「お店で料理をいただくとは、料理人とお客様との対話である」。昔から使いふるされた言葉かもしれないが、それを真摯に体現しているのが、京都・下京区にある『日本料理 観山』だ。もてなしも料理も、明るいタモ材のカウンターの向こうに立つ料理人、八木一真さんが基本すべて一人でふるまう。カウンターはゆったりと広く、しっとりくつろげる雰囲気の店は、見た目以上に肩肘張らずに馳走を楽しめる空間だ。
対話しながら「最高のおもてなし」を供する
『観山』が開店したのは昨年11月。八木さんは元々、京都を代表する京料理店『京都吉兆 嵐山本店』で料理人としてのキャリアをスタートし、「ホテルグランヴィア京都」の『吉兆』で副料理長を務めるまでになった。さらに文政元年創業の「柊家旅館」で料理長を務めるなど、まさに京の老舗で腕を磨いた“エリート”とも言える存在だ。しかし、いずれの店も規模が大きかったゆえに、料理人は常に裏方の存在。「お客様の顔を見て、間近で接しながら料理がしたい」という想いが膨らんだ八木さんは独立を決意し、カウンター10席のみのカウンター割烹を構えた。
そんな八木さんの料理には、「当たり前」を追求する姿勢が随所に感じられる。例えば食材については、野菜は修学院で250年続く農家から届く新鮮な地の野菜を使用。魚介や肉は毎日市場で、自身の目と舌で納得のいくものを選んでいる。
「まずは鮮度に徹底的にこだわります。そして選んだ食材はその持ち味を最大限に生かし、調理や味付けは最低限に抑えて提供することを心がけています」と八木さんは語る。
吟味した食材を彩り豊かに盛り付けるワザ
そんな想いがよく分かるのがこちらの付き出し「修学院の赤水菜と小かぶら 金時人参と」(写真上)。赤水菜はサッとおひたしにして土佐酢をかけ、小かぶらは焼いてだしをかけたシンプルな料理で、赤水菜のシャキシャキとした食感や、小かぶらのフルーツのような甘さが際立って感じられる。
さらに、同じくその滋味を邪魔せず引き立てるならと選んでいただいたのが、すっきりとした飲み口で食前酒にも用いられる新潟の酒「月白 純米大吟醸 生詰めひやおろし」だ。八木さんお手製のカゴに並んだ様々なお猪口から、1つを好みで選ぶといううれしい趣向付き。「試飲して試飲して、全国の蔵元から自身がおいしいと思うものを選んでいる」という日本酒は随時8~9種ラインアップ。ワインも赤・白各4種に加えてシャンパンも揃っているので、料理ごとに合うものを提案してもらうのも楽しい。
向付は、立杭焼の大皿に2人前を華やかに盛り付けたもの(写真上)。「食べておいしいのは当たり前。目でも楽しめるのが日本料理の醍醐味です」と八木さん。この日は、もっちりと柔らかな湯葉の刺身に乗った北海道のウニ、長崎のホタテ、本マグロの大トロ、熊本の天然の平目、和歌山のモンゴイカがズラリ。大トロはまろやかに溶け、ホタテはほの甘く、ウニは濃厚……と、いずれも味わえば、「量より質でとにかくいいものを揃えている」という八木さんの言葉に深く賛同するはずだ。
次に、こちらもお手製のカゴにどこか愛らしく盛り付けられ登場したのは八寸(写真上)。向付と同じく2人前を華やかに盛るスタイルだ。この日は、大根の自家製からすみ挟み、車海老の雲丹焼き、菊菜と蟹のおひたし、堀川ゴボウの胡麻和え、頭芋の田楽、平目の寿司など豪華なラインアップ。いずれも修学院の野菜や魚介の滋味が際立つやさしい味付けで、厳しい冬の寒さの中で育った畑や海の恵みに感謝したい気持ちになる。
炊き合わせは、修学院の野菜の白味噌煮(写真上)。ほうれん草と金時人参、丸大根、鶏団子の風味を白味噌で上品にまとめ、そこに爽やかな柚子が香る一品だ。実は、この炊き合わせが入っている茶碗は、江戸後期の作家「道八」のもの。先付けの器も京焼の家元「永楽善五郎」の器と、名のある作家の作品が惜しみなく使われている。
というのも、八木さんの実家は京都・東山の古美術商で、器においても相当な目利き。幕末から明治、大正時代を中心に、古美術ファン必涎の器を揃えているそうなので、料理と共にその趣きを愉しむのもまた一興。器のいわれや修学院の野菜への想いを聞けば、味わう料理のおいしさに拍車がかかるに違いない。
(文/笹間聖子、撮影/前田博史)
【メニュー】
コース(全8品)12,000円
コース(全9品)15,000円
※価格は税抜、サ込み
※品数、内容は仕入れによって異なる。
日本料理 観山
- 電話番号
- 075-353-7357
- 営業時間
- 18:00~22:00(L.O.20:30) ※要予約
- 定休日
- 月・第1日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。