早くも本年度フレンチ界最大のニュースに、伝説のあのレストランが街に帰ってきた【奥沢】

【連載】幸食のすゝめ #059 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年04月20日
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早くも本年度フレンチ界最大のニュースに、伝説のあのレストランが街に帰ってきた【奥沢】
Summary
1.真摯で力強いシェフの料理は、パリの街角で出逢う正当なフレンチの味わい
2.一時代を築き、惜しまれつつも閉店した、忘れられない味に再会する喜び
3.待ち焦がれた復活、新たな地でまた新しい伝説が生まれる

幸食のすゝめ#059、いつもの仕草には幸いが住む、奥沢

「メリメロサラダって、どんな意味ですか?」 「ごちゃ混ぜサラダです」。
同じアパートに素敵なフレンチがある、ただそれだけの理由で引越を決めたことがある。
もちろん、そこは単なるアパートというより、パリのマレ地区辺りのアパルトマンぽくて、東京で言えば、昔の同潤会や茗荷谷の川口アパートみたいだった。

1階のレストランも、フランス語の「いつも通り」という店名のように、真っ当であることの慈しみと厳しさに溢れていた。
そこは、シェフの心優しさが広がり、料理に対する真摯な息遣いが聞こえてくるレストラン。

肉や魚と同等に野菜を扱う気持ちは、たくさんの根菜やジュレ、ベビーリーフが重なる「メリメロサラダ」や、シェフならではのスペシャリテ、「ゴボウのスープ」にも表れていた。

食べる野菜としての前菜のスープは、ゴボウ以外にはマデラ酒とポートだけを加え、主役のうまみを活かし切っている。添えられる白身魚のフリットさえゴボウの引き立て役、上には薄くささがきした大量のゴボウのチップが載せられる。
九州人には堪らない、言わば「ごぼ天」だ。

トリッパやピエドコション(豚足)の扱いもパリの街角、シャトレ劇場の近くで食べて以来の味わいだった。豚の脂身と血でつくる黒色のソーセージ「ブーダン・ノワール」やフォワグラ料理のおいしさに夢中になったのも、このレストランが初めてだった。

朝、小麦粉から捏ね始める自家製パンのバラエティ。シェフがアルコールで磨いたウォッシュタイプのチーズも、ワインの杯を進ませる。

2種類選べるデザートや、前菜と主菜の数で自由に組めるランチとディナーも、本場の街角でふと飛び込んだ正当なフレンチの趣があった。

東京紀尾井町の『成川亭』で料理人としてのスタートを切った釜谷孝義シェフは、その後渡欧、フランスやベルギーでの修行を経て帰国。名門『南部亭』の料理長などを経て、中目黒に自分のレストランをオープン。
当時、まだ珍しかった開放的で活気溢れるオープンキッチンと、ガストロノミー料理をビストロ価格で提供する姿勢で瞬く間に時代の寵児となっていく。

その後、三宿に移転するが、建物の立退きにあい2011年の晩秋、惜しまれつつ閉店。同じく立ち退きの同胞だった僕は、あの秋の午後を今でもはっきりと覚えている。

ここしかない、自分の居場所へ

「自分が思い描く料理を作りたかったんです、それにはやっぱりこの場所しかなかった」。

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北舘和子
ライター