太平洋クロマグロが食べられなくなる!? マグロの実態を考える「まぐろミーティング」

2018年11月20日
カテゴリ
コラム
  • 食文化
  • 食知識
太平洋クロマグロが食べられなくなる!? マグロの実態を考える「まぐろミーティング」
Summary
1.マグロの王様、太平洋クロマグロが減り続けている!
2.マグロ最前線で活躍する食のプロが語るマグロを巡る諸問題
3.『すきやばし次郎』小野禎一氏、『カンテサンス』岸田周三氏が登壇!マグロの未来を考える

食のプロたちとマグロについて考える「まぐろミーティング」

日本人が大好きな魚のひとつが「マグロ」である。中でも“王様”と称されるのがクロマグロだ。実は、クロマグロのうち太平洋を回遊する種、太平洋クロマグロ(近海本マグロ)が激減している。ニュースなどでご存知の方も少なくないだろうが、食の最前線にいる漁業関係者や流通業者、料理人たちは、この太平洋クロマグロの減少について切実な問題としてとらえている。

*写真はイメージ

そこで、現在のクロマグロを巡る状況や問題について考えるシンポジウム「まぐろミーティング」が東京・築地で開催された。

同会合には、漁業関係者や仲卸、そして世界にその名が知られる老舗すし店『すきやばし次郎』の小野禎一(よしかず)氏と、日本を代表するフレンチレストラン『カンテサンス』の岸田周三氏といったそうそうたるメンバーが登壇。太平洋クロマグロの現状を理解し、次世代に受け継いでいくにはどうすればいいのかを熱く語り合った。

会場には、有名レストランのシェフや食に関するメディア関係者など食のプロフェッショナルたちが多数詰めかけ、立ち見も出るほどの盛況ぶりで、この問題に対する関心の高さをうかがわせた。

なぜクロマグロが減ってしまったのか? 日本のマグロ事情について

最初に口火を切ったのは、シンポジウムの司会を務め、本サイトでも活躍中のマッキー牧元氏。自身もメンバーである『日本の魚を考える会』が、海の未来を考える料理人のグループ『一般社団法人シェフス・フォー・ザ・ブルー』の協力を得て今回のシンポジウムの開催に至ったという。

最初のプログラムでは、水産資源管理を専門に研究している東京海洋大学・准教授の勝川俊雄氏が登壇し、フードライターであり、『シェフス・フォー・ザ・ブルー』理事を務める佐々木ひろこ氏とともに日本のマグロ事情について語った。

冒頭、昭和初期、溢れんばかりのマグロを地引網で獲る漁の映像が映された。「昔はありふれた魚だったクロマグロは、2014年時点で初期資源量*の約2.6%、歴史的最低水準と言われるまでに減ってきている」と勝川氏はコメントする(*初期資源量:漁業が無い場合に資源が理論上どこまで増えるかを推定した数字)。

*写真はイメージ

激減の原因として、勝川氏が挙げたのは、産卵場での巻き網漁と、成魚になる前のマグロを乱獲することの2点。巻き網漁とは、魚群を見つけると一気に網で巻き、船に積み上げる漁法で、産卵直前の親魚を大量に捕獲することが減少につながっているという。

また、生後7年も経つと100kgぐらいまでに成長するマグロを生後1年ぐらいで獲ることは、マグロのポテンシャルが発揮できない獲り方になっていると勝川氏は指摘する。

現在、クロマグロは総漁獲量の規制と漁業者への枠配分が行われているが、その内容をみてみると、巻き網漁への配分が多いのだとか。このままでは、将来、延縄(はえなわ)や一本釣りといった丁寧に魚を釣る漁師の廃業が進み、質の高いマグロが供給されなくなる可能性があると勝川氏は締めくくった。

みんなで考えたい、日本のマグロを取り巻く事情

続いて、マグロ仲卸をしている藤田浩毅氏(写真上・左)、大間のマグロ卸商の新田忠明氏(同・中央)、大間のマグロ漁師である南芳和氏(同・右)が登壇。マグロ問題に詳しいノンフィクションライター、中原一歩氏のモデレートにより、漁最前線から見た太平洋クロマグロを取り巻く現状について語った。

最高級品として知られる大間のクロマグロが一番おいしくなる時期は、晩秋から冬にかけての頃。しかし、現在は資源が減り市場に出荷される量が限られるため、東京の高級な寿司店でさえ、旬の時期だからといって大間産が食べられる状況にはないという。

*写真はイメージ

将来のために規制が必要であることは、漁師たち全員が認識しているが、漁獲量の枠配分問題などで不安を抱いている漁師も多いそうだ。「いろいろ問題がありますが、いい魚を大間の漁師たちと一緒に頑張って届けていきたい」と力強く語る新田さんの言葉が印象的だ。

3番目のパネリストとして登場したのは、創業明治15年、現在、遠洋マグロ漁業を手掛ける株式会社臼福本店社長、臼井壯太朗氏。

クロマグロには、日本からアメリカにかけて回遊する太平洋クロマグロと、メキシコ湾から大西洋、地中海にかけて回遊する大西洋クロマグロの2種類がある。どちらも乱獲により漁獲量が激減し、2011年に大西洋クロマグロが、2014年には太平洋クロマグロが、それぞれ絶滅危惧種として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載された。

しかし、大西洋クロマグロは、厳しい漁獲規制が功を奏し、回復しつつあるという。臼井氏からは、実際に行われている規制の様子を交えつつ、現状について語っていただいた。

日本の将来にマグロを残したい!日本を代表する料理人が語る熱い想い

最後に『すきやばし次郎』の小野禎一(よしかず)氏と『カンテサンス』の岸田周三氏という日本を代表する料理人二人が登壇した。

「40年以上前、良質なマグロが手に入らない時期が来るなんて考えたこともありませんでした。昭和30年代、毎月築地に行って、好きなマグロの好きな部位を好きなだけ買えたんです。それが、15年ぐらい前からいいものが段々手に入らなくなり、ここ5年ぐらいで急激に少なくなってしまった。今では、欲しいときに欲しいマグロが手に入りません」と語る小野氏。

岸田氏は、マグロはフランス料理でよく使う魚ではありませんがと前置きをし、「マグロが厳しい状況にあることは2年ぐらい前に知りました。ですが、12年前に店をオープンした時に比べて、質の良い魚を手に入れるのに苦労するようになったという感触があったので、話を聞いて、やっぱりそうなんだと納得しました」。

*写真はイメージ

小野氏は、将来、いいマグロの味わいを言葉でしか伝えられない時代がくるのではないかと憂い、岸田氏もマグロを含めて水産資源を守る活動に携わっていきたいと強い想いを見せた。料理の現場にいる人々が感じている危機感が、両氏の言葉からひしひしと感じられた。

*写真はイメージ

寿司店に行けば、ケースの中にはマグロの大きな柵が必ずあり、クロマグロが危機的な状況にあることを実感することはなかなか難しい。

ミーティングを通じて、将来もおいしいマグロが食べられるようにするには、何ができるのだろうかという食の最前線にいる多くの人たちの熱い想いが伝わってきた。

最後に、今回のミーティングに協力した『シェフス・フォー・ザ・ブルー』のイベントを紹介しよう。『シェフス・フォー・ザ・ブルー』は、日本の水産資源の現状に危機感を抱いているトップシェフ約30人とジャーナリストが集まって活動しているグループだ。

イベントでは、今回参加する8店舗それぞれが腕を振るい、サステナブル(持続可能)な漁業を目指している臼福本店の大西洋クロマグロを使ったコースを披露。マグロ好きなら見逃せないイベントとなるはずだ。

【イベント概要】
実施期間:2018年11月22日(木)~12月12日(水)
実施内容:8店舗、コースの一皿として大西洋クロマグロを使った料理を提供(詳細は各店舗に問い合わせ)
▼参加レストラン
『レストラン シンシア』『クラフタル』『茶禅華』『メログラーノ』『ドンブラボー』『ル・スプートニク』『コンヴィーヴィオ』『ラ・ボンヌ・ターブル』
▼『一般社団法人シェフス・フォー・ザ・ブルー』事務局
https://www.facebook.com/ChefsfortheBlue/

写真提供:PIXTA(一部)