【連載】通わずにいられない逸品~パネッレの話~

トレンドに流されず、一つのお店を長く観察し、愛しつづける井川直子さんにはその店に通い続ける理由がある。店、人、そして何よりその店ならではの逸品。彼女が通い続けるそのメニューをクローズアップする。

2015年09月14日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • イタリアン
  • 白金高輪
  • 連載
【連載】通わずにいられない逸品~パネッレの話~
Summary
・シチリア・パレルモのストリートフード
・ビールでもスプマンテでも泡に合うスターター
・青山の名店「ドンチッチョ」出身の二人がタッグ

「ブリキ通り」のシチリア料理。

白金高輪という、地味な駅がある。白金台駅がプラチナ通りなのに対して、こちらにはブリキ通りと呼ばれる通りがあるらしい。この辺りは、かつてネジや板金や自動車修理などの町工場が多い下町だったのだ。
今は駅の真上にタワーマンションが建って、首都高速が走っていて、人通りは少なくて。そこへ忘れ物のようにぽっかり現れる四の橋商店街に、シチリア料理店ができたのは4年前である。
サービスの阿部努さんと、シェフの中村嘉倫(よしみち)さん率いるこの店は私にとって、トラットリアとかシチリアとか抜きに「絶対に楽しくなることがわかりきっている場所」だ。
まず、店に入る前からすでに楽しい気配が漏れ出している。中では人のお喋りとオープンキッチンのいい匂いとサービスのスピード感で、市場のような活気である。阿部さんはお誕生日と聞けばただじゃ帰さないし、常連が店の前を通りかかったら挨拶に飛び出して行く。元気な人のそばに行くと元気がうつるように、こちらも気持ちが自然と上を向いている。

だからつい、パネッレだけつまんで飲もう、と寄ってしまう。

もちろん誰かと一緒に行って、いろいろ食べてたくさん飲んでガチャガチャやるのが最も楽しい過ごし方なんだけれども、ひとりの時、少し遅めの時間なんかに、席が空いていればそういうことになるわけだ。

結局、「パネッレだけ」ってことはあり得ない。。。

パネッレはひよこ豆の粉を練って揚げた、スナックのようなもの。中村シェフが修業したシチリアの州都パレルモでは、市場や屋台でも売っているストリート・フードでもあるし、家庭でもトラットリアでも食べられる。形はさまざまで、平べったくて四角いのもあれば三角もあれば、スティック状もキューブ状もある。形によってホコホコした食感にも、少しトロッとした感じにもなるから面白い。
この店のパネッレは、底辺がラウンドになった三角形で、刻んだイタリアンパセリがほんのすこしだけ入っている(散らしてもある)。レモンが添えられてくるのだが、私は搾らないのが好きで、最後の2、3枚だけ気まぐれに搾ったり。
これと泡がとても合う。泡はビールでもいいし、スプマンテでもいいけど、絶対泡だ。たいていは席に着くや否や、まずはパネッレと泡を頼んで、手でつまんでホコホコしながらしゅわしゅわして、ゆっくりメニューを眺めることになる。
ありがたいことに、この店は前菜がやたら多くて、かつ自由に頼める。イタリアンだから前菜・プリモ・セコンドと順番に食べなくちゃという強迫観念は捨ててよし。中村シェフのお料理は、アグロドルチェといわれるシチリア独特の甘酸っぱい系統で、日本でいえばおふくろの味的に優しい皿。
で、結局「パネッレだけ」ってことはあり得ないのだけど。

ここ「ロッツォシチリア」は青山の名店「ドンチッチョ」で修業した同期コンビが2011年9月にオープン。中村シェフはシチリア州パレルモの「Santandrea サンタンドレア」で約3年間修業。魚介中心のメニューはすべてアラカルトとなっている。常に5種類以上ある自家製果実酒も名物。

(メニュー)
パネッレ600円、その他、アンティパストやパスタはほとんどが1,000円台、セコンドも2,000円台でいただける。

ROZZO SICILIA(ロッツォ シチリア)

住所
東京都港区白金1-1-12 内野マンション1F
電話番号
03-5447-1955
営業時間
18:00~L.O.0:00
定休日
定休日 日曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/7gjdzxk80000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

関連記事

早くも本年度フレンチ界最大のニュースに、伝説のあのレストランが街に帰ってきた

【連載】幸食のすゝめ #059 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン