あなたの知らない“昭和レトロな自由が丘”で癒される、着物女将とおでんの楽園

【連載】幸食のすゝめ #038  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

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あなたの知らない“昭和レトロな自由が丘”で癒される、着物女将とおでんの楽園
Summary
1.「お洒落な街」としての自由が丘ではなく、昭和レトロの薫りが残るレトロな自由が丘
2.自由が丘駅正面口を右に、「自由が丘デパート」のさらに先にある楽園
3.着物姿の女将と語らいながら「いつものセット」で癒される

幸食のすゝめ#038、おでんの湯気には幸いが住む、自由が丘

「誰かの悪口や中傷で盛り上がる酒場より、おでんのこだわりで盛り上がる方が素敵じゃない」。客の1人から聞いたそのひと言が小さな自分の城を続けて行く自信になった。
自由が丘駅正面口を出ると、右側に突然出現する古き佳き昭和。細長く続く自由が丘デパートの1階を進んで行くと、途中で道路を1つ渡り、さらにレトロなひかり街に繋がっていく。その端っこ、線路側の2階に、藤沢佳子さんの『でんやふじさわ』がある。

かつては三島由紀夫が通ったボディビル練習場や、ひかり座という人気の映画館もあったひかり街、それに続くサンリキ商店街と自由が丘デパートは戦後のメインストリートだった。
等々力生まれで、尾山台の小学校に通った藤沢さんにとって、自由が丘は最も近い都会だった。独り身になって、働いていた広告代理店も辞め、友達と柿の木坂のラーメン居酒屋を手伝って1年。1人で店舗を探し始めた時、ひかり街の物件に出逢い即決した。
銀座から柿の木坂、そして自由が丘。少しずつ、自分が育った街に近づきながら、自分にしかできないことを探した。

とりあえず、お客に温かいものを出したかった。着物がもともと大好きだったから、店では着物を着ようと決めていた。日本酒にも惹かれていたから、優しいだしのおでん屋を開こう。バラバラのパズルを組み合わせて行くように、『でんやふじさわ』がスタートする。
おでんなら、誰もが美味しいと思う味のはずだ。ところが、スタートしてみると、おでんにはありとあらゆるだしの好みと、素材の無限のバリエーションがあった。地方出身者が集まった大都会だからこそ、その地方ならではの味をみんなが主張する。

どうしようかと悩んでいた時に出会った客のひと言に助けられ、自分のおでんを出して行こうと決めた。
唎酒師で、だしソムリエ認定のだしマイスター、代理店の営業で鍛えられた男前な話術。いつか『でんやふじさわ』は、夜が早い自由が丘の街を照らす灯台のような存在になって行く。
おぼろ昆布が載せられた大根、山椒の辛みと胡麻の風味が嬉しい昆布や、しらたき、ちくわぶなどの定番のほか、カマンベールチーズなどオリジナルの皿も人気が高い。巾着の中には、泥亀焼酎の作り手が推奨する蕎麦が忍ばされている。

だしの香りに抱擁される緩やかで自在な夜

客たちのリクエストで始まったポテトサラダにも、藤沢さんならではのこだわりがある。おでんの卵を使いブルーチーズを合わせた青のポテトサラダは、今では店の大人気メニューだ。
〆にはおでん屋ならではの、とうめしもある。おでんのだしで炊いたご飯に山椒豆腐をのっけてガパオのように和えて食べると、身も心もだんだん軽く温かくなって行くのが分かる。その瞬間こそ、『でんやふじさわ』にしかない緩やかで自在な夜に違いない。

湯気の向うには笑顔が肩を寄せ合っている

開店間際には、女将との静かな時間を慈しむように近隣の大人たちが集まってくる。終電間際になると、スーツ姿の若者たちがたくさんの恋の悩みをアタッシェケースに詰め込んで店に飛び込んでくる。おいしいおでんと美人女将の恋愛指南は、いつかひかり街の名物になっている。
かた過ぎず、やわらか過ぎず、いつも凛と和服を着こなし、おでん鍋の前に立つ藤沢さん。ここでは、外の世界より少しだけゆっくりと夜の時間が過ぎて行く。自由が丘の街を抱き締める、優しいだしの香りのパラダイス。おでんの湯気には、幸いが住んでいる。

<メニュー>
席料400円(※単品オーダーの場合)、いつものセット(ドリンク、日替おつまみ、おでん5種、席料込)1,850円、青のポテトサラダ470円、とうめし560円、各種ドリンク560円、日本酒1合840円、半合560円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

でんやふじさわ

住所
〒152-0035 東京都目黒区自由が丘1-27-2 ひかり街(踏切側入口から2F)
電話番号
03-6421-3152
営業時間
19:00~翌2:00
定休日
日・祝

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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編集者/ライター/フードアクティビスト