「東京最強」のカツサンド&ポークソテーに悶絶の、池尻大橋にたたずむ洋食店

【連載】幸食のすゝめ #034  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

カテゴリ
賢人コラム
  • 東京
  • 池尻大橋
  • 洋食
  • 連載
「東京最強」のカツサンド&ポークソテーに悶絶の、池尻大橋にたたずむ洋食店
Summary
1.池尻大橋・246旧道に面した洋食店のスタッフはみなB型というのが店名の由来
2.『銀座千疋屋』で修業後独立したご主人の作る料理、まず必食はポークソテーか?
3.超人気アイドルグループの番組でも取り上げられた東京最強のカツサンドとは?

幸食のすゝめ#034、お皿のライスには幸いが住む、池尻大橋。

「ちょうど50を過ぎた時、コックコートを脱いだんです。寛いで、ビールでも飲みながら、好きな料理だけをゆっくりお客さんに楽しんでもらいたいから」。
その日から、店主の牧野強さんはトレードマークのバンダナと、“B”のロゴが入ったTシャツで厨房に立っている。初めてドアを開けた時、店にはナンシー・シナトラの「サマーワイン」が流れていた。同世代の匂いを感じながら黒板のホッピーを頼むと、「お通し代わりに!」とモツ煮が出てきた。
洋食屋でモツ煮? そう思いながら箸を伸ばすと、予めスモークされたトリッパが鼻腔をくすぐった。

洋食とはWestern food、しかし、紛れもない和食だ。限定したある国ではなく、漠然と西洋に憧れ続けた日本人の幻想が作り上げて来たユニークな食の体系。ハンバーグ、カニクリームコロッケ、生姜焼き、海老フライ、カキフライ、カレーライス。
いつの日にもそれは、庶民たちのハレの食事だった。
休日にはデパートの大食堂に行き、家族みんなで洋食を食べる。洋食はいつも、胸躍る幸福感に包まれていた。
だから、お子さまランチは今も洋食メニューで飾られている。

↑寒い時季には、やはり注文したくなるカキフライ

小5の夏、秋田のデパートで洋食を食べた時からずっと、牧野少年の夢はコックだった。洋食をやるなら、銀座しかない。上京して料理学校を卒業したら、『銀座千疋屋』に飛び込んだ。
『資生堂パーラー』『煉瓦亭』『みかわや』『千疋屋』、、、銀座は日本の洋食のメッカだった。『千疋屋』で洋食のイロハを徹底的に叩き込んだ後、池尻で独立した。最初の店は地下にあり、今も阿吽の呼吸で横に立つ同級生を初め、スタッフ全員がB型だったから“B”という店名にした。その後、かつての大山街道沿い、246旧道の路面店に移転しても店名はそのまま。
レストランではなく「洋食や」、それは牧野さんの潔い決意だ。

↑まさに阿吽の呼吸がある厨房

何を食べても後悔しないが、何を食べるべきか迷う洋食

↑ある意味、世界一と言えるかもしれないポークソテー

作り手の技量が試されるポークソテーは、人形町『キラク』の先代無き後、まぎれもなく東京一のうまさだ。それは、つまり日本一、洋食としては世界一ということになる。
たっぷり盛られた生野菜には、玉葱ベースのオリジナルドレッシング。そこに炊き立てのご飯と、具沢山の味噌汁が並ぶ。
それは世の中で最も、哀しみが似合わない風景だ。ビールか、ワインを追加して、せかせかと思い切り頬張ろう。ハンバーグかメンチカツも追加しようか、ビーフシチューも捨て難い。

洋食の頂点は東京最強のカツサンド

↑このカツサンドは「わんぱくすぎるカツサンド」として某超人気アイドルの番組でも取り上げられ、大きな話題に。現在は取材拒否なところを今回は特別に

こんがりトーストした厚切りの食パンに、肉厚の豚カツがダブルで挟み込まれたカツサンドも大人気のメニューだ。
たっぷりの野菜と、150gの豚ロース。自家製のタルタルソース、カクテルソースを潜ませた魅惑のサンドイッチは、お腹いっぱいでも食欲中枢を麻痺させる危険な逸品だ。できたてもうまいが、テイクアウトして近くの世田谷公園に出かければ最上の週末になるだろう。お土産や、差し入れに持って行けば、眩しい視線を独り占めにできるはずだ。

お子さまランチは永遠の大人の浪漫

↑ウォーホールのリトグラフが掲げられた店内

アンディ・ウォーホールのリトグラフ、ノーマン・ロックウェルの画集。マイルス・デイビスのアナログジャケット、「檀流クッキング」の単行本、3本並んだギターケース…。リラックスした店主の佇まいと、秀逸な料理。牧野さんの好きなもので溢れた店内は、お子さまランチの桃源郷だ。
洋食の定義を尋ねたら、牧野さんは即座に答えた。「お茶碗にご飯じゃなくて、皿にライス。スープじゃなくて、味噌汁に合うのが洋食」、お皿のライスには幸いが住んでいる。

↑肉じゃがコロッケと生姜焼き定食なんていうランチもいい

<メニュー>
ハムカツ630円、カツサンド1,080円、カキフライ1,200円、ポークソテー1,050円、ハンバーグ840円、
肉じゃがコロッケと生姜焼き定食950円、キリンハートランド750円、焼酎530円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

洋食や”B”

住所
〒154-0001 東京都世田谷区池尻2-10-10 谷ビル1F
電話番号
03-3424-8200
営業時間
11:30~14:00、17:30〜22:00
定休日
日曜および祝日不定休

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

関連記事

長年愛されたレストランの「イズム」を引き継ぐということ。~大井町『トラットリア ヨシダ』の場合~

【連載】通わずにいられない逸品  トレンドに流されず、一つのお店を長く観察し、愛しつづける井川直子さんにはその店に通い続ける理由がある。店、人、そして何よりその店ならではの逸品。彼女が通い続けるそのメニューをクローズアップする。

【京おんなが教える京都のツウな遊び方】ガイド本じゃ物足りない貴方のための烏丸界隈・大人のはしご酒3選

【連載】「京おんなの粋な夜遊び」第一夜 京都は三方を山に囲まれた小さな街。ここでは終電や終バスを逃し、タクシーで帰ってもさほど高額にはなることはなく、時間を気にせずはしご酒を楽しむのが当たり前。観光客仕様ではなく、京都人が日常遣いする店を今宵、地元の京都美人に案内してもらう。

「やきとん」の超名店・野方『秋元屋』の味を守り続けてきた店長がついに独立して開いた店のホンモノの味

【連載】幸食のすゝめ #047 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン
予約が取れなくなる前に急げ! 点心好きなら知っておくべき、中国料理関係者が注目する小籠包が絶品の一軒

【連載】正しい店とのつきあい方。 店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。