野菜嫌いの子供時代
自分が食について考える時、どうしても好き嫌いが多かった子供の頃を思い出します。好き嫌いが激しかった事が私の人格形成とシンクロしてしまったからです。どれくらいの好き嫌いかと申せば、食べられるものが御飯と海苔と醤油と削り節程度。他のものは食べない。頑なに拒否。幼稚園の頃までは鋼鉄の意志を持って自らの食の自由を守り抜きました。これが小学校に入学して給食と相対した時に私の暗黒時代が始まるのですが、それはまたいつか別の機会に。
中華にも洋食にもなる逸品
私の好き嫌いがなぜそんなに容認されて矯正されなかったか。それは私の父親が私と同様に物凄く好き嫌いのある人物だったからです。まず野菜は一切食べない。炒め物だろうが煮物だろうが生野菜だろうがとにかく野菜は全てアウト。私が覚えている初期の我が家の食卓に野菜はほぼ見当たりませんでした。葉物だけでなく根菜系もダメ。特に嫌われていたのがサツマイモ。
昭和4年生まれの父は戦時中に食べ物がなくて、芋本体でなくその葉やツルを食べさせられて、それで受け付けなくなってしまったそうです。それこそ身の毛がよだつくらいに大嫌いだと申しておりました。キュウリなどの瓜系もやはり嫌い。派生してメロンなどまで拒否権発動。そう云えば果物も殆ど食べません。その上に食が細いときていますから初期の我が家の食卓はシンプル至極。
好き嫌いが全くなかった母親にしてみればもっと色々食べたかったのでしょうが、野菜と云えばテーブルの隅っこの方に白菜の漬け物がある程度に自粛。親がこれなら子供はその有様をコピーして野菜NOになるのは当然です。父子で野菜反対タッグを組んで闊歩しておりました。野菜なんて要らない、世の中からなくなってしまえば良い。そんな事を思っていた私が、年齢50歳を過ぎて好き嫌いが全くない人間になるとは夢にも思いませんでした。ちなみに父親は今でも変わらず野菜完全拒否継続中。好きなものだけ食べてまだまだ元気です。
そんな父親が好き嫌いの多い私に時折作ってくれたのが、ヤキメシ。「ヤキメシ、作ってやろうか」と云われるととても嬉しかったのを思い出します。具はゼロ。ネギや卵なんてナシ。ご飯をフライパンで炒めて、醤油と化学調味料で味付けしただけのヤキメシ。これがべらぼうに美味しかったのを今でも覚えています。
もしかしたら何度か卵が入っていたりタマネギのみじん切りが入っていたりした事もあったかも知れません。それでも私は多分拒否せずに食べていたと思います。ヤキメシこそが私の御馳走の最高峰。ヤキメシである事が大前提で細かい事はスルー。私の好き嫌いなんてその程度の食べず嫌い。父親の食べて受け付けなくなったと云う筋金入りの好き嫌いとはランクが違います。それはともかく父親のシンプルこの上ないヤキメシの味が私の味覚の根底になっているのは間違いありません。今でもヤキメシと云う文字を見ただけでワクワクします。
そんな私が現時点で世界最高であると吹聴しているのが、神戸三宮の『天一軒』のヤキメシ。父親が作ってくれたのとは全く違うタイプです。全体的に汁気が多くぺとぺとしているヤキメシ。ご飯粒がパラパラと炒まっているのが評価の基準ならば、このヤキメシは論外。しかし、味は最高に美味しい。深い旨みがご飯にしっかり寄り添っている。いつ食べても何度食べても美味しい。心から感動して目を閉じ身悶えしてしまうくらい、私の魂に深く響く味わい。
初めて食べて衝撃を受け、何年か食べ続けた後に、他のお客さんから「ソースかけて食ってごらんよ」と云われ、卓上のウスターソースをかけて食べてみたらあら不思議。中華の味わいが品格高い洋食の味わいに早変わり。鬼に金棒、帰ってきたウルトラマンにウルトラブレスレット。こんなにウマイモノが世の中にあるのかと店の外に出て大声で叫びたかったくらい。世界の中心でヤキメシがウマウマウーと叫んだ私。これからもウマウマウーと叫び続けます。美味しかったです! 御馳走様でした!
天一軒 (テンイチケン)
- 電話番号
- 078-241-6408
- 営業時間
- 18:00~22:00
- 定休日
- 定休日 水曜
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