極厚の牛タンを完璧に焼き上げた幸せな焼肉

【連載】肉の兵法 第二回  肉に向かうときに雑になってはならぬ。どこでどんな肉を食べるのか、組み立てるのが大人のたしなみであり、男の作法。「大人の肉ドリル」著者である松浦達也氏が旨い店の肉をさらに旨く食べるための作法を解説する。

2015年10月16日
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極厚の牛タンを完璧に焼き上げた幸せな焼肉
Summary
・「焼き」の名手から学んだタンの焼き方
・焼き方マニュアル付きの焼肉店
・厚切りならではのうまさがある

東中野の焼肉店で「極上タンの厚切りステーキ」を焼く

僕たちはもっと肉を真剣に焼いたほうがいい。焼肉店で提供される肉の種類はバラエティに富んでいる。適切な焼き加減もさまざまだし、火力や熱源もバラバラだ。ただし恐ろしいことに、焼肉はどう焼いてもそれなりにおいしく食べられてしまう。それが焼肉の懐の深さ! でもあるが、世の店主たちはわりと悲しんでいたりもする。

「客の9割が、いい加減に肉を焼く」と悲しみにくれる店主もいるし、「客に焼かせない」と自ら客席を飛び回って肉を焼く店主もいる。なんともったいない……。ほんの少し肉と向き合うだけで、焼肉は何倍もおいしくなるのに! そして焼きを鍛えれば、確実に幸肉度は向上するのに!

強引に考えてみてほしい。月に1度の焼肉が3倍幸せになるとすれば、1年間に肉で得られる幸せは36倍になる! 月に2度なら72倍で月に3度なら……という与太話はさておき、肉は間違いなくごちそうである。良い加減の焼きで食べるか、いい加減な焼きで食べるかでは、満足感に天と地ほどの差がほうがいいかは聞くまでもない。

東京・東中野に「慶州」という焼肉店がある。家族経営の街場の焼肉店だ。が、ただの街場の店ではない。コチュジャンは自家製。そのコチュジャンを使ったすじ煮込みはすじ肉をトロトロになるまで煮込んだもの。オイキムチはここ以外では味わえない素材の合わせなのだが、何よりもここには厚さ2cmの「極上タンの厚切りステーキ」がある!

厚切り肉を客に焼かせてくれる店は少ない。厚切りや塊肉に火を通しすぎるとかたくなる。逆に「ナマ」と「レア」を混同して、タタキのように仕上げると万人向きにはならない。ベストの焼き加減を体得するのに、この店の厚切りタンはベストと言っていい。

まず、タンはイメージよりもはるかに脂が多い。だから、中がレア過ぎると脂のクドさが舌に残る。かといって、火を入れ過ぎると当然かたくなるから世の厚切りタンには、下包丁が入っている。食べやすいが、どこか寂しくもある。だがこの店の厚切りタンに包丁は入っていない。つまり焼きさえ間違えなければ、ザクザクとした、あのタンの歯ざわりが存分に楽しめるのだ。

以前、某『dancyu』誌の焼肉特集の取材時に、焼きの名手として知られる銀座バードランドのご店主、和田利弘さんに厚切りタンの焼き方を教わったことがある。そのときの手法は、「両面をパリッと焼く」→「皿にとって休ませ、肉全体に熱を回す」→「最後にもう一度表面をパリッと焼き上げる」というもの。厚さ2cm以上ある「慶州」の厚切りタンの場合、このセットを何度か繰り返すことになる。

ちなみにこの店でタンを注文するとついてくる"焼き方マニュアル"では、両面を焼いた後、ハサミでタンを棒状にカットして断面を焼く。いずれも肉の中心まで加熱するための手法だ。が、ここは途中で切らずに「両面を焼いて」→「休ませる」を繰り返して、表面こんがり、内部は均一なロゼ色を目指したい。

焼肉とはコース料理である

焼肉は肉料理をメインとしたコース料理である。今日のメインは厚切りタンだとして、「慶州」での組み立てを考えてみる。地域密着型の焼肉店なので、盛りのいいメニューが多い。実は1名客も結構いるのだが、メニュー数も多いので最初は2名以上でわいわいやりながら組み立てたい。

たとえば3~4名ならば、キムチ盛り合わせにナムル盛り合わせ。それに「慶州すじ煮込み」に「慶州サラダ」あたりの店名由来のメニューで脇をがっちりかためたい。ちなみにこの店のオイキムチ、驚きのオレンジ入り。まさかの柑橘に初見時には「キャロット・ラペか!」と口走りそうになったが、和風味の漬け込みにバッチリ合うのでぜひ一度試されたし。

肉はメインのタンが厚切りの塩味。となれば、異なる食感と味つけのものを数種選びたい。両面をサッと炙る牛レバーの炙り焼きに比較的早く焼きあがる生ハツ焼き。味と食感を変えるために、あっさりタレ味の牛ロースの炙り焼きも加えておこう。そして焼肉らしい肉として、牛ハラミ焼きも欠かせない。上にするか並にするかは気分や財布とご相談。「やっぱりカルビ!」という方もこのあたりで。

悩ましいといえば、スープ。澄んでいるのに、骨つき肉がたゆたっているコムタンにするか、自家製コチュジャンの効いたテグタンにするか。ライスはハラミのあたりで頼むとしよう。

焼肉とは火加減である

「慶州」の熱源は少し変わっている。土台は丸型のガスグリルだが、その上に炭が配されている。火加減は何度か調整に来てくれるので、お任せにすると中火→強火→中火→中弱火という流れになる。詳細は、着火直後の第一段階は「炭火を緩衝材とした、ガス全開」(中火 ※ただしムラアリ)。当然炭火が熾きるので次が「ガス全開+炭火」(強火)。その後、ガス火を弱めに来てくれて「ガス中弱火+炭火」(中火)。最後にガスを止めて「炭火のみ」(中弱火)となる。注文次第で調整はしてくれるが、これが基本的な流れとなる。

最初、火が不安定な段階では、じんわり火を入れたい生ハツなどから入りたい。厚切りタンもこの段階で網に乗せてOK。くれぐれも表面を焦がさないよう火が比較的弱いところを選んで網に置く。

炭火が熾きてきたら、他のホルモン類や軽く焼き目をつけたいロースの炙りなど火が強いところでサッと焼く。厚切りタンは両面に薄く焼き目がついたら、一度皿にとって指先でかたさを確認。最初はやわらかかった肉が、温度が上がると内側からグッと押し返すような弾力がついてくる(慣れればトングでも確認できるようになるが、最初は指で温度と弾力の関係を覚えたい)。この行為をいやがるような相手とくれぐれもこの店……というかそもそも焼肉に行ってはならない(重要)。

炭火が完全に熾きたら、ハラミなどタレ味の赤身肉をジュワッと行きたい。甘辛いタレの肉が、こげ茶色の焼き目と香ばしさをまとうとどうして、こんなにもごはんがほしくなるのか。4人いればたいていここで2人から「ライス!」の声がかかる。

火力が最高潮になったら、タンとの格闘もいよいよ本番。この頃には、皿と網の上を何度か往復させた厚切りタンも佳境に差し掛かっているはず。片面数秒を目安にひっくり返しては皿に取る、を繰り返す。表面が飴色になり、肉が膨張したように丸みを帯びて来たら、あとは火が入るのが早いので、焼き過ぎないよう、要警戒。ここまで来たら引き上げどきは好みの加減だが、表面の泡が小さくなって来る頃がひとつの目安。くれぐれも焦がしすぎぬよう、薄い焼き目を塗り重ねるようなイメージで焼きあげたい。

肉焼きとは「表面に香ばしい焼き目をどうつけるか」と「見えない内部をどうあたためるか」という無限の組み合わせから、一瞬を切り取ることだ。厚切り肉という中の見えない大山を陥落させれば、薄切り肉は攻略したも同然。大は小を兼ね、厚は薄をも兼ねる(?)。この厚切り肉を好みの加減に焼くことができれば、まさに百店……いや百戦危うからず、である!(たぶん)

・本日の兵法
厚切り肉は、内を温めるように焼くべし!

<メニュー>
自家製ナムル(盛り合わせ)550円、オイキムチ460円、慶州すじ煮込み590円、慶州サラダ630円、極上タンの厚切りステーキ2480円、生ハツ焼680円、牛レバーの炙り焼830円、牛ロースの炙り980円、牛ハラミ焼き790円などのほか、メニュー多数。持ち帰り用自家製コチュジャン500円。2時間半のフリードリンクでの宴会コースは5000円(!)から。

※松浦達也さんのスペシャルな記事『高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった』はこちら

焼肉名菜 慶州

住所
〒113-0034 東京都中野区東中野5-3-3 第10東京ビルB1 F
電話番号
03-3364-1728
営業時間
17:30~24:00(23:00LO)
定休日
定休日 火曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/345j7bc40000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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Yayoi Shinya
フリーライター