中野駅からスグ! バードランド出身シェフが作るセンベロも可能な上海家庭料理

【連載】幸食のすゝめ #021  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2016年06月27日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • 中華料理
  • 中野
  • 東京
  • 連載
  • センベロ
中野駅からスグ! バードランド出身シェフが作るセンベロも可能な上海家庭料理
Summary
1.焼鳥の名店『バードランド』で17年間店主の右腕として活躍
2.飾り気のない、そのままの上海家庭料理
3.化学調味料を使わない素材の味を引き出した優しい味わい

幸食のすゝめ#021、家族の食には幸いが住む、中野。

「マスター、どんどん美味しいもの持って来て!今日、初めての食事なの」。近くの病院の女医さんたちが乾杯のビールを飲み干しながら、厨房に向かってオーダーする。
「先生、それ大丈夫?患者さんには、ちゃんとご飯食べなさいって言ってるんでしょ、毎日」。厨房から身を乗り出して、マスターの蔡さんが笑い声混じりに応える。冷蔵庫からワインを選んでいたママの王さんも、静かに微笑む。
蔡祭食堂は今日も、明るい笑顔で満たされている。

1988年、工場の研究所に勤めていた蔡さんは、バブル直前の東京に家族を残し1人で来日、異国での甘い成功を夢見た。ある日、日本語学校通学のため通う阿佐ヶ谷駅への道で「従業員募集」の貼り紙を見つける。それが、すべての物語の始まりだった。店の名は『バードランド』、現在は銀座に店を構える焼鳥界の頂点だ。もちろん、応対した店主は和田利弘氏、後日、蔡さんはもう一度バードランドに呼ばれ、正式に採用が決まった。17年続くバードランドでのフロア係のスタートだった。やがて、和田さんの片腕になった蔡さんは上海から妻と息子を呼ぶ。

「何でもやったよ、焼鳥以外は。お客のサービスから皿洗い、掃除。でも、いちばん評判良かったのは従業員たちの食事、店の賄いね。私が賄い作ると白いご飯がどんどん減って困るって、いつも和田さん笑ってたよ」。
やがて、店は『すきやばし次郎』の隣りに移転。予約が取れない繁盛店に成長していく中、50歳を目前にした蔡さんは独立を決意する。蔡さんの味覚のセンスを見抜いていた和田さんも「料理店をやってみればいい」と賛成してくれた。上海そのままの蔡家の食堂、『蔡菜食堂』の始まりだ。

『蔡菜食堂』で出てくるものは、どれも上海の家庭料理。蔡才生さんと王梅玉さん夫妻が子どもの頃に食べていた、懐かしい味のおかずたちだ。大人たちは酒のつまみとして、子どもたちはご飯のおかずとして、仲良くみんなで1つのテーブルを囲み合う。だから、『蔡菜食堂』にはいつも、蔡家に招かれたような幸福がある。お客たちはまず、乾杯の酒と、ひと皿500円のおつまみセットを頼み、これから始まる温かい時間をワクワクしながら待っている。ホワイトボードに書かれた本日のおすすめのほか、定番の「ねぎワンタン」や「トマト卵炒め」、旬の野菜を使った「青菜炒め」も絶対に外せない。とにかく、何でもないメニューがとんでもなく旨い。

中央線が繫いだ国境を越えた尊敬と友情

上海料理の定番ばかりではない。「アンチョビーカレーポテトサラダ」や「鶏のレバーパテ」、〆の人気メニュー「ナンプラーとアンチョビーの焼きそば」と、中華料理店では珍しいものも並ぶ。

どれも、未だに蔡さんのことを気にかけて店を覗いてくれる恩師、和田さんのアドバイスで生まれたメニューだ。白はオーストラリアの「ワマデウス」、赤はポルトガルの「ワチャマンボ」と、中華や和食に特化して選ばれたワインのセレクト。いくらでも飲めてしまう甕出しの紹興酒も、和田さんが選んでくれたと言う。阿佐ヶ谷で結ばれた、国境を越えた師弟愛は今も綿々と続いている。

胃袋とハートを温かく包み込む家庭料理

「もともと私は料理人じゃない」と謙遜する蔡さんの料理は、どれも身体にも心にも優しい。化学調味料は使わず、砂糖もほとんど入れないで、素材本来の甘みや酸味を引き出した季節の野菜たっぷりの料理。中華では常識の油通しではなく、軽い塩で色留めして湯通しすることで、野菜本来の旨みを残す。

油を控えた薄味のメニューはいくらでも食べられるし、毎日通っても飽きない味だ。紹興酒を飲みながら何度もまばたきをしていると、「眼の疲れにいいから!」と青菜炒めのキクラゲを増やしてくれる。2人の気配りと笑顔の中、客たちはいつか蔡家の家族になったような至福に包まれて行く。家族の食には、幸いが住んでいる。

<メニュー>
おつまみセット 500円
ねぎワンタン 400円
青菜炒め 850円
トマト卵炒め 1,000円
ボトルワイン 3,500円
甕出し紹興酒 ボトル 2,300円/グラス600円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

※森一起さんのスペシャルな記事『幸食秘宝館・武蔵小山、グルメランキング上位には載らないホントウの名店3軒を巡る』はこちら

蔡菜食堂(サイサイショクドウ)

住所
〒164-0001 東京都中野区中野3-35-2
電話番号
03-5385-6558
営業時間
17:00~L.O.22:30
定休日
定休日 日曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/k3f1hj4n0000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。