テイクアウト、お取り寄せ、そしてオンライン。【レストランとつながりを持ち続けるということ】

みんな大好き「お酒」だけれど、もっと大人の飲み方をしたいあなた。文化や知識や選び方を知れば、お酒は一層おいしくなります。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエによる「お酒の向こう側の物語」
#テイクアウト、お取り寄せ、オンライン

2020年05月07日
カテゴリ
コラム
  • 食文化
  • テイクアウト
テイクアウト、お取り寄せ、そしてオンライン。【レストランとつながりを持ち続けるということ】
Summary
1.「お取り寄せ」と「オンライン」。今までとこれからの結びつきについて【岩瀬大二】
2.心にしみじみ重みのある贈り物。それが今の「お取り寄せ」
3.「オンライン」を通じてレストランとつながりを!

「お取り寄せ」は心にしみじみ残る贈り物

小さい荷物が届いた。箱を開ける口元がにやけているのがわかる。届いたのは当コラム「行きつけのバーをみつけること」で紹介した金沢の『広阪ハイボール』、その名物おつまみであるスモークナッツだ。

こちらのバーのハイボールとの相性は抜群。1杯では終われない。「幸せな悪魔の実」なんて軽口が浮かぶ。お店に行けば土産として買っていくのがお決まりになっていたが、おこもり生活がはじまろうとしていたタイミングで、なぜか頭に浮かんだ。お取り寄せができると聞いて、すぐにお願いをした。家でハイボールはほとんど飲まないのだけれど、どうしてもこれが欲しくなったのだ。

旅心を失くしたくない、そんな思いだったのかどうかはわからないけれど、その時の気持ちに不思議に寄り添ったものだった。スモークナッツと共に箱に入っていたのはマスター直筆の「あんやとー」というサイン。金沢の言葉で「ありがとう」。その夜は、バーボン。ジンビームのロック。ハイボールを…とも思ったが、その組み合わせはお預けにしておこう。また、金沢で、あの階段をあがってカウンターにつく日まで。小さくても思いが詰まった、心にしみじみ重みのある贈り物だった。

全国の名飲食店、思い出の酒場からのお取り寄せ。お取り寄せ自体は新しいものではないけれど、今、この環境の中だと、それまでとは違うありがたみや、つながりを感じることができる。同じ北陸・富山。「富山の地酒と郷土料理に酔いしれる、名前のないストリートで見つけた【酒旅ライター厳選の名店3選】」では少しエリアが違うため紹介できなかったが、好きな店がある。県外ではなかなか入手できない富山の希少な地酒を角打ちで楽しめる『石坂善商店』。

もともと酒屋としての全国発送は行っていたが、この環境下で、希少な富山の地酒の3本、2本パッケージを用意してくれた。注文のメールのやり取りで、こちらを気遣ってくれる文面を見て、これもふだんのお取り寄せとは違う、これもしみじみとした喜びがあった。

さて、金沢のマスターが最近、「YOU TUBE」でカウンターからのライブ配信を始めた。ハイボールの作り方やスコットランド・アイラ島のウイスキーについて語る姿が新鮮だった。地元のテレビ番組に出演し、演劇活動もしている方だから度胸もカメラ慣れもしているはずだし、いつものカウンターからだから落ち着いたものかと思いきや、照れくさそうな感じも相まって、なんだかほほえましい。それを見ながら、今度はビールとスモークナッツで距離が縮まった、ような気がした。

前回のコラムで書いたように、テイクアウトやデリバリーでつながりを続けられる店もあれば、距離や業態でそれがかなわない店もある。どのようにしたら自分はつながり続けることができるだろう。そのひとつが、こうしたオンラインを通じてのものだ。

「オンライン」でレストランとつながりを!

東京・新橋は私の家からはすぐ近く。それでもバーという業態で休業を受け入れなければいけないために通えない。「【バーの楽しみ方・たしなみ方】新橋のディープな「BAR」が教えてくれること」で紹介した新橋の洋楽バー『STAY UP LATE』。このときのコラムの締めに書いたのは「好きなものがある場所を一緒に守っていく。カウンターで隔てられていても我々は仲間なのだ。」という一文だ。

このバーで私は2005年からイベントを頻繁に開催してきた。いろいろなテーマ、チャートにちなんだものや80年代のカフェバーを再現したような選曲などでその夜だけの空間をつくるお手伝いをしてきた。今、ライターの他にMC/DJユニットとして様々なイベントに出演し、イベントの舞台演出なども手掛けているが、このユニットの結成のきっかけはこのバーでの出逢いだった。今は、来店ができない状態。この期間、予定していたイベントも中止となった。

マスターのワンオペ、平たくいえば一人で切り盛りする店。東京都が独自に行う休業補償はぎりぎりの命綱だ。開けた後にまた洋楽と酒が好きな人たちが集う場所として、店がそこにある。そのために何ができるのか。当初、マスターは怒りと悲しみに感情を支配されていたようだった。そのふり幅の中で少しずつ「なにかをしなければ」という、わずかな希望なのか、習性なのかはわからない感情が見えてきた。そのマスターの気持ちは我々に伝わってきた。一緒にできること。それが、オンラインを通じてのバーチャルイベントだった。

といっても大げさなものではない。私たちユニットとマスターがオンライン飲みよりも気持ちだけ、イベントを意識した構成やプロとしてのしゃべりを入れ込んだだけのもの。洋楽が流れる店だが「YOU TUBE」での著作権に配慮しそのまま曲は流さない。そのぶん頭を使ってオーディエンスとなるみなさんの脳内にその曲たちとつながれるような工夫もしてみた。そういうアイデア出しも含めて「一緒にできること」を楽しんだ。初回のトークテーマは「救われた曲、元気がもらえた曲」。みなさんのチャットに寄せられた曲、演者の私たちの選んだ曲。演者も酒が進み、どうやら記憶も飛びがちで最後、私は泣きながら私が救われた曲の歌詞を朗々と語っていたようだ。

投げ銭的なかたちで参加していただいたが、店で見る常連さん、イベントによく来られる方、はじめてあいさつをするような方、それがチャット画面の中で、店にいるかのように会話に華が咲いていく。2時間、私が店とのつながりを持ち続けられることを確認できただけではなく、この日の配信を見て、参加してくださったみなさんとマスターがつながり続けているという喜びがあった。配信が終わった後の酒、うまくないわけがない。

テイクアウト、デリバリー、お取り寄せ、そしてオンライン。この環境下だからこその、好きな飲食店とのつながりを続ける方法や、新しい魅力に触れる方法はいろいろある。新しいテクノロジーを提供してくれる人々、配送・配達という仕事で私たちのインフラと心を支えてくれる人々に感謝をしながら、いまだかつて経験のない長期間のおこもりの中で飲食店とのつながりを持ち続けていきたい。