NIGO、安西水丸、村上春樹にも縁の深いあるカレー店の物語

【連載】幸食のすゝめ #008  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2016年01月04日
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NIGO、安西水丸、村上春樹にも縁の深いあるカレー店の物語
Summary
1.原宿の伝説のカレー店
2.近年話題の「ヤドカリカレー」
3.近く原宿に店舗をオープン予定

幸食のすゝめ#008 丁子の迷宮には幸いが住む、神宮前。

下戸で口下手だった死んだ親父と、僕は驚くほど似ていない。でも、たったひとつだけ、生き写しの特徴がある。辛いものが大好きなくせに、食べると顔中に汗をかく、頭もぐっしょりと濡れ鼠状態だ。そして、めくるめくスパイスの迷宮の中で、親父ともう一人、必ず思い出す人がいる。今や新潟から京都まで、全国に味のフォロアーを持つ旧い友人、アカちゃんこと赤出川治氏。スタッフから、NIGOや歌手の故川村カオリ、俳優の松田ケイジを輩出した伝説のカレー屋、「GHEE(ギー)」のオリジネイターだ。

伝説的、ある夜の出会い

アカチャンと最初に会ったのが、まだ古い一軒家だった「とんちゃん」なのか、千駄ヶ谷小学校の「ライズバー」なのか、「ピテカントロプス」なのか、今ははっきりと思い出せない。でも、みんなでDJの真似事をした夜、アカちゃんが最初にかけた曲は覚えている。「ラブ・ハズ・ノー・プライド」、作者本人リビー・テイタスのオリジナル。即座に自分と同じ匂いを感じて、その感性に強く惹かれた。だから、アパレルから飲食へ転身したアカちゃんのカレーをすぐに食べに行き、唐辛子と丁子の迷宮の中で、瞬く間に恋に落ちた。

細長い皿の真ん中にご飯を盛り、両端に2種のカレーを載せた、ビーフとバターチキンのコンビネーション。それはインド風でも、欧風でも、まして日本風でもない、初めて出逢う味だった。「インド式だよ」、アカちゃんは言った。開店当時、厨房にいたインド人シェフとオーナー夫人が考案したレシピは、赤出川シェフの手と舌で日々改良され、どこにもないGHEEオリジナルのカレーへと変容する。そして、いつのまにか全国からファンが押し寄せる原宿探訪の聖地になった。ロス疑惑、フルハムロード事件と並ぶ原宿の伝説、GHEE神話の開幕である。

村上春樹の一編の中にも

「四月のある晴れた朝、原宿の裏通りで僕は100%の女の子とすれ違う」。
まだ、裏原宿なんてなかった頃だ、村上春樹の短編に書かれたイメージは、きっとGHEEの辺りだったに違いない。実際、春樹氏や一緒に村上朝日堂を描いていた故安西水丸さんも熱心なGHEEのファンだった。薄くラメが敷かれた漆喰の壁、木の部分はミントグリーンで縁取りはゴールド。シノワズリの磨りガラスに、華奢なシャンデリア、スージークーパーの食器。細部に至るまで計算されているのにリラックスできる空間。そして、どこにもない極上のカレー。

しかし、GHEEは2005年3月に惜しまれつつ閉店。その後アカちゃんは、原宿から市ヶ谷、東銀座と店名を変えながら移転を繰り返し、再び原宿に帰って来た。東銀座から後は、バー営業の店をランチ時間だけ間借りするシステム。東京や大阪などの都市で話題を集めている、いわゆる「ヤドカリカレー」方式だ。だから、カレー界のレジェンドの味に出会えるのは、正午からご飯が無くなってしまうまでの短い時間。ご飯の甘さとカレーのコクの比類なき着地バランスこそが、GHEEカレーの真髄だからだ。

痺れるような辛さの中に、複雑な香辛料が織り成す唯一無比のビーフ。優しく味わい深い、バターチキン。整然とした辛さの中に旨みとコクが覗くキーマ。ゴロゴロした根菜が、爽やかに口中を駆け抜ける野菜。野菜と肉を合わせたり、肉と肉をコンビにして混ぜ合わせると、味覚のエッジが溶け合い鮮烈な味覚のドラマが生まれる。

全国のGHEEファンたちに、今年は素晴らしいギフトが届く。
現在、アカちゃんは原宿界隈で新しい物件を探索中。開店したら、夜もGHEEのカレーに出逢える。茄子や法蓮草のカレーも復活、ミルクカレーも新しくメニューに加わる。復活するスパイスの桃源郷を指折り数えて待ちたい。丁子の迷宮には、幸いが住んでいる。

<メニュー>
バターチキン/キーマ/ビーフ/野菜ともS(普通量)800円、肉&肉のコンビは1000円(S)、肉&野菜のコンビは900円(S)、アイスコーヒー200円
※バー「ブラウンホース」の間借りスタイルでランチのみ営業
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。

※森一起さんのスペシャルな記事『幸食秘宝館・武蔵小山、グルメランキング上位には載らないホントウの名店3軒を巡る』はこちら

GHEE (ギー)

住所
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-17-6神宮前ビルB1F
営業時間
12:00~15:00(売り切れ次第閉店)
定休日
定休日 日・祝日

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン