブ感のある鉄板焼きの融合に思いを馳せ始めた。鉄板の前で料理人とゲストは常にFace to Faceで対峙する。料理の一部始終をあらわにし、直接反応が得られるこのスタイルこそ、自分が歩むべき道だと確信したという。

料理に寄り添うワインを探し求め、自然派ワインと出逢う

ソムリエの資格を持ちながらも、ワイン選びにノータッチだった宮里シェフ。将来的に店を持ち、一人で運営することを視野に入れ、もともと好きだった自然派ワインとサービスについて知識を深めようと決意。そこでレストラン運営の豊富な経験とノウハウを持ち合わせ、店を一人で切り盛りしている『キートス』のオーナーの胸を借りることにした。

オーナーは名古屋でいち早く自然派ワインを取り入れたパイオニア的存在。彼のもとで半年間みっちりワインと向き合った結果、魚に白、肉に赤という既成概念を”取り払う”ことになる。

「赤の強い樽香やタンニンを舌に残しつつ、繊細な白を飲むのはどうかと思いますが、自然派ワインのチャーミングな赤であれば、白に戻ってもなんら違和感はありません」と宮里シェフ。この自由なワインとの出逢いが、料理の提供方法を大胆に変えた。

日本人の食習慣やキャパシティに合わせ、肉料理を前倒しで提供

自然派ワインと出会い、考え直したのが肉料理の立ち位置だ。フレンチのフルコースでは、アミューズ、前菜、魚料理に続き、肉料理は終盤に提供される。宮里シェフは「日本人の食習慣や胃のサイズに合った提供方法なのか?」と疑問を抱いた。フランス人のように1日の食事がディナー中心に回り、じっくり時間をかけて楽しむならいざ知らず、日本人が肉料理にたどり着く頃には、満腹感もかなり進行する。女性ならばなおさらだ。

そこで「早い段階で提供してみたらどうだろう? 」と思い立ち、オープン当初からアミューズ、前菜の後に肉料理を提供。ある女性客からは「初めて肉料理をおいしく食べられた」と嬉しい反応があったそうだ。

クラシカルなフレンチにワンアクセント。単調でも過剰でもないのが宮里流

酸味・苦み・甘み・香りなどを適度に加えつつ、メイン素材の存在感を霞ませないのが宮里シェフの信条。これは『ロワール』での修業中に師から教わった「皿の上の調和」がベースになっているという。「単調さを感じさせず、過剰な印象も与えない料理が、人の心を掴む料理だと思うんです」と常にバランスを重視。なるほど、シェフの料理には必ず何らかのアクセントが効いている。

アミューズの「クロックムッシュ」(写真上)はオープン以来提供し続けている定番メニュー。アミューズと言えばカクテルグラスに入ったムースや、グジェール(チーズ風味のシュー皮)などが主流だ。果たしてそれらの料理が「アミューズ(心踊る・楽しませるの意)」の名にふさわしい料理なのか自問自答するうち、オープン2日前に「クロックムッシュ」が“降りてきた”という。鉄板で焼いたパンに、世界でも指折りのフランス・バイヨンヌ産の生ハム、グリュイエールチーズを挟む。

これだけならただの贅沢なクロックムッシュだが、オリジナリティを添えるのがトリュフのペースト。豊かな香りが加わることで、食欲の上昇率が格段に上がる。「シャンパーニュがいくらでも飲めますよ」とイタズラっぽく宮里シェフが言うのにも、大きくうなずかざるを得ない。

肉料理「伊賀牛シンタマ」(写真上)。主に扱うのは伊賀牛のランプやシンタマなどの赤身。伊賀牛は黒毛和牛ながらも過剰にサシを入れず、うまみを強調したブランド牛として注目を集めるが、名古屋市内でお目にかかることは少ない。肉の脇を固めるのが自然栽培の底力ある野菜たち。前菜を楽しみながら食材が料理になっていく様を眺めるのは、なんとも気分が良い。鉄板上で踊り続けた肉や野菜を純白の皿に落ち着かせ、仕上げにサッと描くのは愛知が誇る「たまり醤油」ベースのソース。愛知県外の人々は八丁味噌やたまり醤油を視覚的に「塩辛い」と判断しがちだが、豆と塩のみで作り上げた発酵調味料は、うまみの宝庫で塩気は穏やか。同じく発酵調味料のバルサミコ酢を加え、ハチミツとスパイスで仕上げる。伊賀牛のうまみにソースのうまみが重なり、口内は至福の調和に包まれる。

肉料理と魚料理の間にワンクッション入れるのが、鉄板で仕上げる「ウニのオムレツ」(写真上)。ウニを包み込んで手早く仕上げたレアなオムレツを、香味野菜やハーブで香りをつけた白ワインクリームソースでいただく。まさにクラシカルなフレンチと鉄板料理の融合を具現化した料理である。そこへ柚子胡椒や穂ジソを加えるのが宮里シェフ流の「皿の上の調和」だろう。

鉄板焼きレストランの〆のご飯と言えばガーリックライス。ところが『ラトリエ K』では特別な要望がない限り登場しない。旬の味覚をご飯とともに鉄板で軽く炒め、だしをかけてお茶漬け風にして提供する。最後は『ロワール』で培った皿の上のデザート「アシェットデセール」で女性たちの心をグッと引き寄せ、軽やかな食後感で締めくくる。

ワインバー、深夜食堂的な使い方も大歓迎。裏メニューのカレーに出逢えるかも

1回転目の時間帯はコース料理のひと皿ひと皿に、自然派ワインをバイザグラスで合わせるのが基本である。2回転目の時間帯になると、アラカルトメニューとグラスワインを楽しむことも可能だ。ワインバー、深夜食堂的な使い方もウェルカムだという。運が良ければ伊賀牛たっぷり贅沢カレーに出逢えるかもしれない。

「リラックスしすぎて酔いやすい、とおっしゃるお客様が多いんです。ホールド感のある椅子のせいかもしれませんが、なんなんでしょうね(笑)」と宮里シェフ。クールな顔立ちながらも、少し脱力感のある受け答えが、居心地の良さの一因であることを本人はまだ気づいてないようだ。


【メニュー】
コース料理 全7品 8,600円~
ペアリング(バイザグラス) 5,400円
アラカルト:
トリュフ香るクロックムッシュ 1,000円
伊賀牛シンタマ 5,500円
ウニのオムレツ 2,500円
焼き飯 1,000円
※価格はすべて税込

L’atelier K(ラトリエ ケー)

住所
〒461-0005 愛知県名古屋市東区東桜2-12-22水谷ビル2F
電話番号
052-936-8555
営業時間
18:00〜24:00   ※夜10時以降入店可
定休日
日曜・月1回不定休
公式サイト
http://latelier.jp

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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