中国料理のセオリーを打ち破る! 驚きと安定感が共存する「美しい」四川料理

2018年02月23日
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中国料理のセオリーを打ち破る! 驚きと安定感が共存する「美しい」四川料理
Summary
1.四川料理界の重鎮に師事したのち、オリジナルな世界観を創造
2.中国料理「あるある」を払拭! 和食の八寸のような前菜にうなり声連発
3.父へのオマージュを込めた「担々麺」はリクエストしておきたい逸品

日本の四川料理界を代表する名店でキャリアを積み、念願の独立へ

古き良き名古屋の趣を残す明道町に店を構える『明道町中国菜 一星(いいしん)』。この名には名古屋の中国料理界で頂点に立ちたい、もし『ミシュランガイド』の名古屋版が発行されるならば真っ先に…! との思いが込められている。

オーナーシェフの篠田昌利さんは、導かれるようにしてこの世界へ足を踏み入れた。それもそのはず、父は日本に四川料理を広げた陳建民氏に師事し、兄も陳建民氏の息子で四川料理界の重鎮である陳建一氏に弟子入り。篠田さんも追いかけるようにして当時六本木にあった『四川飯店』の門を叩いた。厳しい修業時代を経てメキメキと腕を上げ、一旦は『四川飯店』を離れるも、2003年地元名古屋にサテライト店『スーツァンレストラン陳』のオープンが決まると、お声がかかって再び入社。副料理長として腕を振るい、2012年には池下の「ナゴヤ セントラルガーデン」内にある『四川飯店 名古屋』の初代料理長に就任。

こうして着実にキャリアを積み重ねるうち、「いつかは独立して自分の店を持ちたい」という思いを胸に宿すようになる。2015年に惜しまれながら『四川飯店』を退社し、湧き上がる思いを具現化するために物件探しをスタート。すると運命的な出会いが彼を待ち受けていた。

それこそが『明道町中国菜 一星』の現店舗である。江戸時代に物流の要であった運河、堀川を目の前にし、戦火に見舞われることなく、130年以上もこの町を見守り続けてきた門と蔵を持つ民家に一目惚れ。2016年11月に晴れて自店をオープンさせた。

民家をリノベーションするにあたり、真っ先に手をつけたのがオープンキッチンとカウンター。中国料理は閉ざされた厨房で職人たちが黙々と鍋を振るイメージが強い。しかし篠田シェフはこの家に足を踏み入れた途端、カウンター越しにお客とやりとりする自分の姿が思い浮かんだという。

そして大皿料理ではなく、前菜から一皿ずつ銘々に提供するスタイルを確立。「この家に出会っていなかったら、テーブル席メインの大皿料理になっていたかもしれませんね」と篠田シェフ。偶然と必然は表裏一体だ。

ありがちな流れを崩したい! その思いが随所に現れたおまかせコース

『明道町中国菜 一星』のメニューはおまかせコースのみ。毎日仕入れる旬の素材を篠田シェフの感性で中国料理に仕立て、少量多皿で提供する。

中でも前菜は篠田節が炸裂。和食でいう八寸のような前菜(写真上)で序盤からお客の心をグッと掴む。中国料理の前菜といえば、クラゲ、叉焼、蒸し鶏、ピータンあたりが定番だ。篠田シェフはそうした通り一辺倒な内容を崩したいと、前菜を大きなプレートに10〜12品も並べる。冷凍ものは使わず、吟味した素材一つひとつに丁寧な仕事を施す。

アヒルの塩漬け卵の揚げパイは、オープン時から提供し続けている定番。幾重にも重なる層へ歯を入れたときのサックサク感は、他の食べ物に例えようがない。パイの中から塩漬け卵とピーナッツが現れ、複雑な余韻を残していく。その他、60℃で低温調理したフワフワの三河赤鶏や、65℃で火入れしたナマコ、甘エビの紹興酒漬けなど、素材に合わせたベストな方法で調える。この一皿でワインが1本空いてしまいそうだ。

口取りで出される「ウニのエッグタルト」(写真上)は中国料理の基礎をしっかり学んだ篠田シェフらしいフュージョンチャイニーズ。マカオや香港で愛されるエッグタルトにヒントを得て、フィリングにウニ、トッピングにもウニと、ウニの贅沢使いに心が躍る。これにはぜひともシャンパーニュを合わせたい。

「中国式のクリームコロッケ」(写真上)は常連客に熱望される一品。中国式? と頭をかしげる洋物の見た目だが、しっかりと中国料理の技術が活かされている。バターと小麦粉を使ったベシャメルでなく、デンプンで粘度を出したクリームにズワイガニを混ぜ込み、衣はパン粉でなくフリッター生地。これにハイブランドのイチゴ「あまおう」とキンモクセイで作ったソースを合わせる。

そして仕上げはとどめのトリュフ削り。幾つもの要素が重なって喧嘩すると思いきや、しっかりと手を携えて食べ手に「おいしい」と言わしめる。これだけ複雑な組み合わせゆえ、相当数の試作を繰り返したのかとたずねれば、「試作すると迷いが生じるので、ほとんどしません。頭の中で組み立てます」と驚き発言。センスと想像力に脱帽するばかりだ。

この日のメインは「寒ブリの麻辣(マーラー)」(写真上)。鍋を振る姿を写真に収めようとカメラを構えたところ「一瞬で終わりますから」とシャッターチャンスを脅かすひと言。

粉を振ったブリを鍋肌で踊らせてソースを絡め、宣言通りアッという間にできあがった。見た目はどう見てもブリの照り焼きだが、篠田シェフはブリの照り焼きが大の苦手らしい。その理由はパサパサで、ブリの良さを逐一消しているから。

ではこの料理はどうかとナイフを入れたところ、中はピンクのレア状態。刺身でも食べられるブリならこういう調理法もアリだと、目からウロコがポロポロ落ちた。ヒリヒリの「麻」とピリピリの「辣」が効いて、味わいは紛れもなく中国料理。焼成された部分にうまみが封じ込められ、ブリのポテンシャルを存分に引き出している。

シェフの原点であり、プライド。DNAに刻み込まれた父の担々麺

基本的にコースはおまかせだが、〆にリクエストしたいのが「担々麺」(写真上)。これは篠田シェフの父上が愛知県小牧市で営む『自家製麺 いづみ』で提供している担々麺そのものだ。理由は「色々食べてきた中で、父が作る担々麺が一番おいしいと思ったから」とキッパリ。

麺は『自家製麺 いづみ』より譲り受け、スープも具も同店のレシピを踏襲。3種の小麦粉をブレンドしたストレート麺は、弾力があって唇をすり抜けていくツルツル感がいい。スープはゴマが主張し過ぎず、甘ったるさのないシャープな味わい。強めに効かせた「麻」と「辣」が鼻の頭に汗を滲ませ、その汗が引く時におとずれる爽快感がたまらない。そうこうしているうちに気付けば丼は空っぽだ。空っぽの丼を覗き込む篠田シェフは、ニンマリ顔。父へのリスペクトと自分のルーツに対する誇りがこの表情を引き出すのだろう。

特に夢や大志を抱くことなくこの道に入ったと淡々と語るが、知らず知らずのうちに父の背中を目で追い、尊敬の念と憧れに突き動かされたことを、担々麺が物語っている。そして父より受け継いだDNAが『明道町中国菜 一星』の誕生へと導いたに違いない。


【メニュー】
おまかせコース
ランチ 5,400円〜(5〜7名の貸切のみ営業・完全予約制)
ディナー 10,800円(完全予約制)
※価格は税込

明道町中国菜 一星(メイドウチョウチュウゴクサイ イイシン)

住所
〒451-0041 愛知県名古屋市西区幅下2-3-7
電話番号
052-756-3939
営業時間
ランチ12:00〜15:00(最終入店13:00)、ディナー18:00〜22:00(最終入店20:00)
定休日
水曜・他不定休
公式サイト
http://iishin.wixsite.com/chinese

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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露久保瑞恵
ライター&編集 料理・酒・旅探求人